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  • 2021/06/07

レディーガガはマーケティングの天才?大ヒットを作る「宣伝テクニック」とは

【連載】エンタメビジネスの勝ち筋

ここ数年、商品ヒットを生み出すために行われる「プロモーション活動」や「顧客のターゲティング」が難しくなってきています。背景には、SNSの発展など、“デジタル化”による個人の趣味・嗜好の分散化などが関係していると言われています。こうした中、エンターテインメントビジネスの世界では、新しいヒット誕生の形が見られるようになっています。その代表的な事例の1つに、「レディー・ガガ」が挙げられます。今回は、ハーバード・ビジネススクールのアニータ・エルバース教授の著書『ブロックバスター戦略』で紹介されている新商品のリリース戦略をベースに、レディー・ガガのヒットのカラクリをご紹介します。

京都精華大学 准教授 富樫佳織

京都精華大学 准教授 富樫佳織

学習院大学法学部卒業。早稲田大学商学研究科修了(MBA)NHK(日本放送協会)、放送作家、WOWOWでのプロデューサーを経て現職。専門は、ビジネスモデル、イノベーション・プロセス、コンテンツビジネス、マーケティング。放送番組の受賞歴として『Blueman Group Connect to Japan』(WOWOW)での第40回国際エミー賞アート番組部門ファイナリスト、第2回衛星放送協会オリジナル番組アワード中継番組部門最優秀番組、映文連アワード2013「ソーシャルコミュニケーション部門」部門優秀賞、ほか。著書に『この一冊で全部わかる ビジネスモデル』(2020年、SBクリエイティブ)『やわらかロジカルな話し方』(2017年、クロスメディア・パブリッシング)。

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なぜレディー・ガガは大成功したのか? ハーバード・ビジネススクールのアニータ・エルバース教授の唱える理論をもとに、大ヒットのカラクリを紐解く
(写真:AP/アフロ)

エンタメ業界の「プロモーション活動の仕組み」

 「デジタル化の影響で、プロモーション活動が難しくなった」、「大きなヒットを生み出しづらくなった」、という声を聞いて久しくなります。SNSサービスによるコミュニケーション革新、アプリサービスによる情報や商品提供の革新は、個人の嗜好の分散化を促進し、従来のターゲティング戦略は困難になるばかりです。

 一方、エンターテインメント(以下、エンタメ)ビジネスでは、これまでには見られない形のヒットが目立っています。背景には、「デジタル化によるサプライチェーンの変化」や「ファンの活動変化」があります。

 今回、こうしたエンタメビジネスの新しいヒットの形を紐解く上で注目したいのが、ハーバード・ビジネススクールのアニータ・エルバース教授の著書『ブロックバスター戦略』(2015)で紹介されている「限定リリース戦略」と呼ばれる、新商品をリリースするときに役立つ戦略です。

 そもそも、エンタメビジネスおいてプロモーション活動はどのように行われているのでしょうか。

 一般的に、映画や音楽といったエンタメコンテンツは、代金を支払って鑑賞や視聴をし、初めて製品の価値を判断できる「経験財」です。そのため、事前のプロモーションに莫大な予算を投じてリリース直後の短期間で大きな収益を狙う特徴があります(これを「ワイドリリース戦略」と呼ぶ)。

 ただし、知名度の高い監督や俳優、アーティストが起用されているなど、ヒットが想定できる作品以外に莫大な宣伝費を投じるのは現実的ではなく、ワイドリリース戦略が必ずしも適切なアプローチとは言えません。

 また、コンテンツ産業では、メガヒットにはならなくても熱心な一定層のファンが見込める作品や、市場の多様性を高めるための挑戦的な作品を制作していく必要もあります。そのような作品のリリース戦略として、TwitterやInstagramなどのSNS、YouTube、ファンミーティングなどを活用して徐々に話題を高めていく「限定リリース戦略」と呼ばれる戦略の重要性が増しています。

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図表1:限定リリース戦略
出所:Elberse(2013)

 限定リリース戦略は、製品発売前からSNSなどでプロモーションを段階的に行い、商品リリース後は売れ行きに合わせて宣伝コストを割いていく手法です(図表1)。コンテンツだけではなく、売れ行きの予想が難しい新製品などのケースで、宣伝費に大金をつぎ込んだのに失敗に終わるというリスクを減らす施策としても有効です。

 この戦略の鍵となるのは、継続的に消費を続けてくれる固定客と、その固定客が発信する口コミによって徐々に市場が拡大されていくことです。一方で、限定リリースは、発信者側が情報の流通量をコントロールできないというもどかしさもあります。

レディー・ガガは、どのように大ヒットを創出したのか?

 エルバース教授の著書では、限定リリース戦略の事例として、レディー・ガガの2011年に大ヒットした『Born this way』の大ヒットを取り上げています。

 レディー・ガガは、この曲をひっさげたコンサートツアー『Born this way ball』の冒頭で、ステージから観客に「my little monsters.(私のリトルモンスターたち)」と呼びかけています。リトル・モンスターとは、レディー・ガガがデビュー以来、FacebookやTwitterで使っていたファンの呼び名です。


 彼女はSNSで自らメッセージをリトル・モンスターたち投げかけ、ファンの言葉に直接応えながら絆を深めて、2011年までにTwitterで最多のフォロワー数を獲得しました。こうした草の根的なファン拡大(限定リリース戦略)がピークに達した2011年2月に『Born this way』のシングルが、同年5月にはアルバムが発売され爆発的なヒットとなりました。

 この『Born this way』という曲こそ、現在のレディー・ガガを作り上げた戦略の転換点でした。

凄すぎる戦略転換のタイミング

 レディー・ガガとマネージャーのトロイ・カーターが契約するインタースコープレコードは、『Born this way』の発売にあたり、それまでの売れ行きに合わせて宣伝コストを調整する限定リリース戦略の路線から、「ワイドリリース戦略」(図表2)に転換させました。

 ワイドリリース戦略とは、作品リリースの直前までに宣伝プロモーションに大きな予算を投じて、CMやメディア出演、イベントでの露出を図り、話題性をピークにまで高める手法です。宣伝費を作品発売の半年ほど前から徐々に増やし、リリース直前に合わせて最大の費用を投じます。一方で、作品がリリースされた後の宣伝投資は減少します。

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図表2:ワイドリリース戦略
出所:Elberse(2013)

 コンテンツ商材はリリースされてから2週間ほどで大きく売って、ほとんどの利益回収を行うことから、このような宣伝戦略が業界では慣例的です。エルバース教授も著書でコンテンツにおいては合理的な戦略だと述べています。

 2011年時点で、レディー・ガガはTwitterのフォロワー数が最大、Facebookでも知名度の高いアーティストに成長していました。ワイドリリース戦略にプロモーションを切り替えるには、ベストのタイミングだったと言えるでしょう。

 2011年の年が開けると、日本でも『Born this way』のCMをよく目にするようになりました。同年5月にアルバムが発売されると、世界主要国のiTunesダウンロードチャートで1位を独占し、アメリカでは配信後3時間で1位を獲得しました。未だかつてないスピード感でレディー・ガガの成功はSNSを通じて飛び交いました。

【次ページ】レディー・ガガの楽曲ランキングから見る、戦略転換の効果
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レディー・ガガは、状況に応じて戦略転換をしたが、その効果とは?戦略転換以降、発表した楽曲の順位が、どのように変化していったか?(次のページで解説します)
出所:billboard HPを参照して筆者作成
 

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