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  • 2020/02/17

映画料金1900円を興行チェーンが「高くない」と言い張るワケ

稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」

2019年6月、一部の大手映画興行チェーンで、映画鑑賞料金が1800円から1900円に値上げされる動きがあった。なぜ値段が上がったのか? そもそも料金はどのように決まっているのか? ベテラン興行マンと、興行事情に詳しいリサーチャーへの取材からひもとこう。

編集者/ライター 稲田豊史

編集者/ライター 稲田豊史

編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。 著書に『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。 手がけた書籍は『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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1900円という映画料金は適切なのか?
(Photo/Getty Image)


1か月見放題で1320円 vs 1本1900円

 2019年6月1日、TOHOシネマズほか大手シネコンの一部が、映画鑑賞料金を値上げした。TOHOシネマズと109シネマズは一般料金が1800円から1900円になり、その他のシネコンでも都心館限定で1900円に。改定は1993年以降、実に26年ぶりである。他の割引料金なども連動して値上げされた。

 物価上昇に伴う当然の措置と捉える見方がある一方、「ただでさえ高い映画料金がさらに高くなった」「ますます庶民の娯楽ではなくなった」「月1320円(税込)でNetflixが見放題の時代に、高すぎる」「消費税アップに伴う値上げか?」など、さまざまな“反発”も見受けられた。

 確かに、特に2010年代以降、安価もしくは無料で楽しめる映像娯楽が増えたのは確かだ。それでなくても、デフレによって若者が娯楽に使えるカネは20年前、30年前に比べれば少なくなっている。加えて、携帯電話代をはじめとした通信費は他の娯楽費を奪っているだろう。劇場での映画鑑賞料金は、“他の娯楽に比べて相対的に高い”と見る向きもある。

 このような声について、興行関係者はどう考えているのか。前回に引き続き、ベテラン興行マン・A氏に聞いてみた。

都心と地方で料金に差をつけることは「できない」

「反発があるのは確かです。ただ、物価との連動の話をするなら、昔は散髪料金と映画の料金はだいたい同じだったんですよ。今は散髪料金のほうがずっと高い。それと、今は各種割引を使って観ている方が多いので、皆さん必ずしも1900円を払ってはいませんよね」(興行マン・A氏)

 各種割引の一例としては、前売券や会員向け割引デイ、レディースデイ(1200円)、シニア割引(1200円)や夫婦50割引(ふたりで2400円)など。鑑賞回数に応じた無料鑑賞サービスもある。

 とはいえ、それでも「高い」という意見は筆者の周囲でもひんぱんに聞く。たとえば小学生の子供がふたりいる家族が4人で映画を観に行くと、鑑賞料金だけで6000円近く。ポップコーンやジュースも買えば、トータル7~8000円は飛んでいく。

「都心とローカル(地方)では受け取られ方が違うと思います。可処分所得が高い都心の人で、高いと感じている方はそんなにいるんでしょうか?」(興行マン・A氏)

 それを言うなら、アメリカのように都心と地方で鑑賞料金を変えることはできないのか。日本でも、ランチ価格や駐車場料金は都心より地方のほうが安い。全体収益が減ることが心配なら、「都心を上げて地方を下げる」方策はどうか。これについては、かつて映画産業に身を置き、現在では映画興行を含むエンタテインメント業界のリサーチなどを行っているB氏がこう説明する。

「その議論は興行会社各社で2、30年前からあったと思いますよ。ただ、たとえばTOHOシネマズの場合、全国6つの東宝グループの会社(東宝映画興行部、TOHOシネマズ、東宝東日本興行、中部東宝、東宝関西興行、九州東宝)が合併統合してできた経緯があり、むしろ今は6社のオペレーションや料金体系を統一する方針で、ここ10年ほど進めてきています。

 その料金体系については、2019年6月1日の値上げでほぼ全国統一したので、業界がその流れに逆行するのは難しいでしょうね。都心館の料金を上げて地方館の料金を下げることで帳尻を合わせれば……という意見もありますが、会計上は、事業所(サイト/複数スクリーンをもつひとつの映画館)ごとの独立採算制なので、それはできないと思います」(リサーチャー・B氏)

アベノミクス+シネコン改築ラッシュが経営を圧迫

 そもそもの話、前回記事で判明したように映画興行は我々の考える以上にカネがかかる。他社に先んじられないよう、デベロッパーの計画に応じて出店する事情も考えると、1900円は妥当……なのかもしれない。

 ただ、それでも筆者は食い下がりたい。前回、2019年の映画業界は過去最高の興収を記録しているのだ。であれば、2019年の半ば時点で1800円を1900円に値上げする必要はなかったのではないか? しかしA氏とB氏にそれをぶつけてみると、興行会社が鑑賞料金を値上げしたがる理由が、おもに4つ浮かび上がってきた。

 以下は、A氏が述べる1つ目と2つ目の理由だ。

「まず、映画館を運営するコストの上昇です。アベノミクスのおかげで、ここ数年は人件費だけでなく機材修理費やメンテ費などのランニングコストも上がりました。各社とも数年間我慢してきましたが、限界が来てしまったんです。

 そして、設備改修費のラッシュが2019~20年に訪れるということです。すでに申し上げたように、シネコンはデベロッパーも投資額が大きく店舗面積が広いので、後継テナントが決まるまではなかなか撤退できません(筆者注:定期借家契約で15年から20年は出られない)。シネコン設立ラッシュは2004~05年でしたが、2019~20年の更新時期には設備リニューアルが集中します。椅子などは耐用年数が切れるので替えなければなりません。しかも、設備の建築費・材料費は設立ラッシュの時より上がっている。昔10億円で作ることのできた設備が、今は12、3億円かかるんです」(興行マン・A氏)

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映画館を運営するコストが上昇している
(Photo/Getty Image)

【次ページ】「DVDが売れないから映画料金が上がる」のカラクリ

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