• 会員限定
  • 2020/10/20 掲載

毎日10万包の試供品を3名で回す。広島の化粧品メーカーが明かす、徹底した自動化術

連載:経営トップに聞く「優秀企業のアプローチ」

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
「グッドカンパニー大賞」(中小企業研究センター選出)を受賞した企業の知られざる創意工夫を聞く本連載。第2回目は、広島に本社を置きヘアケア製品/化粧品メーカーを製造・販売するヤマサキに伺った。同社は経済産業省の「IT経営百選」「IT経営力大賞」などにも選出されており、先進的なICT活用を評価されてきた企業でもある。生産管理システムもSFAもスクラッチで開発し、ITによる効率化に並々ならぬ意欲を注いでいる同社 代表取締役 山崎 宏忠氏にその取り組みを聞いた。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

photo
ヤマサキの徹底した自動化の仕組みとは
(画像提供:ヤマサキ)



“洗い流さないトリートメント”開発、通販会社との提携で大ヒット

──貴社の成り立ちや事業内容、ビジョンについて教えていただけますか?

山崎宏忠 氏(以下、山崎氏):父親が警察官で、私も3年ほど警察官として働いていたのですが、制服をクリーニングに出すといつも、感心するほどキレイになって返って来ていました。それで、あるときクリーニング屋さんに「なぜ、いつもこんなにキレイになるのですか?」と尋ねると「特殊な業務用洗剤を使っている」と。それで、この洗剤を小分けにして家庭に売れば喜んでもらえるのでは? と考えて起業に踏み切りました。
photo
ヤマサキ
代表取締役
山崎宏忠 氏
警察官から一転、起業。洗剤の訪問販売からスタートし、同社を年商42億5000万円(2020年2月期)の企業まで育て上げた


 それが、ちょうど50年前の1970年のこと。当初は洗剤から始まり、いまはヘアケア、スキンケア、入浴剤・アロマの3分野で事業を展開しています。

 このうちシャンプーやヘアケアなどのヘアケア分野が売上の約9割を占める稼ぎ頭になっています。現在の主力商品になっているのが、お風呂上りのぬれた髪につけていただくトリートメントの「ラサーナ 海藻 ヘア エッセンス」です。

画像
同社の稼ぎ頭、主力製品になっているヘアケアのプランド「ラサーナ」。スキンケア、入浴剤・アロマの3分野で事業を展開しているが、ヘアケアが約9割の売上を占める
(画像提供:ヤマサキ)
 すでに発売してから22年がたちますが、当時は市場が存在しなかった“洗い流さないトリートメント”という新しいカテゴリーでした。この商品は、海藻を中心にした成分と美容成分で構成されていますので、普通のトリートメントと違い、洗い流さなくても良いという大きな特徴があります。現在では数十社の競合がおりますが、その中で連続12年間トップシェアになっています。

 ただ、発売当時は世の中にない商品だったので、なかなか受け入れてもらえませんでした。そこで、まず商品の良さを知っていただくために試供品を作り、実際に使ってもらおうと思いました。創業当初、衣類洗剤を小分けにし、訪問販売で売上を伸ばした成功体験があったので、同じ発想でやればうまくいくと思ったのです。

 さらに通販会社のニッセンやべルーナと提携し、その段ボール箱に弊社の試供品を一緒に入れていただく契約を結びました。通販会社のチャネルを活用し、販路を拡大する戦略を取ることで、お客さまへのリーチが広がりました。この手のビジネスモデルは当時なかったので、我々がはしりだと思います。この施策により商品の売上が1年で倍増しました。

毎日10万包の試供品を工員3名で回す自動化の仕組み

──貴社が工夫されている独自の取り組みや技術を教えてください。

山崎氏:我々は、ほとんどの商品の試供品をご提供し、商品の良さを納得してもらってから、お買い上げいただくようにしております。つまり、大量に作って、お配りする試供品が必要になるわけです。そのために、2007年に広島市内に3階建ての工場を建設しました。現在100名ほどの従業員が働いています。

 ここで主力商品のラサーナ 海藻 ヘア エッセンスをはじめとする商品だけでなく、試供品も生産しています。試供品については、年間3000万包、つまり月産で250万包、毎日10万包ぐらいを生産している計算です。

画像
2007年に始動した広島市の西風新都新工業地区の工場。3階建て、延べ床面積約5000平方メートルで、当時から自動化された最新の生産設備をそろえていた
(画像提供:ヤマサキ)

──えっ? 10万包もの試供品を毎日生産しているのですか?

山崎氏:はい、試供品の生産設備は国内トップクラスを誇ります。すべて自社工場で生産しているため、最新の生産設備を採用しています。いまは試供品用の機械が7台ありますが、これらを3名で回しているので、かなりオートメーション化が進んでいます。

 試供品の専用機械には、ロールのようなフィルムがセットしてあり、それを熱加工しながら袋の状態にして、数mlの試供品を充塡(じゅうてん)していきます。薬の自動パッキング装置に近いイメージでしょうか。

 また、工場では製造だけにとどまらず、原料の入荷から、資材の調達、そして製造後の出荷までのプロセスを一貫して実施しています。

画像
試供品用の機械。ロール状のフィルムがセットされ、これを袋状にして試供品を充填していく(写真左)。パッケージングされた試供品が機械から出てきたところ(写真右)
(画像提供:ヤマサキ)

画像
工場内の生産ラインの様子。こちらは試供品ではなく、正規の商品を生産しているところ。原料入荷から、資材調達、製造、出荷までのプロセスを一貫して行っている
(画像提供:ヤマサキ)

 まず入荷した材料や資材(容器など)は、コンピューター制御の立体自動倉庫に運ばれます。1000平方メートルのスペースに1100パレットを収納でき、空きパレットの棚に材料などが自動で移動されます。

画像
1000平方メートルのスペースに1100パレットを収納できる、ダイフク製の巨大な自動倉庫。在庫管理システムと連動し、空きパレットの棚に材料などを自動で移動する
(画像提供:ヤマサキ)

 在庫管理システムから、生産工程と使うパレットを登録すると、各生産工程の入出庫口に、必要な原材料が運ばれていきます。自動倉庫が生産管理システムと連携しているため、原料と資材の在庫状況がすべて把握でき、自動発注もできる仕組みです。これにより生産指示を自動発行したり、資材・原料・製品の厳密なロット管理を実現しています。

 また通販の出荷を行う現場では、DPS(デジタルピッキングシステム)が導入されています。通販で注文をいただくと納品書が発行され、そこに注文番号とバーコードが印刷されます。このバーコードをリーダーでスキャンすると棚のLEDが光って、各商品を何個取るのか表示されます。ペーパーレス化と誤発送の防止により、商品を迅速にお届けでき、作業効率の向上に一役買っています。

画像
通販の出荷時に使われているDPS(デジタルピッキングシステム)。注文ごとに複数の商品を箱詰めするために、商品棚についたLEDで個数を表示させ、必要な商品を取る仕組み
(画像提供:ヤマサキ)

【次ページ】生産管理システムもSFAもスクラッチで開発するこだわり

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます