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- 2020/07/30 掲載
アズワンの物流倉庫を徹底解剖、省人化をさらに進める新コンセプト「GTR」とは?
“Goods-To-Robots”、ロボットにモノを持ってくる考え方
多品種を扱う物流倉庫では作業者が指示書を片手に歩き回り、商品をピッキングしたり、棚入れ作業をしたりしている。消費者の要求が上がるにしたがって、スピードと正確性が要求されると同時に身体的負担も大きい作業だ。そのため、自動化技術を活用して作業者の歩数を減らそうという取り組みがさまざまなかたちで進められている。その1つが「GTP(Goods-To-Person)」と呼ばれる考え方だ。自動倉庫やロボットが定位置にいる人のところまで商品を持ってくる(つまりGoods-To-Person)ので、作業者はシステムから指定された商品を取って、指示に従って手近な棚に入れたり、発送用ケースに入れたりしていけばいい。人は定点からあまり動かなくてよくなり、歩行数が減る。
具体的にはアマゾンの倉庫で使われている「Kiva」と呼ばれていたロボットや、同類の「Butler」のように、人がいるワーキングステーションまで商品類を棚ごと運んでくるロボットソリューションや、専用のコンテナを自動で入出庫する自動倉庫の「Autostore」などがこれにあたる。自動倉庫とは違って、既存の倉庫に導入できることを利点として昨今話題になることが増えてきた「AMR(協働型自律移動ロボット)」を活用したピッキング軽労化も根底のコンセプトは同じだ。要するに、人の歩行量を減らすことが重要な課題なのだ。
この「GTP」という考え方は、人間だけが対象ではない。たとえばピッキングするロボットや、デパレタイジング(荷物をパレットから降ろす作業)やパレタイジング(パレット上に荷積みする作業)を行うロボットに対しても、同様に「手近に品を持ってくる」仕組みがあれば、さらなる自動化を進めることができる。これが「GTR(Goods-To-Robots)」だ。
目標は人の歩行距離を短くし人手を半分にすること
2020年5月、科学機器、産業機器、病院・介護用品の総合商社であるアズワンが、千葉県千葉市稲毛区にあるマルチテナント型物流施設「プロロジスパーク千葉1」の1Fと2F、合わせて5万平方メートルのスペースに新設した大型物流センター「スマートDC」は、GTP、そしてさらにその先を行く「GTR」の考え方で設計されている。
それを支えているのが村田機械の自動倉庫システムと、ロボットアームの動きを自動生成するモーションプランニング技術を持つスタートアップのMUJINによるロボット、シャープ製AGV(無人搬送車)などを組み合わせた最新マテハン(マテリアルハンドリング)機器群だ。ケース単位、バラ単位など、出荷頻度に応じたさまざまな設備が投入されて構成されており、設備投資金額はマテハンだけで約35億円だという。「大きな目標としては人を半減する」ことを目指している。
アズワンの既存の東京物流センターは埼玉県北葛飾郡杉戸町にある。そちらでは約3割くらいだった機械化率を、千葉の新しい倉庫では7割程度まで引き上げた。
たとえば、通常の倉庫ならばフォークリフトを使ってネステナー(ラック)から引き出して運んでくるパレットを、天井高いっぱいの自動倉庫が電動台車を自動で引き出す。作業者は定点で作業して、コンベヤに流す。コンベヤに流された荷物はぐるっと倉庫内を回るあいだにサイズや重量を計測され、そのデータを基にしてシステムが搬送先の荷姿に合わせて積み方を自動計算・指示する。そしてMUJINのロボットが運搬用かご車に自動で荷物を積んでいく。
アズワンは村田機械のケース搬送・仕分けシステム「SHUTTLINER(シャトライナー)」も国内初採用した。「シャトライナー」は少量多品種を高密度保管できるトレー自動倉庫で、払い出された保管用トレーに対してケースコンベヤとソーター(自動仕分け機器)の役割を担っている。従来のシステムでは、倉庫からピッキングポイントへの商品補充ラインと、ピッキング終了後のケースを自動倉庫へと再び搬送する再入庫ラインの搬送ルートを上下二層に分離して設置していた。しかし「シャトライナー」はトレーの入庫と出庫を1つのコンベヤで行える。
これもやはり人はピッキングポイントだけで作業する。倉庫のWMS(倉庫管理システム)から指示されたデータが村田機械のWCS(倉庫制御システム)を経由してシャトライナーに送られて、必要なものを作業者のところに仕分け・供給し、人はピッキング用バケットに必要数を入れていく。再度強調するが、人は歩き回らない。人のところまで機械が必要なものを持ってくるのだ。探し回ることもないので、作業待ち時間も短縮される。
アズワン 商品本部物流部長の亀石徹生氏は、基本的に、人ができるだけ歩かず「コンパクトに作業を行う」ことと、荷物を倉庫の天井近くまで収容することで、容積を活用することをコンセプトとしたと語る。
GTP型の倉庫では、小物を棚ごと持ってくるアマゾン型のやり方が知られているが、あのやり方では棚の高さに限界がある。それでは上の容積がもったいない。いっぽうアズワンの倉庫では5.5mまで少量多品種の小物を積み上げられるトレー自動倉庫を用いることで倉庫容積の稼働率を上げた。容積全体を有効活用する考え方は徹底されていて、通常は出荷方面ごとに分けられているシュートも本数を減らして使い分けたり、一部のトラックバースはつぶしてしまって倉庫として活用している。
ただし、作業員は効率的に管理されているぶん、気ままに作業をするわけにはいかない。機械と作業タクトを合わせなければならないという側面はある。自動化を進めるなかでまた新たな課題が生まれているが、省人化の流れが止まることはなさそうだ。アズワンが省人化を目指している理由は、今後、人の採用がさらに難しくなると考えているからだ。千葉県稲毛の「プロロジスパーク千葉1」に新拠点を選んだ理由の1つも「人が採用しやすいこと。募集をかけたら集まってくれるところ」だったという。物流倉庫で人がゼロになることはない。だが人手不足の深刻化は今後さらに進むと予想される。だから省人化は待ったなしなのだ。
デパレタイズとパレタイズにMUJINのロボットを活用
村田機械の自動倉庫を中心とした倉庫だが、一社のソリューションだけではなく、それぞれの用途について最適なベンダーを選んで組み合わせてもらったという。入荷した荷物を出荷用の自動倉庫に積み替えるためのケースデパレタイズと、出荷用のかご車へのパレタイズのロボットはMUJIN製だ。
荷物は1パレットあたりおおよそ80ケースくらいが載っている。スピードは1時間あたり400ケースとされているが、実際には「650ケースくらいはいける」という。従来のロボットは決められた位置に積まれたものを順番に取っていくしかできなかったが、MUJINのロボットは3Dカメラと独自のコントローラを使って必要数量だけ持っていくことができる。一定数量のケースを置くと、自動倉庫に完了信号を送る。シンプルな仕組みだ。夜間に作業しておけば自動補充ができる。
デパレタイズの流れはこうだ。まず、倉庫全体を管理するWMSから「何を何個出せ」というオーダーが村田機械のWCSに送られる。オーダーを受けたWCSは、自動倉庫のどの位置のパレットを引き出せばいいのかを決定し、実行する。自動倉庫からパレットが出てくるのと合わせて、ケースのサイズや重量、ピック数などがWCSからMUJINのロボットコントローラに送られる。そのデータを基にロボットは必要な数量を取ってコンベヤに置いていく。
なお、現段階ではケースのサイズや重量データは計測と手入力が必要だが、MUJINではさまざまなケースが混ざったパレットに適用するための「混載デパレ技術」を応用し、ケースを自動計測してロボットが取る新しい技術を提案中だ。
最初に「このパレットから10個取りなさい」という指示が来ると、ロボットは3Dカメラであたりをつけて、まず箱を1つゆっくり取る。その時に正確に箱が取れているかどうかを確認する。具体的にはロボットアーム先端の6軸トルクセンサを使って変荷重や、3Dカメラを使ってロボットが想定した点群の動きと実際の点群の動きの違いを比較し、天面の柄なども確認する。「想定どおり取れた」と判断したら、それらをデータ化して、2ケース目からは高速ピッキングする。こうすることで、ロボットのために荷物を計測して入力する必要がなくなり、ミスがなくなると同時に、ユーザーの使い勝手も向上する。
「アズワンさんの荷物の場合はあまりないのですが、日用雑貨の場合は、サイズや重さがちょっと変わるパッケージ変更が頻繁に起こります。実物が変わったのにデータが変更されてないと商品や設備を壊してしまいかねません。ですから自動でロボットがパレットごとに計測と確認をやれば、稼働時間も含めてそのロスがなくなります」。(MUJIN 営業本部物流営業部統括 藤巻陽二朗氏)
【次ページ】ピッキングだけでなく「置き方」も重要な理由
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