製品を完成させるまでのタイミング
製品在庫としてあらかじめもっていれば、顧客へのリードタイムは短くなり、販売機会の損失を防ぎやすくなりますが、在庫として残るリスクが増えてしまいます。しかしこれは、在庫をもつかもたないかの二者択一ではありません。在庫は仕掛品という途中の段階で保管するなど、以下のような複数の方式があります。
図表1の「☆」部分は、流通におけるデカップリングポイント(デカップリングとは分断・分離という意味)と呼ばれ、このタイミングで顧客からの発注を受けることを指します。製品在庫、仕掛品、原材料、どの時点で顧客からの発注を受けるかによって、生産方式が次の通り分類されています(図表2)。
(1)見込生産方式(MTS/Make-to-Stock)
顧客からの注文を受ける前に製品を完成させておくため、需要予測を基に生産しておく必要がある。食料品、文具、アパレルなど多くの一般消費財はこの方式の製品が多い。
(2)受注組立生産方式(ATO/Assemble-to-Order)
顧客からの注文を受けて、最終組み立てや加工を行い、仕掛品として在庫をもっておく。これは共通の原材料からカスタマイズされた製品を作る場合に有効。注文に合わせて最終製品にするため、(1)見込生産方式よりも在庫リスクを抑えることができる。BTO(Build-to-Order)と呼ばれることもある。
パソコンでよく見られる生産方式だが、これは製品のモデルチェンジのサイクルが早い製品で、特に有効と考えられている。モデルチェンジ後も一部の原材料は継続して使用できる場合も多く、それをムダにするリスクを減らすことができるためだ。
ただしもちろん、(1)見込生産方式よりも納品までの時間はかかるため、顧客がそれを受け入れる必要がある。パソコンメーカーであるデルコンピュータ社は、デル・ダイレクトモデルと呼ばれる、受注組立生産と顧客への直接販売を組み合わせたモデルで1990年代に急成長した。
(3)受注生産方式(MTO/Make-to-Order)
顧客からの注文を受けてから、製品の製造を行う。原材料は在庫として用意しておく。顧客の希望するリードタイムに間に合うのであれば、製品の在庫リスクを軽減することができる。製品よりも仕掛品、仕掛品よりも原材料のほうが、付加価値が加わっていないために在庫金額が安く、棚卸資産を少なく抑えることができる。
製品に名前やロゴを入れるサービスがあるが、これは受注生産方式に該当する。化粧品でも容器に名前を入れたり、容器の柄を選んだりするサービスが登場しており、これらは「パーソナライズド(Personalized)コスメ」などと呼ばれ、注目を浴び始めている。この生産方式は(2)受注組立生産方式よりもさらに納品までの時間が長くなるが、こうした顧客オリジナルの製品であれば、通常の製品よりも、顧客は待っても良いという気持ちになる。
(4)受注設計生産方式(ETO/Engineer-to-Order)
顧客の注文を受けてから、顧客の希望する技術的設計を行ったり、大規模カスタマイズを行ったりして、製品を生産する。そのため、顧客からの注文を踏まえて原材料を調達する。航空機、船、注文住宅といった製品はこの方式で生産される。この生産方式は納品までの時間が最も長くなるが、メーカーは在庫リスクを負わなくて良いという大きなメリットがある。
扱う製品の種類が限定的で、生産量が比較的多い場合は「見込生産」、製品の種類が多く、出荷するときの形態が多い場合は「受注生産」が採用される傾向があります。
ただ、こういった分類も固定されたものではなく、イケアのように組み立て前の家具を商品として販売して、顧客が組み立てる販売方法を取っているものや、文具のペンでキャップ・ボディー・インクを別々に顧客が購入できて、カスタマイズするといった例もあります。
また、図表2のデカップリングポイントから左側の領域は、需要予測に基づいた製造になります。
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