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- 2021/02/03 掲載
「消臭力」CM生みの親が語る、顧客行動を理解するシンプルな“1つの方法”
顧客自身も気づいていない「水面下の心の声」を聞く
エステーのクリエイティブディレクターとして、「消臭力」などのCMで社会現象を巻き起こした鹿毛氏。2020年6月に独立後、現在もエステーを始めとした各社でクリエイティブディレクターを務めている。同氏は顧客コミュニケーションの大前提として、「人の心に触らせてもらう」というキーワードを挙げる。
「人の心というのは氷山のようなもので、本人が意識しているのは水面に出ているごく一部の顕在化したところだけです。私たちは、むしろその水面下にある、お客さま自身も気づいていない心の声に耳を傾けなくてはなりません」(鹿毛氏)
そこで必要なのが、「人は経済合理性だけでは動いていない」と知ることだ。マーケティングに携わる立場にいると、調査項目や数値の分析で顧客のニーズが見えると思いがちだ。たとえば、ユーザーが関心を持つ事項に「機能」が多ければ、機能強化が差別化のポイントだと結論づけてしまう。だが、実際はそんな短絡的な話ではないと鹿毛氏は指摘する。
「もちろんデータとして顕在化している情報も重要です。しかし、正解は1つではありません。商品の機能も、ブランドの認知も、背後にある世界観も、すべてが正解であり、それらが最適かつ緊密に組み合わさった世界を構築することによって初めて、お客さまにメッセージが伝わります。そこで私自身が、その考えに即して実践してきたCM企画の例をいくつかお話したいと思います」(鹿毛氏)
あの「消臭力」のCMはどう生まれた?
鹿毛氏が「人の心の声を聞き、そのツボに触れるコミュニケーション」を試みて成功した最初の例は、2011年の東日本大震災直後にオンエアされたミゲル少年と西川 貴教氏が出演する「消臭力」のCMだった。人気アーティストの西川 貴教氏とポルトガルの少年ミゲル君の「夢の競演」が、震災後の沈んだ空気を吹き払ったこのCM。制作のきっかけは、鹿毛氏が人々の心の声を「笑いたい(日常に戻りたい)」と捉えたことだと明かす。ロケ地となったポルトガル・リスボンの街を背景に流れる明るい歌声が、震災で沈んだ視聴者の間に大きな反響を呼び起こし、Twitterには称賛や同意のツイートがあふれた。
2つ目の例は、新型コロナウイルスが日本にも押し寄せてきた2020年3月だった。コロナ禍から日常に戻るために人々が自分に我慢を強いている中、「空気を変えるぞ」と呼びかけるCMは広く共感を呼び、今回もTwitterにさまざまなリアクションが寄せられた。
「この他にも、私が担当している『ベスト個別学院』という学習塾のCMでは、コロナ禍で学校に行けない子供たちに向けて『大丈夫だよ』と呼びかけました。さらに学校再開後の8月には、勉強の遅れに焦る子の『助けて』という心の叫びに応えて、『一緒に計画立てようか』というメッセージを打ち出したりもしました」(鹿毛氏)
いずれの事例でも、鹿毛氏は人々の心の叫びに耳を傾けることに徹し、いわゆる数値マーケティングなどは行わなかった。だがそれが正解だったことは、コロナ禍で前年比42%まで下がった学習塾の入塾率が、「大丈夫だよ」のキャンペーン後に158%まで急速回復。そのまま伸び続けて12月時点では、217%まで成長している事実からも分かる。
「人は、経済合理性だけでは動いていません。もちろん経済合理性も必要ですが、その根底にはやはり心が不可欠です。人は愛や共感がなければ生きていけないという当たり前のことに改めて目を向け、お客さま自身も気がつかない心の声を聞き取り、そこに触らせてもらう。それが、常に私の広告づくりの基本になっています」(鹿毛氏)
【次ページ】人の行動を理解するには? シンプルな1つの方法
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