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- 2021/02/25 掲載
ロボットの進化系「人工人間」に向けた3つのアプローチ、人と技術はどう融合するか?
人と人工人間の目指すべき共存の姿とは
ロボット工学やAI技術の近年の発達ぶりは目覚ましいものがある。その一端は、頭脳だけでなく身体や感情などもテクノロジーで具現化を目指す「人工人間(Artificial Human)」からも見て取れる。この領域ではバーチャル環境で疑似的な感情を持ち、人間のように動き回るものや、リアルな身体を持つものなどがすでに登場。各種案内などの用途を皮切りに現実世界に根を下ろし始めている。ガートナーのマーティー・レズニック氏は、「今後、人工人間は人にさらに近づくことで、2040年にはオフィスの同僚に人工人間が含まれていても不思議ではない。彼らは平凡なタスクだけでなく、創造的な仕事も手掛けることになるはずだ」と予測する。と同時に、次のような問いを我々に投げかける。
「必然的に、企業の顧客にもなり得ることで人工人間はもはやツールの範疇を超える。では、そうした中にあって、社会の発展に向け人と人工人間は今後、どう共存すべきなのか。また、人工人間をどう発展させればよいのか」(レズニック氏)
そんな人工人間に代表される、破壊的な先端技術のリサーチと知見獲得に向けガートナーが実施しているのが「Maverickリサーチ・プログラム」だ。同プログラムでは、慣例であるコンセンサス形成プロセスの制約を経ずに新たなトピックを紹介し、新しいリサーチ・デザインを開拓することで、一歩先を行く企業のIT活用を支援する。
2040年には人の半数が技術により能力を増強
過去を知ることは将来展望の足掛かりとなる。その点からMaverickリサーチ・プログラムを基にレズニック氏が提示したのが、1948年から始まる「人間設計の年表」だ。この年のトピックが、国際連合総会での「世界人権宣言」の採択だ。レズニック氏は、「当時、人の“強化”のための人体実験が、人権上の大きな問題となっていた。この行き過ぎた状況に国連が“待った”をかけたのだ」と説明する。
その10年後には、科学技術で人間の身体と認知能力を進化させる「トランスヒューマニズム(英: Transhumanism)」という考えが言葉として登場。72年に遺伝子組み換えが初めて成功し、93年にゲノム編集技術「CRISPR」が誕生する。
並行して、情報革新を背景に仮想現実の研究が進み、68年に世界初のVR用HMDが誕生する。米国空軍で完全没入型ARシステムが採用されたのが92年だ。こうした流れの中でのエポックメイキングな出来事としてレズニック氏が挙げたのが98年のチェス大会だ。
「この大会で人が初めてAIに敗北した。ただ、翌年には人がAIを使うことで前回の対戦相手に雪辱を果たす。この出来事を通じ、人とコンピューターが協調することで、それぞれだが単独で機能するより高い能力を生み出せることが広く知られることとなった」(レズニック氏)
この考えを発展させたのが、現時点では人とは別存在であるロボットやAIなどの技術と人との融合だ。技術的には能力向上の対象には骨格から頭脳まで人体のあらゆる部位が含まれ、融合が進むほど人と必然的に技術の境界があいまいとなる。
すると、これまでになかった疑問がいくつも生じるはずだ。たとえば、人の頭脳を感情も含めてAIで完全に再現されても、それは人とは言えないのか。どこまでが機械であれば人と言えるのか──。それらの考察において、人権が無視できない課題となるのは倫理的、社会的、法的にも歴史から明らかだろう。
「米国では2026年までに人工人間に関する法案が可決される見通しで、他国でも同様の動きが相次ぐはずだ」とレズニック氏。その過程で保守派と急進派の団体が生まれ、その後、人間の知能をAIが超越するトランセンデンスの実験が35年に初めて成功。2040までに世界の市民の過半数で何らかのかたちで能力増強がなされるようになるというのがガートナーの描く未来予想図だ。
なお、ガートナーでは戦略的プランニングの仮説事項として、「2025年までに企業の40%は、ヒューマン・オーグメンテーション(人間の能力を拡張させるテクノロジー)の技術と手法を採用することによって、人間を考慮した設計から人間自体の設計へと焦点を移す」としているほか、「2040年までに、世界の人口の30%は、生合成デバイスの装着や体内への埋め込みによって増強される」としている。
【次ページ】人間の定義を巡るこれほどの難しさ
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