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  • 2020/12/04 掲載

【フードテック事例】豆腐の相模屋&弁当の武蔵野HD、ロボット活用の教訓と成果

森山和道の「ロボット」基礎講座

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食品製造の自動化・省人化のための商談展「第1回フードテックジャパン」が幕張メッセにて11月25日~27日の日程で開催された。最終日にはロボット活用に関するセミナー「人手不足解消へ! ロボット導入・自動化を進めるには」が開催され、武蔵野ホールディングス エンジニアリング部 課長の本田晋氏と、相模屋食料 代表取締役社長の鳥越淳司氏が講演した。今回は、この2つの講演をレポートしておきたい。労働集約型産業へのロボット適用は期待が高いが課題も多い。食品工場だけでなく、どの業種にも通じる普遍的な課題とロボットのポテンシャルが見えてくる。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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弁当・サンドイッチ工場でのロボット導入における考え方

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武蔵野ホールディングス
エンジニアリング部 課長
本田晋氏

 武蔵野ホールディングスの本田氏は「弁当工場の自動化・ロボット導入の最新事例及び課題」と題して登壇し、食品工場へのロボット導入と現状について語った。同社では現在、60台くらいのロボットが稼働している。

 食品工場が生産している弁当やサンドイッチは商品改変が速い少量多品種製造で、人手作業が多く、生産性が向上しにくい。現場は外国人が増えており機器も多国籍コミュニケーションを前提とした配慮が必要とされている。またフードロスなど環境問題への対応のほか、工程増加、複数ラインでの段取り替え回数の多さから教育時間が必要とされるものの、そのための熟練人材の退職などさまざまな問題を抱えている。生産性については人手に頼っている限り、どうしても速度に限界がある。

 そこで武蔵野ホールディングスでは2012年5月から自動化プロジェクトを始めた。当時の目標は生産キャパシティーを現行の3倍にすること。本田氏は「弁当工場は実はすでに機械化が進んでいる」と語った。つまり生産性を上げたければ既存の機械を新規に入れ替え、ライン全体の生産能力を上げなければならない。そうなると機械も大型化する可能性が高く、コストがかさむ。そこでまずは省人化・省力化を優先して取り組み始めたという。

 では、どんな工程を自動化すべきか。商品の開発は、生産指示、材料準備、調理・炊飯、加工、仕分け、配送といった手順を踏む。このうち、炊飯やラベル貼り以外の作業、すなわち下処理、調理、盛り付け、蓋(ふた)閉め、弁当への別添貼り、店舗への配送のために商品を組み合わせていく仕分けなどに人手が使われている。また、工場内の番重(ばんじゅう)運びも人手だ。

 下処理工程が人手であるのは原材料の個体差が大きいからだ。しかし皮むきなどには専用機があり、生産性向上の工夫は可能だ。調理工程はレシピが複雑であり、かつ調理場環境はロボット導入するにしてもコストも難易度も高いと考えて、当時は自動化を見送った。盛り付け工程、仕分けにも複雑な判断と臨機応変な作業が必要だ。工程間搬送も通路が狭い既存工場では自動化は困難である。たぶん、どこの工場も似たような課題に直面しているだろう。

食品工場ならではの難しさに直面、撤去した設備も

 最終的に武蔵野ホールディングスが「省人化効果が大きい」と判断した工程は、盛り付けと仕分け工程だった。ここで省人化ができるならば原資も確保できる。

 そしてAGV(無人搬送車)による搬送や蓋かけ作業をいったんは自動化したものの現在は撤去してしまったという。理由はロボットが扱うワークの特性把握がやはり非常に難しかったことだ。たとえば当初は蓋かけのためにロボット1台で4つの蓋を弁当の中皿にかけていくという機械を開発したものの、自動化対象商品が具材を盛り付けたあとに容器ごと加熱と冷却を加えるものだったため、容器の形状が変形。その状態で蓋をかけるのが難しくなってしまった。そのために成功率が中途半端で、工程内でひっくり返してしまう事例が発生した。

 機械のオペレーションも課題だった。ロボットはそもそもスタート手順でさえ複雑で、ちょっと止まってしまう「チョコ停」が起きたときに復旧する手順も複雑だった。これまで弁当を作っていた現場の人に「機械を操作してください」といってもそれは無理というもの。いっぽうで機械の操作に手慣れたエンジニアを1人つけたら、人が増えてしまう。それでは投資対効果が出ない。

 つまり、そもそも要求仕様が発注側にとっても機械メーカーにとっても不明確であったことが撤去になってしまった原因だったという。そして、これは既存の設計手法の限界だと本田氏は指摘した。すなわち、一般の機械の設計手法のように、扱う対象の特性を計測してうんぬんというやり方では、食品工場には馴染(なじ)まないという。

 また、新規アイテム追加時の教示が非常に煩雑であったり、オペレーションパネルの多言語対応ができてないものはダメだと再度強調した。なお、これは食品工場以外の現場でもよく聞く話で、筆者個人も機会があるたびにロボットメーカー側には強調して伝えている。だがなかなか理解されない部分のようだ。

 武蔵野ホールディングスのロボット導入事例のうち、農林水産省や経済産業省の補助金事業を使って行われているものは公知になっている。本田氏は農林水産省の事業で行った弁当の包装・梱包(こんぽう)工程における仕分けロボットの事例や、経済産業省の事業のチルド弁当に対して蓋をかけるタイプのロボット事例などを紹介した。

 最後に本田氏は、「食の楽しみ」においては視覚、すなわち盛り付けが重要であることや、人のようにどんなワークでも扱えるロボットハンド開発の重要性を強調した。もちろん、ロボットセルは設置・撤去性が良いこと、人の作業エリア60cm以内に治ること、下流に不良品を流さないこと、サニテーションが容易であること、多言語対応などが重要になる。また協働ロボットを使うとむしろ生産性が落ちてしまうため、むしろ使わないほうがいいと語った。そして「柔軟ハンド、AI、高速化」が重要だと述べ、人のように見て判断して動くための要素技術の開発を進めてほしい、そういうものができれば食品だけではなく「全業種に展開できる」はずであり、そのためには国を上げて取り組むべきだと語った。

【次ページ】相模屋事例、豆腐業界でロボットを使いポテンシャルが広がった

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