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  • 2021/01/06 掲載

MEMS(メムス)を簡単に解説。マイクやセンサに活用の技術、LiDARなど将来性は?

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現代のスマートフォンは、電話機能はもちろんだがWeb閲覧やメール、カメラ、動画閲覧、ナビゲーションなど、私たちのプライベートから仕事までをサポートする。スマートフォンがここまで高機能化・高性能化したのは、演算処理能力の向上に加え、各種センサ機能などを担う、「MEMS」と呼ばれる数mm角以下の微小なチップの貢献が大きい。MEMSの基礎知識について、第一人者である東北大学の田中秀治教授の監修の下、解説する。

監修:東北大学 教授 田中 秀治、執筆:物流・ITライター 坂田良平

監修:東北大学 教授 田中 秀治、執筆:物流・ITライター 坂田良平

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スマートフォンには多数のMEMSが使用されている
(Photo/Getty Images)


MEMSとは何か

 MEMSは、「Micro Electro Mechanical Systems」の頭文字を取ったものであり、「メムス」と読む。日本語では、「微小電子機械システム」と訳される。

 シリコンウェハーなどの上に、電子回路やセンサ、機械的に動くアクチュエーターなどを作りこんだ部品だ。半導体集積回路の製作技術などを利用している。

 MEMSは、電子回路に加え、センサやアクチュエーターなどの可動部を動かすための立体構造を備えている。対して、MEMSと混同されやすい半導体集積回路は、基板上で電気信号を処理することに特化している。

 たとえば、スマートフォンでは特定の電波を選択するためのBAWフィルタ、加速度センサ、ジャイロセンサ、マイクロフォン、気圧センサなどの複数のMEMSを利用しているが、それらを統合的に制御するのが半導体集積回路の役目になる。

 MEMSはさまざまな製品の中で使われているが、特に自動車やスマートフォンでの利用が代表的だ(下図参照)。

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自動車およびスマートフォンに搭載されているMEMSの例

 基本的にMEMSは同じ性能なら小さいほど良いとされる(製品として高い競争力を持つ)。たとえばスマートフォンのように複数のMEMSを搭載する場合、小さいMEMSほど、薄型スマホにするなど設計の自由度が広がる。

 また、小さいほどコストメリットも得られる。たとえば1mm角のMEMSは、3mm角のMEMSに対し、約10倍のコストメリットがある。これは、基盤となる8インチ(200mm)の円形シリコンウェハーの場合、集積できるMEMSの数には1mm角と3mm角とで約10倍の差が出るからである。MEMS小型化による製造コストは大幅に変わることはないため、MEMSは小型化するほどコストメリットが出る。

MEMS市場はスマートフォンの普及とともに広がった

 MEMSの起源は、20世紀なかばにさかのぼる。最初に開発されたMEMSについては、議論が分かれており、1951年の米エレクトロニクス企業RCA社(※現在はゼネラルエレクトリック社に買収された)が最初とする説、1963年に、トヨタ自動車グループの豊田中央研究所が開発した圧力センサを推す説、1967年に、WestinghouseのHarvey C. Nathansonらが開発したマイクロエレクトロニクス無線のチューナーが、最初のMEMSであるという説がある。

 当初、MEMSが多く採用されたのは自動車であった。1980年代には、排気ガスの浄化装置の一部にMEMS圧力センサが採用された。1990年代になると、MEMS加速度センサが自動車の衝突を検知し、エアバッグを作動させるセンサとして採用されている。

 一方で、MEMSのマーケットが爆発的に拡大したのは、ここ10年ほどだ。きっかけは、自動車より桁違いに台数の多いスマートフォンにMEMSが多数搭載されたことだ。

 自動車を家族全員分所有している家庭は少ないが、スマートフォンは1人1台所有するものだ。ワイヤレスイヤホンやスマートウォッチ、AIスピーカーなどMEMSを複数搭載している機器も合わせると、1人が日常的に利用しているMEMSの数は、100個以上におよぶ可能性がある。

 MEMSの活躍する場が自動車からスマートフォン/スマートデバイスへと拡大したことで、MEMSのマーケットも飛躍的に拡大したのだ。

 フランスの市場調査会社Yole Développementによれば、2019年度のMEMS市場規模は、115億ドルであった。2020年の市場予測は、新型コロナウイルスの影響により、5.2%減少の109億ドルにとどまるものの、長期的には年平均成長率は7.4%で推移、2025年のMEMS市場規模は、177億ドルに達すると予測されている。

MEMSの用途:スマートフォンの例

 MEMSはどのような用途で利用されているのか。代表的な例として、スマートフォンに搭載されているMEMSを挙げよう。

●BAWフィルタ(Bulk Acoustic Wave/弾性波フィルタ)
 当然のことだが、スマートフォンでは、電波を用いて、通話や各種データを通信する。通信する対象によって、使用される周波数は異なるし、また私たちの周囲には、TV、ラジオ、無線など、さまざまな周波数を用いた通信が飛び交っている。

 BAWフィルタは、スマートフォンが利用する特定の周波数の通信だけを通過させ、不要な周波数の除去する、文字通りのフィルタである。

 携帯電話網で利用される周波数は多岐にわたる上、国や地域によっては利用する周波数が異なる。そのため、スマートフォンでは、異なる周波数に対応するため、複数個のBAWフィルタを必要とする。ワールドワイドで発売されるiPhone等では、国ごとに異なる周波数に対応するため、さらに多くのBAWフィルタを必要とする。

●マイクロフォン
 iPhoneの場合、2008年に発売されたiPhone3から、マイクロフォンは、それまでのエレクトリックコンデンサーマイク(ECM)から、MEMSマイクロフォンに変更された。以降、その小ささ、低コスト性、安定した性能などから、ほとんどのスマートフォンでは、MEMSマイクロフォンが採用されている。

 さらに、ほとんどのスマートフォンでは、複数のMEMSマイクロフォンを搭載することで、ノイズを抑止するノイズキャンセリング機能を採用することが多くなってきている。

●ジャイロセンサ/加速度センサ/圧力センサ
 スマートフォンによっては、歩数系機能を搭載しているもの、さらには階段の昇降段数までも計測できるものもある。

 これは、ジャイロセンサ、加速度センサ、気圧センサなど、動きや位置を計測できる複数のMEMSセンサのおかげだ。これらのセンサの精度は極めて高く、たとえば気圧センサでは10cmレベルの精度で上下移動による気圧変化を感知できる。そのため、階段を何段登ったのかといったことが計測できるのだ。

 また、ワイヤレスイヤホンやワイヤレススピーカーなど、TWS(True Wireless Stereo)と呼ばれる音響機器にも、MEMSが搭載されている。マイクロフォンはもちろんだが、加速度センサ、タッチセンサなどに、複数のMEMSが採用されているのだ。

【次ページ】MEMSのその他の用途と可能性、田中教授が解説するMEMSの重要ポイント

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