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- 2019/05/30 掲載
なぜ日本では世界的ヒットのアメコミ映画が当たらないのか?
稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」
日本ではアメコミ映画がヒットしない?
現在、アメコミヒーロー映画は2つの大きなシリーズが知られている。マーベル・コミックという出版社の原作をもとにした「マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe/通称:MCU)」と、DCコミックスの原作を元にした「DCエクステンデッド・ユニバース(DC Extended Universe/通称:DCEU)」だ。
MCUに属するヒーローはスパイダーマン、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、マイティ・ソーなど。DCEUに属するのはバットマン、スーパーマン、ワンダーウーマンなど。それぞれのヒーローたちには個別の主演作があるが、MCUならMCU、DCEUならDCEUは単一の世界として構築されている。
たとえば、スパイダーマンが活躍するニューヨークの街に、アイアンマンやキャプテン・アメリカも登場し、時に共闘して共通の敵と戦う。そんなふうにMCUのヒーローが勢揃いするのが、『アベンジャーズ』シリーズというわけだ。
2008年の『アイアンマン』からはじまるMCUのシリーズは、現在公開中の『アベンジャーズ/エンドゲーム』まででなんと22本。ストーリーはすべてつながっている。つまり驚くべきことに、11年間にわたって大きなひとつの物語が紡がれているわけだ。
アメコミヒーロー映画の世界的メガヒットは、しばしばエンタメニュースで話題になる。実際ここ数年、米国あるいは世界の歴代興行収入(入場料金売上)ランキングを塗り替えるのは決まってアメコミヒーロー映画だ。しかし、米本国や世界での超メガヒットに比べて、日本での興行成績はそれほどでもない……と筆者は常々感じていた。
たとえば、現在公開中の『アベンジャーズ/エンドゲーム』を除き、日本で公開されたMCU作品で最もヒットしたのは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年公開)である。ただ、各国とも軒並み年間興収ランキングで上位にランクインしているが、日本では12位とベスト10にも入れなかった。本家であるアメリカや同じ英語圏であるイギリスで高順位なのは理解できる。しかし中国や韓国と比べるといまいち見劣りする。
参考までに、日本と韓国を人口ベースで比較してみよう。2018年時点の日本の人口は1億2645万人、韓国は半分以下の5090万人だが、興収を日本円換算してみると37億4000万円に対して98億9198万円と韓国は日本の3倍に迫っている。さらに興行収入÷人口で比較すると、日本の29.6に対して韓国は194.5。
少々乱暴に結論づけるなら、「無作為に抽出した同じ人数の集団で比べると、韓国では『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が日本の“6倍以上”観られている」ということになる。
無論、日韓の間には年齢別の人口構成比や入場料金といった前提条件の違いがあるので、単純に比較はできない。が、それにしてもこの差はあまりに大きい。
一体どういうことなのだろうか? この疑問を、映画・音楽ジャーナリストでアメコミ映画にも詳しい宇野維正氏にぶつけてみた。
中国と韓国は“躁状態”
中国や韓国では、アメリカをはじめ、世界的なメガヒットが見込める「ブロックバスターエンタテインメント」を「世界同時公開」として楽しむことができなかったが、ここ数年で“一気に追いついた”というのだ。文字通り初めての体験。「お祭り状態」になるのは無理もない。
グローバルカルチャーが長きにわたって国内に入ってきていなかったゆえの、反動。そこにタイミング良くハマったのがMCUだったのだ。
欧米のヒーローは「大人」、日本のヒーローは「子供」
しかし、もっと根本的な疑問がある。アメリカと日本との間にある、あまりにも大きな興行成績や熱狂度の差だ。いくらアメリカの原作で知名度の差があるとは言え、日米で温度差がありすぎはしないか。ところが、日本において“悪をやっつける”ヒーローものの主人公は、多くが少年です。『機動戦士ガンダム』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』『新世紀エヴァンゲリオン』、すべてそうですよね。日本以外の海外では、“少年や少女がヒーロー”というのはかなり異例なのです。でも、日本人はそれにずっと慣れてきました」(宇野氏)
日本人は「未熟な少年性」に価値を見出す。言われてみれば、たしかにそうだ。
ヒーローものの主人公は少年であり、そもそもヒーローものとは、イコール子供向けのアニメや特撮である――。それが長らく日本人の常識だったのだ。
MCUがスタートした2008年。その1本目である『アイアンマン』(全米興収3.2億ドル)の日本興収は9.4億円と、興行界での“まあまあヒット”の目安である10億円にすら届かなかった。同年にはバットマンを主人公にした『ダークナイト』が全米で5億ドル以上の興収を稼ぎ出し、内容も評論家筋に絶賛されたが、日本興収は16億円と肩透かし。
当時、筆者は映像業界に身を置いていたが、「これほどの高評価作、世界的ヒット作でも、日本ではこの程度の興収なのか……」と落胆に沈む映画関係者のため息を、そこら中で聞いた。
【次ページ】オタクカルチャーからの脱却を目指すアメコミ映画
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