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  • 2020/10/02

歴史の講師として今の世間の「のんきさ」に呆れています

202X年 ぼくらの生き方・働き方 Vol.02 伊藤賀一さん 前編

コロナを経て、世界はどう変わるのか? そんな中、ぼくらはどう生きていけばいいのか? 未来の「羅針盤」を探しに行くインタビュー連載。第2回は日本一生徒数の多い社会講師として知られる伊藤賀一さん。歴史の観点から「今後世界はどうなるのか」「ぼくらはどう生きていけばいいのか」についてお話しいただきました。

編集協力:WORDS 竹村 俊助

編集協力:WORDS 竹村 俊助

1980年岐阜県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本実業出版社に入社。書店営業とPRを経験した後、中経出版で編集者としてのキャリアをスタート。その後、星海社、ダイヤモンド社を経て、2019年に株式会社WORDS代表取締役に就任。SNS時代の「伝わる文章」を探求している。主な編集・ライティング担当作は『段取りの教科書』(水野学)、『ぼくらの仮説が世界をつくる』(佐渡島庸平、以上ダイヤモンド社)、『メモの魔力』(前田裕二)、『実験思考』(光本勇介、以上幻冬舎)など。手掛けた書籍は累計100万部以上。2020年7月には初の著書『書くのがしんどい』(PHP研究所)が刊行される。オンラインメディア「note」に投稿した「WORDSの文章教室」は累計150万PVを超える。

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伊藤 賀一氏


「リーマンショック+東日本大震災」以上の衝撃

 今回のコロナ禍は、これまでになかったようなターニングポイントです。

 いまだにコロナをリーマンショックのときの数値と比較したがる人がいますが、社会科の講師から見たら「今さらリーマンショックと比べる意味がわからない」というぐらい、ケタ違いにコロナのほうがすごいできごとです。

 日常生活の変化を考えると、今回のコロナは「リーマン+震災」以上の衝撃でしょう。ぼくは歴史の講師でもあるので、今の世間の「のんきさ」に呆れています(笑)。普通の人が考えているよりも、経済は大ダメージを食らっていると思っています。今はまだみんな呆然としているだけで、来月、再来月あたりには完全にどん詰まる人たちがたくさんいるのです。

戦争より死者が多かったスペイン風邪

 これまで人類は、ペストや天然痘、黄熱病、コレラなど、さまざまな感染症を経験してきました。特にスペイン風邪は本当に強烈だったにもかかわらず、流行った時期が第一次世界大戦中だったこともあり、あまり注目されていません。

 ぼくはスタディサプリの授業で「第一次世界大戦で戦死した人間よりも、どちらかというとスペイン風邪で死んだ人のほうが多いんだよ」という話をします。ただ教科書には、スペイン風邪のことなんてあまり載っていません。おそらくコロナを受けて教科書も改訂されると思いますが、本当はスペイン風邪について、もっと前から教え込んでおくべきだったのです。それほどの大事件だったのですから。

 ウイルスは歴史を大きく変えてきました。

 スペイン風邪によって一番大きく変わったのは、第一次世界大戦が終わったことです。第一次世界大戦は、イギリスとフランスがメインの戦勝国。ドイツがメインの敗戦国ですよね。なぜイギリスやフランスが勝つことができたのかというと、途中からアメリカが参戦してきてくれたからです。アメリカのウッドロウ・ウイルソン大統領が「平和14カ条」というものを出して入ってきてくれたから、戦争が終わりました。

 終戦会議のパリ講和会議には、戦勝国のイギリス、フランスと敗戦国のドイツに加えて、アメリカのウイルソン大統領がキーマンとして中心に入りました。そして彼が「平和でいきましょう」と言ったのです。

 「イギリスやフランスはドイツに対して、すごく恨みがあるのはわかる。でもドイツを追い込み過ぎると、絶対に第二次世界大戦が起きる。だからあまりバカみたいな賠償金を請求したり、植民地をすべて奪ったり、軍隊を解散させたりしないようにしましょうね」と。これが「ウイルソン平和14カ条」です。その後もウイルソンが言い出しっぺとなって「国際連盟」ができるのです。

 ところがウイルソン大統領は、終戦会議中に新型インフルエンザにかかってしまいました。39度5分の熱を出して会議を欠席してしまった。その間にイギリスとフランス、特にフランスのクレマンソーがドイツを追い込んだのです。天文学的数字のバカみたいな額の賠償金をかけ、全植民地を放棄させ、陸軍は徴兵停止、空軍は解散させて、めちゃめちゃにしてしまった。だから第二次世界大戦が起きてしまった。ウイルソンがずっと会議にいれば起きなかったはずです。

 ウイルスはそれほど歴史を変えてきたのです。

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新型コロナに限らず、ウイルスは世界を大きく変えてきた
(Photo/Getty Images)

歴史の影にウイルスあり

 あとは14世紀の黒死病(ペスト)によって、ヨーロッパ中世の「封建体制」が終わりました。

 ペストによって労働力は3分の1を失い、極端な人手不足になりました。それによって農奴たちがすごくレアな労働力になり、言うことを聞かなくなったのです。労働市場のマーケットの中で、彼らの価値がものすごく上がったわけです。彼らは「農奴」ではなくて「小作人」にまでレベルアップしました。そうして中世の封建社会はなくなった。ペストが大きく歴史を動かしたと言われています。

 あとペストの影響を受けたのはユダヤ人です。

 ユダヤ教の戒律はキリスト教よりもかなり厳しいので、ユダヤ人はすごく清潔でした。だから、ユダヤ人だけがペストに感染しなかったのです。それで「ユダヤ人が井戸に毒を入れたんじゃないか」ということになり、激しく迫害されました。

 ポーランドや東ドイツ付近には、たまたまユダヤ人に対して寛容な人たちが多かったので、多くのユダヤ人がそこに住みつくことになりました。彼らがその後、ヒトラーに迫害されてアウシュビッツに送り込まれることになるのです。

 ユダヤ人はペスト以前からイエスを十字架にかけたとして嫌われていたのですが、ペストのせいで完全に「あいつらは悪いやつだ」というふうになって追い込まれてしまった。そう考えると、実はペストもヒトラーにつながっています。第二次世界大戦の頃のドイツにつながっているわけです。

 日本でいうと、唐もしくは朝鮮半島の新羅から入ってきた「天然痘」の影響でできたのが奈良の大仏です。奈良の大仏は、天然痘で人がバタバタ死んでしまったのを鎮めるために作られた、という側面がすごく大きいのです。

 あとは、黄熱病を抑え込むことができたから中米のパナマ運河が完成しました。当時、労働者たちは黄熱病でバタバタ倒れていました。しかし蚊が媒介するウイルスだということがわかったから、対策として蚊を駆除したら、工事がスムーズに進むようになりました。それでパナマ運河ができて、大西洋と太平洋がつながったのです。

 さらに、スペインのピサロやコルテスが中南米のアステカ王国やインカ帝国を滅ぼしたときに、どうしてあんな少ない人数で勝てたのか。その一番の大きな理由は、メキシコとペルーに天然痘が流行って、戦う前からかなりの人数が死んでいたからです。それをわかっているから、スペイン人は天然痘に感染しそうな衣服を敵に送ったりしています。それで敵の王様も死んでいるのです。そうしてスペイン人が一帯を支配しました。

 すると何が起きたか。スペイン人はなぜか天然痘にかからない。でも、メキシコ人やペルー人はかかる。そうするとメキシコ人やペルー人は「自分たちが信じていたアステカの太陽神やペルーの神様は、意味がないんじゃないか」と思うわけです。「天然痘にかからない彼らは、キリスト教を信じている。だからキリスト教のヤハウェの方が、神として価値があるんじゃないか」と思ったのです。

 スペイン人が天然痘にかからなかったのには当然理由があって、子どものときにかかって免疫を持っていたからです。スペイン人にとって天然痘や麻疹は子どものときに普通にかかるもので、だから免疫がある人が多かった。ただそれだけなのに、天然痘によって中南米はクリスチャンばかりになってしまいます。今でも中南米は、ほぼみんなカトリックですよね。

 そのように、宗教の構図まで変えてきたのが感染症です。日本でも世界でも、ウイルスは歴史に強烈に作用してきたわけです。

【次ページ】なぜ歴史の授業にウイルスが出てこないのか?

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