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  • 2020/08/28 掲載

ウィズコロナの外食ロボット活用 、再定義される業界でフォーカスすべきは

森山和道の「ロボット」基礎講座

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生産年齢人口の減少によって高まった省人化ニーズ、新たな顧客体験創出やオペレーション最適化のためのデジタル化が進むなかに起こった新型コロナ禍。これからの「食」、特に外食産業はどうあるべきだろうか。ロボットを筆頭とした自動化技術は、どのような方向性であれば新たな価値をもたらすことができるのだろうか。ヒントを求めて、「食×テクノロジー」のコンサル会社・シグマクシスがまとめた書籍『フードテック革命』をめくった。注目すべき方向は外食産業の「アンバンドル化」かもしれない。新型コロナ禍は時計の針を早めると同時に、いったん立ち止まって今後の方向性を考え直す機会でもある。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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二子玉川・玉川高島屋S.C.南館にある三笠会館「THE GALLEY SEAFOOD & GRILL」ではサラダバーをロボットが搬送している

長期化するコロナ禍、瀬戸際の飲食店

 長引く新型コロナウイルス禍によって、多くの小売店・飲食店が瀬戸際に追いやられている。新型コロナ禍が始まった当初は、外出自粛や営業停止が行われるなか、多くの店が持ち帰りやデリバリーを新規導入して少しでも売上を上げて生き残ろうとした。国土交通省もテラス営業などの許可基準を緩和した。テラス営業はお店が開かれていることがひと目でわかるので活気を生み出すことにもつながる。だが今年の酷暑下では、テラス営業も厳しい。

 いっぽう、特に対策を行ってないように見える店に少なからぬ人たちが集まって飲食を続けている現実もある。これまで開業延期していた大型商業施設も開き始めた。これで新型コロナウイルスの流行が収まったら、むしろ不思議としか言いようがない。

 「ウィズコロナ」のさらなる長期化はもはや必至だ。これまで集客しやすい立地に店舗を構えていたところがテレワークの進展によって閑古鳥が鳴くようになり、高額な家賃負担ばかりが重たくなって、郊外進出が再び検討され始めた。また、居酒屋チェーンがランチ中心の定食屋スタイルにシフトするなど、多くの企業が、営業スタイル自体を大幅に軌道修正せざるを得なくなっている。

 しかし「3密」を避けるための空調設備増設や空気清浄機の追加導入、入り口に設置する検温装置や消毒グッズ、飛沫ガードの購入など各種コストが増す一方で、「ソーシャルディスタンス」を保つための客席・テーブルの間引きが広く行われており、売上低下はどうやっても避けられない状況だ。今までは「いらっしゃい、いらっしゃい」だったのが、外的な理由で客数を抑制しなければならなくなったのだから、どう考えても無理がある。


「店ならではの空間価値を維持する」ということ

 いずれにしても、少しでもコストを下げて、客単価を上げる必要がある。そのため多くの飲食店では、持ち帰りの推奨など小売へのシフトのほか、新型コロナ禍前から省人化によるコスト削減を主目的として試験されていた、スマホを使った「モバイルオーダー」などが本格展開され始めた。これだと「非接触」での接客が可能になるので、今では新たな価値も生まれると注目されている。

 同様のコンセプトで、小売店では、事前注文していた品物を駐車場で受けとる「パーク&ゴー」という仕組みも導入され始めた。これらに期待している方も少なくない。だが、これだと「目的買い」以外の商品と出会う可能性は低い。たとえば新商品を買ってもらえる機会は激減するし、また、ショッピングや外食がもともと持っている「楽しさ」を削ってしまっていることは否めず、客にとっても店にとっても、優れたソリューションとは言い難い。

 そもそも我々は栄養摂取と空腹を満たすためだけに飲食するわけではないし、飲食店に対しても単に「料理」だけを求めて外食しているわけではない。わざわざ外出して飲食店に足を運ぶのは、飲食を取り巻く「体験」自体にも価値があるからだ。従業員のもてなし、店舗のしつらえ、客たち自身の心持ち、それらすべてが渾然一体となって共創される雰囲気や場、「空間価値」のようなものがあるからこそ、我々はお気に入りの店に行く。だが、いま、どのお店も苦境に陥っている。


 このような背景のなか、ロボットや自動化技術は何が可能なのか。すでに、ホールで動く配膳・下膳ロボットや、厨房(ちゅうぼう)で動く調理ロボット、あるいはホール内の従業員あるいは顧客の動きを見える化して店舗内オペレーションそのものを改善する技術などが、さまざまなメディアで紹介されている。

 たしかに、製造業ではすでに導入されている見える化技術を使った効率化ノウハウを、レガシーなサービス業に導入することで、これまでよりも段違いの効率化は可能だと思われる。事実、それらのサービスを展開し始めた会社も増えつつある。大手ではパナソニックなどもこのような考え方を推進している。

 ただ、筆者自身も各種のロボットや自動機械を折に触れて紹介しているのだが、現状の技術だけでは明らかに足りない。個別の機械の機能はものすごく高いというわけでもなく、相互接続することで新たな価値を生むに至るほどの完成度でもない。現状では下手をすると設備投資金額が増大するだけにとどまってしまう。

 もう一歩踏み込むことはできないのだろうか。このような問題に対して「銀の弾丸」のような単純明解な答えが存在するわけもないことは理解しているが、せめて何か、方向性だけでも探りたい。最近、いつもそう考えている。

『フードテック革命』──「フードロボット」や「自販機3.0」の可能性

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『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』
 今回、ヒントを求めて手に取った『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』(田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀/日経BP社)は、食とテクノロジーを起点としたビジネス関連の動向をまとめた本だ。

 著者は、ユニークなカンファレンス「スマートキッチン・サミット・ジャパン」の主催など、「食×テクノロジー」を中心としたDXコンサルティングを行っているシグマクシスのメンバー。食品メーカー、外食、小売、IoT化されるキッチン家電、代替プロテインなどの動向だけでなく、ウェルビーイングやSDGsなどを大きなトレンドとして見据え、今後、特に日本のプレーヤーがどう考え、動くべきかを提言している。各章の間に挿入されている業界キーマンへのインタビュー記事も興味深い。

 「食」は誰にでも当事者意識を持ち、「ウェルビーイング」のように、ともすれば抽象的になりがちな話題を具体化して考えられる領域であると同時に、生産・加工・流通など泥臭いビジネスのほか、健康や廃棄・環境問題など多くの論点が関わる業界でもある。2019年のスマートキッチン・サミットには筆者も参加させてもらったのだが、さまざまな刺激を受けることができた。


 さて、この本のなかで、人手不足を起因として実は硬直化していたコスト構造と、生産性向上の問題を抱える外食産業において、新しい価値や体験を生み出すためにテクノロジーが欠かせないとし、そのトレンドは「フードロボット」「自販機3.0」「デリバリー&ピックアップ」「ゴーストキッチン&シェア型セントラルキッチン」の4つのキーワードだとまとめられている。


 もともと、ロボットによる調理は「省人化」と調理工程自体を客に披露する「エンタメ性」が主な目的だった。そこに新型コロナ禍が起き、今は「非接触」といった衛生面での価値も大きく見直されるに至っている。「自販機3.0」はいわば、そのロボットや食材を丸ごと筐体(きょうたい)のなかに収めてしまった自動調理装置だ。さらにスマホを活用した注文決済や、カスタマイズ、パーソナライゼーションが重要視されている。


 デリバリー&ピックアップにもスマホとロボットが活用される。特に欧米では、単なる「出前」を超えた業態へと拡張され始めているという。各レストランは街中だけでなく、スマホのなかでも存在感を発揮しなければ選ばれなくなるかもしれない。

 ゴーストキッチン&シェア型セントラルキッチンは、大手チェーンのセントラルキッチンと違って、複数の店舗がキッチンを共有するようなものだ。客もデリバリー&ピックアップの浸透によって、さまざまな料理を複数の店舗から取り寄せるようになっており、これらは互いに関係しあっている。詳細は本を読んでもらいたい。

【次ページ】サービスに直結しない部分は機械で、共感を求められる部分は人で

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