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  • 2021/01/25 掲載

“畜産DX”、IPカメラとLINEで高品質な和牛が育つ?山形の食肉会社の取り組み

連載:経営トップに聞く「優秀企業のアプローチ」

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山形県にある高橋畜産食肉では、より鮮度の良い肉を安全に消費者に届けるために、独自の一貫生産流通体制「T1システム」を導入したり、さまざまな安全性に関する認証規格を取得するなど、強いこだわりを持って和牛を育てている。そんな同社はいま「畜産×ICT」の力とT1システムのデータを基に、エビデンスに基づいたデータドリブンな食肉生産にも挑戦しようとしているという。同社 代表取締役 髙橋勝幸氏に話を聞いた。
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高橋畜産食肉の牧場。現在、5つの直営牧場があり、山形牛、米沢牛、蔵王牛の高品質ブランド牛を育てている
(画像提供:高橋畜産食肉)


美味しくて新鮮で安全な肉を提供する独自の「TIシステム」

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高橋畜産食肉
代表取締役
髙橋勝幸氏
(画像提供:高橋畜産食肉)
──貴社の成り立ちについて教えていただけますか?

高橋畜産食肉 代表取締役 髙橋勝幸氏(以下、髙橋氏):初代社長の髙橋勝が、戦後まもない1948年(昭和23年)に畜産業を始め、翌年、山形市小姓町に「髙橋牛肉店」を開店しました。日本人に栄養が行き渡らない戦後の混乱期に、牛肉を食べた幸せそうな人々の「笑顔」を見たことが創業の原点です。

 当初、畜産業は山形市内だけでしたが、市内で家畜を飼うことが難しくなり、蔵王に平らな適地を見つけて牧場を作りました。こちらでは赤身の美味しいオリジナル牛を育て、商標登録も取りました。その後、米沢にも牛舎を作りました。ですから私たちは「山形牛」「蔵王牛」「米沢牛」という3つのブランドを持ち、生産・販売を行っています。
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高橋畜産食肉のブランド牛、左から細かなサシが綺麗に入りこんだ「山形牛」、松阪牛と並ぶ日本屈指の「米沢牛」、黒毛和牛の脂と野性味ある赤身肉の旨さの「蔵王牛」高橋畜産食肉の牧場。現在、5つの直営牧場があり、山形牛、米沢牛、蔵王牛の高品質ブランド牛を育てている
(画像提供:高橋畜産食肉)

──貴社ならではの独自の取り組みがあれば教えて下さい。

髙橋氏:私たちには独自の生産流通体制「T1システム」(高橋畜産食肉一貫生産体制/高橋のTと一貫の1)があり、牛の種付けから、お客さまにお肉を提供するまで、すべてを自社で責任を持って行っています。
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一般的な生産体制と、高橋畜産食肉独自の生産流通体制「T1システム」。牛の種付けから、お客さまにお肉を提供するまで、すべてを自社で責任をもつ一貫生産体制が特長の高橋畜産食肉の牧場。現在、5つの直営牧場があり、山形牛、米沢牛、蔵王牛の高品質ブランド牛を育てている
(画像提供:高橋畜産食肉)

 通常は繁殖農家で種付けし、子牛を10ヵ月ほど育てます。次に飼育農家で成牛に育て、種付から出荷まで計4年ほどかかります。出荷された牛は枝肉として市場にかかり、問屋が競り落とし、骨抜き加工した部分を肉屋に卸します。そこで肉をスライスし、消費者に販売されます。これらのすべてのプロセスを、分業ではなく、自社で行っているのが、私たちのT1システムということになります。

──T1システムのメリットとは何ですか?

髙橋氏:生産者の顔が見え、より安全で鮮度の良いお肉を届けられる点です。もし肉に何か課題があっても、すぐに生産段階まで下りて、フィードバックして改善できます。一般の流通過程ではマージンが乗りますが、自社ですべてやるので、リーズナブルな価格で提供できる点もメリットになります。

 そもそも、牛は敏感な動物なので、ちゃんと世話をしないと死んでしまいます。牧場にいる間はストレスのない環境で、いかに健康に育てるかということが重要です。そのためにスタッフは「牛の言葉がわかるぐらいまで愛情を持って育てていくこと」を目標にしています。

 飼料も健康に良く、食べやすいものを長年にわたって研究しており、精肉時には、お肉にダメージを与えない骨抜き技術を研鑽するために社内マイスター制度を導入しています。このように、さまざまなプロセスでこだわりを持ちながら、お肉を提供しているのが弊社の売りです。

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独自のマイスター制度を導入し、5段階評価でプロ中のプロを育成。肉を処理するスピード、断面の美しさ、整形の技術など、最高の職人の手で加工された牛肉を提供高橋畜産食肉の牧場。現在、5つの直営牧場があり、山形牛、米沢牛、蔵王牛の高品質ブランド牛を育てている
(画像提供:高橋畜産食肉)

──そうした取り組みが評価されたのか、中小企業研究センターの「グッドカンパニー大賞」(2018年・特別賞)にも選定されています。

髙橋氏:国は以前から、農林水産業の足腰を強くするために1次×2次×3次産業を合わせた「6次産業化」を進めています。その観点で、T1システムで生産から販売まで一貫した体制を整えている私たちの取り組みが評価されたと思っています。

 日本の1次産業が安定しづらいのは、やはり自分で作った生産物を自身の値段で決められない点です。いま、先進的な農家は、こだわりを持つ消費者に生産物や加工物を直販しています。こういったD to Cの取り組みが今後は求められていくでしょう。

 ただし、6次産業は1次から3次まで、すべてをこなす必要があり、実際にやるのは大変です。ジョブローテーションで、飼育者が店舗に立つなど、さまざまな仕事を担当します。負担もかかるため、社員の理解がないと難しいところもあります。その点で、6次産業を実践できていることは、私たちのチーム力を証明する結果になったと思います。



安全性に徹底的にこだわり、ISO22000、農場HACCP、JGAPを取得

──貴社は多くの認証を取得しています。

髙橋氏:多くのお客さまにお肉を提供させていただく中で、まず工場の安全レベルを高められるように、「ISO22000」の認証に挑戦しました。この規格は品質管理マネジメントのISO9000と、食品製造における安全管理手法のHACCPを合体させた認証規格です。

 規格取得のために社内に専門チームを作り、勉強会を開きながら、ISOのマニュアルづくりを行いました。数年間の準備を経て、2010年にISO22000を取得しました。これにより社員の衛生管理や安全性の意識が変わりました。安全目標を定め、毎月検証しながらPDCAを回し、外部監査用の記録を残して、透明性のあるプロセスを実現できました。

 その後、正しい農畜産業のやり方を認定する「JGAP」、畜産農場にHACCPの考え方を取り入れた「農場HACCP」もそれぞれ取得し、お墨付きのお肉をご提供しています。

──貴社の場合、すでにISO22000が取れていたので、農場HACCPを取得するのも容易だったのではないでしょうか?

髙橋氏:実はそうでもなくて、ISO22000は工場系で、農場HACCPは牧畜系なので働く社員も異なるため、やはり1からやらなければならず大変でした。牧場の仕事でも、すべての手順書づくりから始めるため、膨大な作業になります。社員に指導員の資格を取ってもらい、引っ張ってもらいましたが、時間もお金もそれなりにかかるので、まだ全国的にみると、ほとんどの畜産系の会社では手掛けられていない状況だと思います。

【次ページ】データから上質な肉の関係を調査、LINEWORKSで情報を共有
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