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- 2020/08/17 掲載
『日本の優秀企業研究』で分かる、どうすれば日本企業は強みを発揮できるのか
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日本企業の本当の良さとは?
飲み屋で「日本企業のいいところは〇〇〇だよね」と言ったりする。でもよく考えてみると、日本企業の本当の良さとは何だろう? 本書はそのテーマを研究した一冊だ。冒頭、本書の結論がひと言でまとめてある。「自分たちが分かる事業を、やたら広げずに、愚直に、真面目に、自分たちの頭できちんと考え抜き、情熱をもって取り組んでいる企業」
まるで「真面目に愚直にコツコツと、得意なことを熱心にやり続ける」職人である。本書では、日本の優秀企業に共通する6つの条件を挙げている。1つずつ紹介しよう。
条件1:分からないことは分けること
分からない事業はやらない。自社が取り組むべき事業が明確で、コンセプトから外れていれば、経営トップは「それはウチの仕事ではない」と根拠を挙げて説明できる。マブチモーターは世界シェア55%、売上高経常利益率20~30%という超優秀企業だ。商品はモーターのみ。業界の専門用語でいうと「民生用・直流・有鉄心・ブラシ付き200ワット以下の小型マグネットモーター」に特化している。徹底的に絞り込むことで業界随一の競争力をつけた。だから単品に絞った専門店として世界で勝負できる。
かつて世界屈指のひげそりメーカー・ブラウンから好条件で「モーターを開発してほしい」と依頼されたが、マブチは自社が絞り込んだ分野ではないのであっさりと断った。かわりに自社モーターでブラウンが必要とする性能の商品を開発し、10分の1の価格で提供した。いまやブラウンのモーター調達先はマブチモーターだけだという。
このようにトップが現場の実態を徹底的に理解しているから、具体的に事業絞り込みができるのだ。ダメな企業のトップは、自社事業がよく分からない。担当者任せで重要な場面で判断を先送りし「みんなで話し合おう」と言ったりする。大きな失敗はしないがジリ貧になる。
条件2:自分の頭で考えて考えて考え抜くこと
持続的に優秀な企業のトップは例外なくロジカルだ。一見常識破れな意思決定も、実に論理的に説明できる。1976年、ヤマト運輸の小倉昌男社長(当時)は宅配便を始めた。郵便局を相手に一運送業者がゼロから同じ仕組みをつくるなんて、常識外れの挑戦だ。しかし小倉社長は実にロジカルに考えに考え抜き、仕組みをつくった。
まず47都道府県に1つずつハブターミナルをつくる。その下に20個の営業所をつくる。夜の間にハブからハブへトラックで荷物を輸送し、朝に営業所に輸送すれば、翌日配達は可能。郵便局の小包は5日かかるから勝てる、と考えた。
ではもうかるのか? 集荷コストなどを積み上げて見積もっても、答えは出ない。小倉社長は考え抜いた末、「全体で考えればいい」と気がついた。
宅配便事業では、コストの大部分が配送拠点や配送員の人件費などの固定費である。一方で、収入は「取扱数量×単価」だ。そこで図のように「総費用を上回る取扱数量になれば、もうかる」と考えた。つまり取扱数量を増やすことが、収益化のカギになる。ターゲットの家庭の主婦が「いい」と思えば、荷物が集まる。つまりサービスを良くすれば、結果として荷物は集まる。
そこで「サービスが先、利益は後」という標語をつくり、全社で優先順位を徹底させた。常識を覆した宅配便も、トップが自ら考えて考えて考え抜いた産物だったのである。
条件3:客観的に眺め、不合理な点を見つけられること
かつて「子会社出向は、左遷人事」といわれた。しかし改革に成功した企業は、子会社などで苦労した傍流派がトップに立つ場合が多い。たとえばヤマト運輸の小倉社長は、入社後数カ月目から4年半の結核の療養の後に復帰して、さらにその1年後には経営破綻した運輸会社に出向し、生の現場を見た。キヤノンの御手洗冨士夫会長は、就任前は本社経験がほとんどなく海外子会社育ちだったが、先任社長の急逝で社長に就任してキヤノンを変革し、後に経団連会長まで務めた。本流から外れることで、客観的に会社を眺めることができる。会社の裸の真実を冷静に認識することで、改革が必要な不合理な点が見えるのだ。
本書では幹部候補生には、本社の本流部門だけを経験させずに、30代のうちに意図的に結果責任を伴う形で厳しい子会社に出向させ、修羅場を体験させることを提唱している。これが結果的には経営人材を育てることにつながる。
【次ページ】優秀企業の条件4~6、優秀な人材が能力を発揮するには
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