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  • 2019/06/28 掲載

導入のハードル下げる「ロボットソフトウェア」、“素人”とロボットの距離は接近中

森山和道の「ロボット」基礎講座

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人手不足や省人化のためにロボットを入れたい。しかしなかなかロボット導入は進まない。その理由の一つに、誰がどうプログラミングするのかという問題がある。また、ロボットをどの作業に入れるのかについて社内でイメージができていないというケースも少なくない。これらのハードルを崩すためにロボットメーカーやSIer各社が努力しており、ロボットを使いやすくするためのソフトウェア開発も進められている。今回は2つのトピックスを紹介する。
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2019年6月、パナソニックコネクティッドソリューション社とリンクウィズの共同事業開発が発表された

パナソニックとリンクウィズが共同開発、立ち上げを1.5カ月から1週間に短縮

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溶接結果の良品・不良の検査を自動化する

 まず1つ目のトピックだ。パナソニックの社内カンパニーであるコネクティッドソリューションズ社と、3次元形状処理技術によって産業用ロボットの自律化を進める浜松市のスタートアップであるリンクウィズは、2019年6月17日に熱加工現場におけるプロセス改善に向けたソリューションの共同事業開発を行うと発表した。リンクウィズはパナソニックのほかINCJなどを引受先とする第三者引当増資を行い、総額9億円の資金を調達。中国・欧州・米国など海外展開も進める。

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パナソニック コネクティッドソリューションズ社 社長 樋口 泰行氏(左)とリンクウィズ 代表取締役 吹野 豪氏(右)

 リンクウィズは2015年に設立されたスタートアップだ。同社の主力製品はロボット制御ソフトウェアの「L-ROBOT(エル-ロボット)」と、自動検査ツール「L-QUALIFY(エル-クオリファイ)」。今回の提携ではまず「L-QUALIFY」を用いて、「ビード」と呼ばれる溶接部分の盛り上がりの自動検査を行う。従来の検査は目視で、つまり人手をかけて行われている。それを3次元形状認識センサーによるスキャンとロボットを使って自動化、全数検査を実現する。


 2次元ではなく3次元でスキャンするので、たとえば溶接が甘くて、溶接ビードの盛りが欠落している部分などがあっても、正しく見つけることができる。正解となるマスターワークのデータは、検査する現物ワークをレーザースキャナーで直接読み取ってマスターデータとすることができる。そのため、知的財産である3次元データを発注元からはもらえないことが少なくない町工場であっても活用することができる。もちろん、検査範囲や閾値(しきいち)は任意に設定できるという。

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欠陥のある溶接サンプル。右端のビードが欠けている

 また、ロボットを使うための前工程であるティーチング作業には時間がかかる。動きをロボットに教える手間だけでない。溶接ならば溶接電流など溶接に関わるパラメータもロボットに教えなければならない。それには、いわゆる「勘と経験」が必要とされていた。

 ここにパナソニックが製造現場で培った溶接ノウハウとリンクウィズのロボットソフトウェア技術を投入する。それによって「従来は1カ月半かかっていた立ち上げが1週間でできるようになる。町工場で3日かかっていた作業も数時間、半日で終わってシステムを立ち上げることができるようになる」(パナソニック)という。

ワークの変化に対応できるロボットへ

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リンクウィズ
代表取締役
吹野 豪氏

 「L-ROBOT」はロボットを使った加工作業に用いるツールだ。同じく三次元認識を使って、ワークピース(部品)の形状や置き場所がそれほど正確でなくても対応して、指定エリアのカーブやホールを正確に認識する。そして指定形状と合わせた動作、必要なティーチング座標を自動生成する。加工対象物のばらつきや位置ずれによる不良発生を抑え、調整作業時間を短縮することができる。

 L-QUALIFY同様、高速座標変換エンジンはリンクウィズの自社開発だ。3次元のデジタルデータはもちろん、何をどう処理したのかについてもすべてわかるようになっている。仮に何かトラブルがあった場合でも、さかのぼって調べることができる。

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リンクウィズのソフトウェアでロボットは形状を認識し動きを補正するようになる

 リンクウィズ代表取締役の吹野 豪氏は、「L-ROBOTは不良品を作らないシステム、L-QUALIFYは不良品を流通させないシステムだ」と述べた。現在の機械はアルミやプラスチックなど応力や整形条件が異なる多種多様なもので構成されている。いっぽう、ロボットは同じ動きを繰り返すことしかできない。そこで、伝統工芸の職人が材料にあわせてものづくりを微妙に変化していくように、一つ一つ異なるモノに対して、ロボットが判断して動きを変えていくことで最終製品を安定化させるのが同社の技術の特徴だという。

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多様化するマルチマテリアルへの対応と技能伝承が熱加工領域の課題

 ロボットがセンサーの役割をするようになることも特徴の1つだ。リンクウィズでは「L-QUALIFY」と「L-ROBOT」、二つのツールや関連IoT機器からのデータを組み合わせることで工場全体の効率化・品質改善を図るプラットフォーム「L-FACTORY」の開発を進めるとしている。吹野氏は「データを集めることで1つの大きな流れを作ることができる」と述べた。溶接加工だけにとどまらず、溶接前の工程も含めて、フルレンジでの溶接工程を革新することを目指す。

 リンクウィズ「L-FACTORY」の考え方は、パナソニック「現場プロセスイノベーション」の掲げる、一気通貫、プロセス全体での改善・最適化の考え方に近い。おそらく、その辺りで両者の話が合って、両者の提携に至ったのだろうと推測する。

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パナソニック「現場プロセスイノベーション」はプロセス全体の革新を掲げている

「頭脳と目がついた」、技能伝承が難しい領域や町工場でもロボット活用へ

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町工場でも簡単に使えるロボットを目指す

 今回のリンクウィズとパナソニックの技術を使うことで「専門的な知見をもたない町工場でもロボットを使えるようになる」という。大企業との取引が多いと考えられがちなパナソニックだが、溶接に関しては中小企業との取引も多いという。また、「ロボットを使うのが難しい」「ロボットを扱えるエンジニアが足らない」という課題は大企業でも中小企業でも共通しており、「そこを解決するソリューションを提供する」とのこと。しかも、顧客がパナソニックのロボットを使っていなくても対応する。

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パナソニック コネクティッドソリューションズ社社長 樋口泰行氏

 もともと熱加工領域の設計者としてキャリアをスタートさせたパナソニック。コネクティッドソリューションズ社社長の樋口 泰行氏は会見で今回の協業を「ロボットに頭脳と目がついた」と表現した。「人の勘と経験、目視よりも正確なチェックが提供できる」と述べた。

 そして「製造業のノウハウを顧客ニーズとぶつけることでソリューションを開発、さらにスケールさせていく。従来のような『自分たちの持っている製品が売れればいいや』という時代ではない。ニーズ起点で考えてパナソニックだけではなくいろいろな会社の製品と組み合わせることが重要だ」と、同社が進める「現場プロセスイノベーション」の基本的スタンスを強調した。

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「脱・自前主義」を掲げるパナソニック

 どこのメーカーのロボットでも対応するといっても、最もリンクウィズのソフトウェアと相性がいいのはパナソニック製のロボットだというかたちで勝負していくという。ソフトウェアの使い勝手で、ハードウェアが選ばれる時代が産業用ロボットにも来ている。

【次ページ】ロボットの動作イメージを共有できるオンラインツール、いよいよ日本語対応

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