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- 2019/11/20 掲載
量子ドットをわかりやすく解説、農業・ディスプレイ・太陽光発電でどう使われている?
量子ドットとは、ナノメートルサイズの世界に存在する小さな半導体粒子である。量子ドットの特性や発揮可能な効果は、サイズやエネルギー状態によって異なるため「さまざまな効果を持ったナノスケールの半導体粒子」と理解するとよい。量子ドットを活用することで、エネルギー産業やバイオ、電子機器などさまざまな産業で飛躍的なエネルギー効率の向上やコスト削減が期待されている。
「量子ドット」の何がすごいのか
量子ドットは微細物質である上に、物理状態のコントロールが難しいため、どれだけのパフォーマンス向上が見込めるのか、また大規模生産が本当に可能なのか、明確に答えを出すことができず、商用化には長い時間がかかると考えられていた。そこにブレイクスルーをもたらしたのが、2019年3月に発表されたスタンフォード大学の研究である。
半導体素材の品質を決める重要な指標に「光を吸収・再放出する際の効率性」がある。この光学面での素材性能が、半導体をベースとした太陽光発電や光ファイバーのエネルギー効率や稼働効率を大きく左右する。
スタンフォードの研究チームによれば、量子ドットは吸収した光の約99.6%を確実に放射し、その性能は最高品質の半導体素材に匹敵し、かつ高いカスタム性・耐欠陥性を有することが発見された。この研究により、理論上の仮説ではなく、リアルな実験環境の中で、量子ドットが半導体素材と競合できることが実証され、量子ドットの商用化に大きな前進をもたらしている。
量子ドット関連市場の動向
フロスト&サリバンの調査によると、世界の量子ドット関連市場は2018年ですでに約25億1,000万ドル規模に到達している。また、今後は年平均27%で成長し、2023年には82億9,000万ドルに達する予想だ。主要な量子ドット製造メーカーであるDotz Nanoは、CisticPolyと3年間のグラフェン量子ドット独占販売および販売契約を1,500万ドルで締結している。また、英国の主要ナノマテリアルメーカーNanoco Group plcは、米国の上場企業と提携して先端電子デバイスを含む将来の技術の用途向けの次世代ナノ材料を開発するなど、次世代の産業を担う量子ドットの覇権をめぐる競争は熾烈を極めている。
量子ドットを活用した温室フィルム
フロスト&サリバンは、2023年に、量子ドットを活用した農業関連機具市場規模が6億4,030万ドルに達すると推測している。現在、多くの農家が農業用ハウスの中で植物を栽培している。ハウス環境を適切にコントロールすることで、植物の収穫量や品質を高める、栽培期間を短縮する、収穫時期を調整するおとなどが可能になっている。
そうしたハウス環境の構築に一役買っているのが「農業用フィルム」である。従来の農業用フィルムでは、有害な紫外線を光合成に適した光の波長に変換する試みがなされてきたが、可視光線透過率や波長変換後の強度が十分とはいえなかった。
その課題解決を目指して2018年11月に市場投入されたのが、量子ドットをベースとした米UbiQD製のUbiGro温室フィルムである。これは初の商用量子ドット製品である。
UbiQDは、量子ドットによって増強された光スペクトルによって植物の成長を促進することを目標に、当フィルムを開発した。
UbiGro温室フィルムは、量子ドットによって太陽光のバンドギャップ(結晶のバンド構造における、禁制帯のエネルギー幅。この幅が広いと絶縁体、狭いと半導体になる)を調整することで、植物の成長過程に合わせて適切な波長・強度の光に変換し、植物の成長サイクルを促進できる。ここでも上述した「光を吸収・再放出する際の効率性」が重要な役割を果たしている。
商業面では、UbiQDはすでに米国環境保護庁(EPA)からは大規模な商業生産を開始するための承認を2018年末に取得しており、ニューメキシコ州、オレゴン州、コロラド州の3州にUbiGro温室フィルム設置済み施設が存在している。
【次ページ】賛否が分かれる量子ドットの展望
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