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  • 2021/11/10

「フィジカルインターネット」で変わる日本の物流、2030年には業界一変か

連載:「日本の物流現場から」

2021年10月6日、経済産業省は、「第1回フィジカルインターネット実現会議」を開催した。「フィジカルインターネット」とは、インターネットの仕組みをまねて、物流を最適化しようとする試みで、物流の究極の形の1つという見方もできる。本稿では、フィジカルインターネットの概念と、現業の運送会社、倉庫会社に対してどのような影響をもたらすのかを考えていこう。

物流・ITライター 坂田 良平

物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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日本の物流を大きく変える可能性を秘めた「フィジカルインターネット」とは
(Photo/Getty Images)

最適とは言い難い、現在の物流

 フィジカルインターネットの背景知識として、ある製品が、皆さまの手に届くまでの過程を考えてみよう。

  1. メーカーの工場で完成した製品は、品質検査や検品を受けた上で、大都市圏(ないしその近隣)にある、メーカーの物流センターまで輸送される。

  2. メーカーの物流センターでは、再度検品を行った上で、仕分けされて、たとえば家電量販店の運営する物流センターまで輸送される。

  3. 家電量販店の物流センターでは、さらに検品を行った上で、店舗ごとに仕分けされ、店舗まで配送される。

 このケースでは、検品を3回も行っている。もし、メーカー工場から販売店まで直送できれば、検品は工場出荷時の1度で完了できる。3回も検品を行うのは、仕分けが途中で行われるため、製品を破損している可能性がゼロではないことも理由の1つだ。

 輸送の担い手である、トラック側の事情も考えよう。この例では、最低3台のトラックが登場する。

  • メーカー工場からメーカー物流センターへの輸送を担うトラック。

  • メーカー物流センターから家電量販店物流センターへの輸送を担うトラック。

  • 家電量販店物流センターから店舗への輸送を担うトラック。

 これらのトラックの荷台は、常に最大に近い積載率を実現しているのだろうか?残念ながら、それはありえない。家電量販店がメーカーに対し、トラックを常に満載にするほどの製品発注を行うことはありえないし、そもそも、家電量販店側は、トラックのキャパシティを気にして発注をするわけではないからだ。

 トラックの輸送効率の最大化、すなわち満載に近い積載率を実現するためには、その日の輸送量に対し、空きスペースを充当できるだけの貨物を探せばいい。だが、これは理想論であり、空論である。日々の業務に忙殺される配車担当者に、積載率を最大化できるような、ちょうど良いボリューム感と行き先の貨物を探す手間をかけている余裕はない。

 現代の物流は、さらなる効率化を求め、進化を続けてきた。にも関わらず、このように非効率な部分がまだ残っているのだ。

フィジカルインターネットとは

 フィジカルインターネットは、インターネットの仕組み、とりわけ、シェアリング(共有)とコネクト(連携)をまねて、物流を最適化しようとする試みである。

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フィジカルインターネットとは
(出典:経済産業省資料)

 フィジカルインターネットというキーワードの創造主である、ジョージア工科大学 ブノア・モントルイユ教授の著書『フィジカルインターネット 企業間の壁を崩す物流革命』(日経BP刊)において、フィジカルインターネットは以下のように定義されている。
フィジカルインターネットは、相互に結びついた物流ネットワークを基盤とするグローバルなロジスティクスシステムである。その目指すところは効率性と持続可能性の向上であり、プロトコルの共有、モジュラー式コンテナ、スマートインターフェースの標準化を図る
 たとえば読者の皆さまは、あなたが本稿を閲覧しているPCやスマートフォン、タブレットなどに対し、本稿のデータ(文字や画像など)が、どういった経路を経由して表示されるに至っているかを意識している人はいないと思う。

 これは、相互に接続され、共有と連携を実現したインターネットという仕組みが、あなたにとって最適な経路を自律的に選択し、本稿コンテンツをお届けしているから、実現していることだ。

 現在の物流ネットワークは、インターネットに例えると専用線の膨大な集合体である。メーカーから物流センター、物流センターから店舗へと運ばれる輸送ルートは、その貨物を輸送するためにしつらえられた、その貨物のためだけの専用輸送ルートである。

 もちろん、共同輸送や路線便といった、共同輸送のために実現している仕組みもある。しかし、どちらも輸送可能な貨物や輸送範囲には制限がある。

 フィジカルインターネットは、荷主間にある壁、物流事業者間にある壁、運べる/運べない貨物の壁などを取り除き、限りなくオープンな物流ネットワークを創り上げることで、究極に最適化された物流を目指す、物流革命なのだ。

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フィジカルインターネット計画の進め方
(出典:経済産業省資料)

フィジカルインターネットに欠かせない3つのポイント

 乱暴なたとえになるが、世界に“物流の神様”がいて、世界中の貨物と、輸送リソース、倉庫の空き状況を見ることができれば、「ウチの貨物を保管する倉庫がありません」「仙台から帰り便が空いています」などといった荷主や物流事業者の嘆きは、きっとすべて解決してしまうであろう。

 フィジカルインターネットは、こうした“物流の神様”に近しい存在を、人の手によって創り上げるための切磋琢磨と考えられる。では、“物流の神様”たるフィジカルインターネットに必要な要素は何か?

 1つ目は、すべての情報を見通すことのできる力である。貨物、トラックなどの輸送リソース、倉庫の空き状況などが、オープンかつリアルタイムに共有されていれば、ありとあらゆる物流リソースを最適化することができる。

 1993年には55%近くあったトラックの積載効率は、現在では40%以下まで低下している。この原因には、時間指定輸送であったり、貨物が多品種・小ロット化していることが考えられる。つまり、相積みできる貨物のマッチングが、以前よりも難しくなっているためだが、フィジカルインターネットによって、こういった諸事情をクリアできれば、トラックの積載率も空き倉庫の割合も、劇的に改善するであろう。

 2つ目は、貨物・輸送リソース・倉庫の空き状況などの情報が、共通の形式で入手伝達可能であることだ。かたやFAX、かたや電話、もしくはメールや、形式の異なるファイル形式でやり取りされる情報を、すべて適切に理解することは難しい。共通のデータ形式、すなわち標準化されたプロトコルの存在が、フィジカルインターネットでは必須となる。

 3つ目は、標準化されたコンテナの存在である。仮に「この貨物を自分のトラックに積めば、積載率を向上させることができる」とわかっていたとしても、手積み手卸しによる積み替えを強いられれば、運送会社同士はお互いに面倒であろう。第一、手積み手卸しを必要とする貨物であれば、積載効率は、積み込みを行うトラックドライバーの積み込み技術にも左右されてしまう。すなわち、必ず積めるという安全マージンを確保せざるを得ず、したがって積載効率は自ずと下がってしまう。

 標準化された複数サイズのコンテナが用意できれば、積み地から卸し地まで、途中で何回積み替えがあろうとも、コンテナを開封することなく、輸送することができる。いわば、海上コンテナ輸送で実現した輸送方式を陸上で再現する形ではあるが、標準化されたコンテナなくして、フィジカルインターネットは実現しない。

 なお、フィジカルインターネットへの取り組みは、輸送プロセスだけに影響するものではない。フィジカルインターネットとは、サプライチェーン全体を最適化するものだからだ。

 フィジカルインターネットの考え方では、メーカーも標準化されたコンテナサイズに収まるように、製品開発を進めることが求められる。そうしないとメーカーは、フィジカルインターネットが実現した物流革命後の物流ネットワークを利用できず、現在の主流であり、フィジカルインターネットが実現する頃にはレガシーな存在となっているかもしれない、専用線型物流ネットワークを利用せざるを得なくなるだろう。

【次ページ】フィジカルインターネットは、運送会社や倉庫会社にどのような影響をもたらすのか?

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