連載:「売る仕組み」を作るインサイドセールス活用術
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インサイドセールスというと、一般的に「アポ取り」や「営業サポート」というイメージが強い。だが、インサイドセールス発祥の地である米国などでは、インサイドセールスは専門職としてキャリアパスが確立されており、その役割やミッションがしっかりと定義されている。そして、その定義に基づいて考えると、インサイドセールスは実は日本企業の商習慣や文化と非常に親和性が高く、大きな効果が期待できるのだ。今回はそんなインサイドセールスの役割とミッションについて、発祥から現在までの経緯、そして海外と日本の対比を踏まえてその有用性を説明する。
インサイドセールスとは何か
近年、日本で認知され始めるようになったインサイドセールスは、どのようなミッションを負っているのか。
インサイドセールスは、すでに企業内にある見込み顧客のデータベース(コンタクトデータベース)の情報を基に、電話やメールなどコミュニケーションの接点を獲得して、顧客の状態を知ると共にニーズを喚起する有用な情報提供や価値訴求を行う。そして、商談成立の確度が高まり「Sales Ready」の状態になったら、実際に顧客の元を訪問し、クロージングに向けた営業活動を展開するフィールドセールスにその情報を渡す。
セールスプロセスのスタートから、受注までのプロセスを図式化すると、下図のようになる。このうち、肌色で囲んだフェーズが、インサイドセールスの担う分野だ。
インサイドセールスは営業案件化する以前のマーケティングフェーズから、具体的な商談クローズに向けた営業活動の起点までを担うため、「マーケティングなのか、営業なのか、どちらの管轄が適しているのか」と悩む企業も多い。これについては、インサイドセールス部門として独立している場合もあれば、マーケティング部もしくは営業部内に設置されるケースもあり、その商材や商談プロセスの特徴に応じて最適な部門編成を行うことが一般的だ。
インサイドセールス発展の歴史
そもそもインサイドセールスは1950年代からスタートしたテレマーケティングの進化系として、1980年代から1990年代にかけて英米で発展した。特に国土が広大な米国では、対面営業ではカバーしきれず、電話によるテレマーケティングが進化したという背景がある。そして1990年代後半に、Webやメールが登場したことで、対面ではない営業スタイルが徐々に広まっていき、インサイドセールスという専門職として認知されるようになった。
2000年代に入ると、インサイドセールス専門ベンダーが多く登場し、インサイドセールスに特化したキャリアパスも確立されてきた。そのためインサイドセールスといえば、「物理的にオフィスから離れずに行う営業活動のこと」や「わざわざ対面することなく、電話やオンラインを通じて製品やサービスをセールスすること」などと定義されている。
海外と日本で異なるインサイドセールスのやり方
このように、欧米ではすでにインサイドセールスの割合は増え続けており、今後も増加傾向にある。2017年に米Forbes社が発表した調査「2017 Sales Trend Research:Inside Sales vs. Outside Sales」によると、売上高5億ドル以上の企業は、全営業担当者のうち、実際に客先に足を運ぶフィールドセールスの割合は71.2%、インサイドセールスは28.8%となっており、1年後にはインサイドセールスが30.2%まで増えると予想されている。
リテール業を除く市場全体で見れば、フィールドセールスは56.5%で、インサイドセールスは43.5%と、その割合はイーブンに近くなりつつある。役割と職務を定義し、すみ分けができているわけだ。そもそも、フィールドセールス自体、45%の時間は電話に費やしており、電話営業というスタイルは営業活動の中で当たり前というところが多い。
欧米の場合、企業の代表番号に電話をすると、部門長など高役職者の氏名や直通の電話番号を気軽に教えてくれることが多い。これは、電話に出るかどうかの判断は当人次第という考え方が強いためで、日本企業のように、ゲートキーパーによる「ブロック」はあまりない。
しかし、教わった直通電話番号に連絡をしても、本人が出てくれる可能性は限りなく低く、大抵ボイスメールにつながり、メッセージを残して折り返しの電話を待つこととなる。インサイドセールス専門ベンダーの中には、「返事が返ってくるような、素晴らしいボイスメールの残し方」というシナリオ作成ソリューションもあるほどだ。
またLinkedInなどのSNSが発達しているため、ターゲットする担当者にアプローチしたい場合、電話でなくSNSを使うことが多いのも欧米の特徴だ。下手に電話だけをかけ続けても、「コネクションを作る労力を割かず、ただ電話するだけは失礼」ということで、頑として受け付けないという担当者もいる。同様の理由で、一方的に時間を割かれる電話より、「読むかどうか」や「いつ読むか」を当人が判断できるメールのほうが、ファーストコンタクトの手段として好まれる国もある。
これに対し、日本では個人に直通電話番号がなかったり、あったとしても簡単には開示してくれない。また、スペシャリスト重視の欧米企業と異なり、部門名と役職名から職務を推測しづらく、電話の受付担当者が、「適任者に取り次ぎたくても誰に取り次げばよいかわからない」というケースもある。そのため責任範囲の広い上位の役職者へアプローチしようとするが、役職が高くなるほどゲートキーパーの数も多く、なかなかたどり着けないというジレンマもある。比較的、電話番号が入手しやすく直通電話で本人にアプローチできる欧米に比べ、キーパーソンの受話器を鳴らしたり、メッセージを送るまでのハードルはかなり高い。
そんな中、同じ「電話を使う」業務だからといって、日本の法人が海外のインサイドセールスの活用事例を参考に、やり方やKPI設定を適用し、ビジネスにおけるコミュニケーションの手段や考え方の違いに思わぬ苦戦を強いられるケースは少なくない。
【次ページ】 インサイドセールスとフィールドセールスの違いとは? 実は日本の商習慣はインサイドセールスに向いている
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