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  • 2019/05/30

なぜ日本では世界的ヒットのアメコミ映画が当たらないのか? (2/2)

稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」

オタクカルチャーからの脱却を目指すアメコミ映画

 しかし、さらに数年前の状況を思い出して気づいた。まだMCUが現在に連なるシリーズとして製作されていなかった頃、2002年・2004年・2007年に三部作として公開されたアメコミ原作の『スパイダーマン』は日本で大ヒットしたはずだ。調べてみると興収は75億円、67億円、71.2億円。現在のMCUのどの作品よりもヒットしている。

「それは、アメコミヒーローのなかで『スパイダーマン』の主人公ピーター・パーカーが数少ない10代の“少年”だからです。日本人に受け入れられやすかったんですね。

 もっと言うと、その三部作の頃のピーターはクラスの体育会系の生徒からいじめられていましたが、MCUの流れを汲む2017年公開の『スパイダーマン:ホームカミング』のピーターは、そんなキャラクターではありません。さらに2018年公開のCGアニメ『スパイダーマン: スパイダーバース』の主人公 マイルス・モラレスになると、むしろイケてるティーンです。これが何を意味するかというと、アメコミカルチャーがオタク文化ではなくなり、娯楽のメインストリームになったということなんです」(宇野氏)

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(出典:パイ インターナショナル 報道発表)
 日本であれアメリカであれ、何かを原作にした映画は、まずその原作ファンを観客として設定するのが定石だ。

 少女マンガ原作なら女性読者を、時代小説ならおじさん読者を観客に想定し、その観客が感情移入しやすいパーソナリティを主人公に与える。

 2002年時点のピーター・パーカーは内気ないじめられっ子だった。これは当時のアメコミカルチャーが、まだオタクカルチャーを引きずっていたから。体育会系にいじめられる内気なオタクと観客層の中心である内気なアメコミファンを重ねているというわけだ。

「今や図式的な“スクールカースト”をエンタメの題材として扱うのが古臭くなっています。なぜなら、スクールカーストというのは同質化した集団内における差異化から生じるものだから。現代社会って、ある集団が同質であるはずがないという前提じゃないですか。ジェンダー的にも、人種的にも、宗教的にも」(宇野氏)

 先ほど宇野氏が説明した「現実社会で起きていることを反映する」そのものだ。

「もういい加減、アメコミやSF映画を、サブカル的・オタク的な文脈から解き放たなきゃいけない。僕は常々そう思っているんです」(宇野氏)

アメリカはPC要素に反応が良すぎる

 サブカル的、オタク的文脈からの脱却。それを念頭に置いて一連のアメコミヒーロー作品を鑑賞すると、妙に“政治的主張”が強いと感じる瞬間がある。

「現実社会で起きていることの反映という意味では、アメリカではPC(ポリティカル・コレクトネス/政治的正しさ)を盛り込んだ作品に対する感度が、日本より段違いに高いということは考慮しなくてはなりません。それはアメコミヒーロー映画のような娯楽作も同様で、主演ほか登場人物の大半が黒人である『ブラックパンサー』や、パワフルな女性が活躍する『ワンダーウーマン』『キャプテン・マーベル』にも如実に現れています」(宇野氏)

 たしかに上記作品ほかMCUの最近作には、ダイバーシティ、ジェンダー配慮、#MeToo、反トランプ、反グローバリズムといった、リベラルな世論を反映したと見受けられるシーンやセリフが目につく。

「ただ、アメリカはその感度の高さがちょっと極端でもあります。だって『ブラックパンサー』(全米興収7.0億ドル)のほうが『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(全米興収6.8億ドル)よりヒットしている状況って、普通に考えたらおかしい(笑)。後者はシリーズの集大成的な作品なのに」(宇野氏)

 PC的なモチーフに対してアメリカは反応が良すぎ、日本は悪すぎる。アメコミに限らず、特定の作品で日米の温度差が激しいことの背景には、そんな国民気質の違いがあるのかもしれない。

「盆と正月が同時」に来た2019年

 さて、本稿ではここまで意図的に避けてきた話題がある。2019年4月26日に公開されたMCU最新作『アベンジャーズ/エンドゲーム』だ。MCU22作の総決算的な内容というだけあって、全米興収は5月27日時点で8.0億ドルと早くも歴代MCU最高興収をマーク。そればかりか、全世界興収は26.9億ドルと、映画興行史上歴代最高の世界興収を記録した『アバター』(09年公開)の27.9億ドルに迫る勢いだ。

 日本の興収は同じく5月27日時点で55億円突破、既に国内のMCU作品で歴代最高を更新。興収60億円も見えてきた。

「『アベンジャーズ/エンドゲーム』は公開される前から日本でも当たると思っていましたし、興行分析のコラムなどでそう書いてきました。そういう意味で今回の取材は、『なぜ日本ではアメコミ映画が当たらないのか』ではなく、『なぜ当たるのにここまで時間がかかったか』ですね(笑)」(宇野氏)

 宇野氏によれば、2019年はアメリカのエンタメ業界的には“特殊な年”だという。

「10年代総決算の年なんですよ。11年続いたMCU22本のフィナーレである『アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開、本国では2011年から放映されているアメリカの超大作TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の第8シーズン「最終章」が5月で最終回、そして2015年からの「スター・ウォーズ」三部作の……もっと言うと70年代から続くシリーズ9本の完結編である『スター・ウォーズ/ザ・ライズ・オブ・スカイウォーカー』が12月に公開。盆と正月が同時に来ているような状況です。

 ちなみに『ゲーム・オブ・スローンズ』は“ピークTV”と呼ばれる、アメリカでここ数年続いている“テレビの黄金時代”の中心的存在で、プライムタイム・エミー賞、ゴールデングローブ賞といった米国内の各賞を取りまくっています。その「最終章」に対するアメリカ国民の関心は半端じゃない。

 さすがにアメリカがここまでの状況になると、海外エンタメにそれほど感度の高くない日本人でさえ、『何かすごいことが海の向こうで起きている』と気づく。それがアベンジャーズ/エンドゲーム』の、今までにない好調につながっているのは確実です」(宇野氏)

 言葉を選ばず言うなら、“日本の情弱も気づく”ほどのムーブメントがアメリカで起きているのが、2019年なのだ。

 ただ、ひとつの疑問が残る。映画にしろTVドラマにしろ、これほどまでに長大なシリーズで物語がすべてつながっているとなると、「一見さんお断り」になりかねない。実際筆者の周囲でも「試しにMCUを1本2本観てみたが、過去シリーズをある程度観ていないと理解できない設定が多くて挫折した」という人間は1人や2人ではない。次回はこの点について、宇野氏に聞く。

(後編に続く)
■お詫びと訂正[2019/05/30 12:58修正]
MCUの日米興行収入(表1)と、映画のキャラクターの記述について、一部内容に誤りがありました。ご迷惑をおかけした読者・関係者にお詫び申し上げます。本文は修正済みです。

誤:
アントマン5.2億 マイティー・ソー4.5億 アントマン&ワスプ6.2億

正:
アントマン1.8億 マイティー・ソー1.8億 アントマン&ワスプ2.2億

誤:
さらに2018年公開のCGアニメ『スパイダーマン: スパイダーバース』のピーターになると、むしろイケてる中学生です。

正:
さらに2018年公開のCGアニメ『スパイダーマン: スパイダーバース』の主人公マイルス・モラレスになると、むしろイケてるティーンです。

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