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  • 2019/03/01 掲載

「ロボットは単体ではなくシステムへ」RRI 水上潔氏に聞く、第四次産業革命の行方

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2015年5月に発足され、政府の「ロボット新戦略」をベースに、民間主導で設立された「ロボット革命イニシアチブ協議会(RRI:Robot Revolution &Industrial IoT Initiative)」。さまざまな取り組みを進めてきたRRIだが、発足から4年弱が経ち、その成果も見えてきた。そこで、RRIでインダストリアルIoT推進統括などをつとめる水上 潔 氏に、RRIの成果と第四次産業革命をはじめとするものづくり産業の行方などについて話を聞いた。

聞き手:編集部 松尾慎司、執筆:井上猛雄、取材協力:福本 勲

聞き手:編集部 松尾慎司、執筆:井上猛雄、取材協力:福本 勲

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ロボット革命イニシアチブ協議会(RRI)
インダストリアルIoT推進統括
水上 潔 氏

経済産業省やドイツと歩んできたRRIの5年間の軌跡とは?

――RRI設立から4年弱が経ちました。これまでの流れと成果をどうご覧になっていますか。

水上氏:もともとRRIの対象は、狭義のロボットをイメージしていたと思います。やはり日本では産業機械のマーケットが大きかったからです。ただIEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)が、「スマートマニファクチャリング」(注1)を議論することになり、業界でも話題になり始めていました。

注1:デジタル技術を活用し、工場の製造データ連携や生産技能の伝承、付加価値の向上など、製造業の生産性向上を目指す取り組みが「スマートマニファクチャリング」。

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 ちょうど私自身も、日本電機工業会が主催するイベントで実行委員長を仰せつかり、どんな展示会にすべきかを検討していたころです。外資系メーカーにヒアリングすると「実は世の中で、いま大変なことが起きている」という強い印象を受けましたが、まだ我々も「インダストリー4.0」の理解はあまり進んでおらず、情報収集の段階でした。

 2015年には日本のマスコミも「第四次産業革命」の特集を大々的に組み、製造業の観点から、ロボットのみならず、インダストリー4.0にも注視すべきということになり、政府の日本経済再生本部が「ロボット新戦略」を打ち出しました。

 ロボット新戦略では工場自体もロボットであり、自動運転車もロボットと捉えていました。センサで情報を取り、ビッグデータを蓄積し、何かをコントロールするということも含めて、日本として「ロボット革命」というブランドで発信を始めたわけです。これがRRI発足当時の背景です。

 そういう意味で、RRIでは最初に第四次産業革命について議論する「IoTによる製造ビジネス変革WG」ができ、そのあとにロボットの社会実装をテーマにした「ロボット利活用推進WG」と、ロボット技術の進化を目指した「ロボットイノベーションWG」が立ち上がりました。

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RRIは、Industrie4.0など製造ビジネスの変革をテーマとした「IoTによる製造ビジネス変革WG」、ロボットの社会実装をテーマとした「ロボット利活用推進WG」、ロボット技術そのものの進化を目指す「ロボットイノベーションWG」によって活動を推進中

 当時、経産省と現状を整理し、その課題についてあぶりだそうということになり、中間取りまとめとして公開しました。まだ方向感が定まらなかった中、すでにドイツのほうが先行していました。そこで2016年からドイツと政府間やイニシアティブ同士で連携協力が始まり、翌年に「ハノーバー宣言」が採択されたのです(注2)。

注2:2016年4月に次官級での「IoT・Industrie4.0協力に関する共同声明」が締結。その後、2017年3月には閣僚級へ格上げされ、「サイバーセキュリティ」「国際標準化」「規制改革」「中小企業支援」「研究開発」「プラットフォーム」「デジタル人材育成」「自動車産業」「情報通信分野の協力」という9項目の協力を進める「ハノーバー宣言」が採択。

 もともとドイツでは製造業がしっかりと根付き、機械・電気・自動車などの産業構造が日本と近かったので、経産省も注目を始めたのでしょう。ドイツと一緒にやる方向性が決まり、そこで明確になったことが国際標準活動などへのコミットメントでした。

国際標準に向けた提案で日本はプレゼンスを発揮

――では、インダストリー4.0の国際標準化に関わる主な活動について教えてください。

水上氏:まず国際標準に関してはデジュールとデファクトを分けて考える必要がありました。端的な構図では、米国とドイツが標準を争っているように見えますが、それぞれの視点でみると、この分野は異なるドメインが多くて世界も異なっています。

 もともとドイツにはハードウェアと世界をつなげる「スマートグリッドモデル」があり、その発展形としてインダストリー4.0の参照基準に相当する「RAMI4.0」(Reference Architecture Model Indutrie4.0)を提唱しました。一方、米国のIIC(注3)のほうは、産業・企業のネットワークを相互に結ぶ情報系の「Industrial Internet」(注4)の概念のなかで、「IIRA」(The Industrial Internet Reference Architecture)を提唱したのです。

注3:2014年3月にGE社などが発起人となり、ネットワークをつなぐ標準化団体「Industrial Internet Consortium(IIC)」が活動を継続している。

注4:米国では、産業間・78企業間・事業所間などの相互をネットワークで結ぶ「Industrial Internet」という概念が提唱されている。

 日本の場合は、デジュールとしてのスマートマニファクチャリングの活動を通じて、国際的なプレゼンスがあります。IEC(国際電気標準会議)やISO(国際標準化機構)で、しっかりと意見を言える人が参加しています。その成果としては「URM-MM」(注5)が挙げられます。これは先ほどのRAMI4.0やIIRAといった目的の異なるアーキテクチャを見るための仕組みです。日本が両者の考え方を整理する軸を提言できたことは大きな評価につながりました。

注5:「URM-MM」(Unified Reference Model - Map and Methodology)。各国が示すリファレンス・アーキテクチャモデルのマッピングや、すり合わせを進めるために、日立製作所が提唱した国際標準記法。

 やはり国際標準化を行うには、どうしても時間がかかります。たとえば、フィールドネットワークだけを見ても18個の標準もあり、近年はマルチ標準で複数あることが当たり前の状況になっていますし、それを拒否する理由も現実的ではありません。そのような状況で、今後どうやって整理していくかという議論になっているのです。

着実に一歩ずつ進むドイツの政策を日本も見習うべき

――ドイツとの連携のなかで、何か見えてきた学びのようなものはありますか?

水上氏:最近わかり始めたことは、ドイツの基本思想は、まさにアーキテクチャ冥利のもので、産業変革を起こそうということです。日本とはその辺りに大きなギャップを感じます。

 ドイツが考えていることは非常に理にかなっています。「CPS」(注6)も、巨大なコンピュータパワーを使える現段階ではリーズナブルな考え方です。新しい方法論で次世代の産業界をどう変えるべきか、相当しっかりと考えています。インダストリー4.0のの提唱者であるカガーマン氏(注7)は、次の産業構造を提示しています。ポイントは、デジタル化で中抜きになる世界に向けて踏み出すための構造化です。このような議論が2000年代から始まっていました。

注6:Cyber-Physical Systemのこと。センサやデータなどのリアルな情報を集めて、生産現場などの分析や解析を行い、機械・人・社会に反映させるシステム。CPSは、IoTの1つの活用形態という見方もできる。

注7:ヘニング・カガーマン氏は、SAPの元会長兼CEOで、インダストリー4.0の提唱者で、ドイツ技術科学アカデミーの会長。同氏は、「Industrie 4.0 Platform」にも参画し、「戦略的イニシアチブIndustrie 4.0実装に向けた提言」を筆頭著者として発表。

【次ページ】製造ビジネスとロボットに関するRRIの取り組み

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