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  • 2020/08/17 掲載

『日本の優秀企業研究』で分かる、どうすれば日本企業は強みを発揮できるのか

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GAFAやBATなど米中のテクノロジー企業と引き合いに出され、日本企業は凋落したと言われることが多くなった。だが、日本人や日本企業の強みを改めて見つめ直せば、日本企業なりの勝ち筋が見えてくるのではないか?マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏は日本企業の再興のヒントとなる名著として、新原浩朗氏が著した『日本の優秀企業研究』を挙げる。現在は経済産業省・経済産業政策局長を務める新原氏が、日本を代表する優秀企業を徹底分析して得られた共通項とは?

ウォンツアンドバリュー 代表取締役 永井 孝尚

ウォンツアンドバリュー 代表取締役 永井 孝尚

慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャーとして事業戦略策定と実施を担当、さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当し、同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社して独立、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供し、マーケティングや経営戦略の面白さを伝え続けている。さらに仕事で役立つ経営戦略を学ぶための「永井塾」も定期的に主宰している。 主な著書にシリーズ60万部『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)ほか多数。

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徹底した調査に基づいた『日本の優秀企業研究』。そこで明らかにされた優秀企業の共通項とは
(Photo/Getty Images)

※本記事は『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』を再構成したものです。


日本企業の本当の良さとは?

 飲み屋で「日本企業のいいところは〇〇〇だよね」と言ったりする。でもよく考えてみると、日本企業の本当の良さとは何だろう? 本書はそのテーマを研究した一冊だ。冒頭、本書の結論がひと言でまとめてある。

「自分たちが分かる事業を、やたら広げずに、愚直に、真面目に、自分たちの頭できちんと考え抜き、情熱をもって取り組んでいる企業」

 まるで「真面目に愚直にコツコツと、得意なことを熱心にやり続ける」職人である。本書では、日本の優秀企業に共通する6つの条件を挙げている。1つずつ紹介しよう。

条件1:分からないことは分けること

 分からない事業はやらない。自社が取り組むべき事業が明確で、コンセプトから外れていれば、経営トップは「それはウチの仕事ではない」と根拠を挙げて説明できる。

 マブチモーターは世界シェア55%、売上高経常利益率20~30%という超優秀企業だ。商品はモーターのみ。業界の専門用語でいうと「民生用・直流・有鉄心・ブラシ付き200ワット以下の小型マグネットモーター」に特化している。徹底的に絞り込むことで業界随一の競争力をつけた。だから単品に絞った専門店として世界で勝負できる。

 かつて世界屈指のひげそりメーカー・ブラウンから好条件で「モーターを開発してほしい」と依頼されたが、マブチは自社が絞り込んだ分野ではないのであっさりと断った。かわりに自社モーターでブラウンが必要とする性能の商品を開発し、10分の1の価格で提供した。いまやブラウンのモーター調達先はマブチモーターだけだという。

 このようにトップが現場の実態を徹底的に理解しているから、具体的に事業絞り込みができるのだ。ダメな企業のトップは、自社事業がよく分からない。担当者任せで重要な場面で判断を先送りし「みんなで話し合おう」と言ったりする。大きな失敗はしないがジリ貧になる。


条件2:自分の頭で考えて考えて考え抜くこと

 持続的に優秀な企業のトップは例外なくロジカルだ。一見常識破れな意思決定も、実に論理的に説明できる。

 1976年、ヤマト運輸の小倉昌男社長(当時)は宅配便を始めた。郵便局を相手に一運送業者がゼロから同じ仕組みをつくるなんて、常識外れの挑戦だ。しかし小倉社長は実にロジカルに考えに考え抜き、仕組みをつくった。

 まず47都道府県に1つずつハブターミナルをつくる。その下に20個の営業所をつくる。夜の間にハブからハブへトラックで荷物を輸送し、朝に営業所に輸送すれば、翌日配達は可能。郵便局の小包は5日かかるから勝てる、と考えた。

 ではもうかるのか? 集荷コストなどを積み上げて見積もっても、答えは出ない。小倉社長は考え抜いた末、「全体で考えればいい」と気がついた。

 宅配便事業では、コストの大部分が配送拠点や配送員の人件費などの固定費である。一方で、収入は「取扱数量×単価」だ。そこで図のように「総費用を上回る取扱数量になれば、もうかる」と考えた。つまり取扱数量を増やすことが、収益化のカギになる。ターゲットの家庭の主婦が「いい」と思えば、荷物が集まる。つまりサービスを良くすれば、結果として荷物は集まる。

 そこで「サービスが先、利益は後」という標語をつくり、全社で優先順位を徹底させた。常識を覆した宅配便も、トップが自ら考えて考えて考え抜いた産物だったのである。


条件3:客観的に眺め、不合理な点を見つけられること

 かつて「子会社出向は、左遷人事」といわれた。しかし改革に成功した企業は、子会社などで苦労した傍流派がトップに立つ場合が多い。たとえばヤマト運輸の小倉社長は、入社後数カ月目から4年半の結核の療養の後に復帰して、さらにその1年後には経営破綻した運輸会社に出向し、生の現場を見た。

 キヤノンの御手洗冨士夫会長は、就任前は本社経験がほとんどなく海外子会社育ちだったが、先任社長の急逝で社長に就任してキヤノンを変革し、後に経団連会長まで務めた。本流から外れることで、客観的に会社を眺めることができる。会社の裸の真実を冷静に認識することで、改革が必要な不合理な点が見えるのだ。

 本書では幹部候補生には、本社の本流部門だけを経験させずに、30代のうちに意図的に結果責任を伴う形で厳しい子会社に出向させ、修羅場を体験させることを提唱している。これが結果的には経営人材を育てることにつながる。

【次ページ】優秀企業の条件4~6、優秀な人材が能力を発揮するには

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