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「グローバルライトハウス」とは何か──。世界経済フォーラムは、世界の工場の中から、各国製造業企業のお手本となるような工場を選定・認定をしており、この認定を受けた最先端工場をグローバルライトハウスと呼ぶ。現在、認定を受けている工場は90に上るが、この大半を中国や欧米企業の工場が占めている。かつて、ものづくり大国と呼ばれた日本の認定数を見ると、厳しい状況にあるが、巻き返しはあるのか。ここでは、グローバルライトハウスが何かを解説するとともに、グローバルライトハウスに認定された工場の特徴から見えてくる、日本のものづくりの課題を解説する。
「グローバルライトハウス」とは?
「グローバルライトハウス(Global Lighthouse)」とは、世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)が、製造業のロールモデル(灯台)となる工場として認定した工場だ。全世界の1000以上の工場から、選定・認定されており、これまで90工場が認定されている。選定基準は主に下記である。
【主な選定基準】
自動化による生産効率向上
人材育成や働き方
企業や業界の持続可能性
社会や環境へのインパクト
特に、環境対応やサステナビリティの重要性が高まっており、最新の2021年9月の認定においては、通常のライトハウスとともに、環境対応・持続可能性の観点でのロールモデル工場として「サステナビリティライトハウス」も新たに認定されている。
これからはデジタル化によるビジネスの高度化・効率化と、環境対応の両立であるエコエフィシェンシー(環境効率)が不可欠とされている。ドイツのIndustry4.0も新たに発表されたVision2030で「持続可能性」をキーコンセプトとして打ち出すとともに、欧州委員会は「持続可能性」「レジリエンス」「人間中心」からなるIndusutry5.0を打ち出している。
先端ものづくりの領域においても“デジタル”と“環境”が切り離せない関係になってきているのだ。
日本は何個認定されてる? 世界の認定工場の内訳
グローバルライトハウスの90認定工場の所属国内訳としては、中国が29カ国と圧倒的に多く、米国(9カ国)、ドイツ(5カ国)がそれに次ぐ状況である。また、インダストリー4.0の提唱国であるドイツを中心とした西欧・東欧の欧州は合計では23カ国と多い。
トルコは4工場と世界4位(フランスと同位)の認定工場数を有し、東南アジア・インドの合計で10工場が認定されるなど、新興国にも認定工場が多いことも特徴だ。
今まで新興国のものづくりは先進国企業が本社国のマザープラントの生産技術を「移管」する対象であった。しかし、新興国で先端的なライン・ものづくりが生まれ、それが先進国に逆流する流れも生まれてきている。
また、産業別に認定工場を見ると、家電・エレクトロニクス分野で25工場、自動車(10工場)などの組立産業や、生活消費財産業(11工場)が多い。インダストリー4.0、製造業のデジタル化は組立産業が起点となっているが、プロセス産業として6工場のオイルガスや、化学・バイオ・製薬・鉄鋼なども含まれてきていることが特徴である。
加えて、同一企業が複数工場認定を得るカスも増えてきている。7工場のジョンソン&ジョンソンや、4工場のシュナイダー・P&G・フォックスコンなど、優れた生産技術を持つ企業が複数の工場で評価・認定を受けている。
ハイアール事例、最多認定の「中国」は何が凄い?
製造業のIT化政策である「中国製造2025」を強力に推進し規模・量のみならず、「製造強国」としての質も含め製造業のリーダーになることを標榜している中国は、他国を圧倒する29工場が認定され圧倒的なプレゼンスを誇っている。
29工場のうち、中国系企業が14企業、外資系企業が9企業、台湾系企業が6企業となっている。中国は今までの安い人件費と市場の大きさを生かした製造拠点を提供する「世界の工場」の位置付けとしての“製造大国”であった。それが、中国製造2025で掲げられているようにイノベーションを生み他国製造業をリードしていく“製造強国”へ立ち位置が変化していることを表している。
ものづくりにおいて先端へと変化しつつある中国の動きとして、特に特徴的なのが1984年設立の世界最大規模の家電メーカーであるハイアールの展開である。同社は三洋電機の買収や、GEアプライアンスの買収が日本では知られており技術やノウハウを買っている企業とのイメージも大きいかもしれない。
しかし、その立ち位置は大きく変わってきており、新たなものづくりのイノベーションを生み、世界に提供する側へ転換している。同社は自社の冷蔵庫など工場(瀋陽、青島)において顧客の機能・デザイン・色などのニーズに合わせた個別生産をデジタル技術・自動化技術を活用して高効率に行う「マスカスタマイゼーション」の仕組みを実現しており、その成果が評価され先述のグローバルライトハウスに認定されている。
それらの仕組みを世界20カ国の幅広い業界の製造業企業に外販する世界に先駆カたマスカスタマイゼーションプラットフォームとして展開しているのが「COSMOPlat」である。
認定工場たった2社…日本がロールモデルではなくなった理由
それでは、ものづくり大国の日本はどのように評価されているのだろうか。日本の製造業はかつて世界を席巻し、トヨタ生産方式をはじめ世界から研究され、ベンチマークされてきた対象であった。
そうした日本だが、現在のグローバルライトハウス認定工場数は2工場のみである。そのうち1工場が外資系企業のGEヘルスケアの1工場のため、国内の日系企業の工場認定は日立製作所の「おおみか工場」のみとなる。
今まで日本は、ものづくりにおいて世界の先頭を走っていると考えられていた。デジタル技術の進展に伴い、「灯台」の役割は新興国を含めた他国へ移ってしまったのではないだろうか。
もちろんグローバルライトハウスが日本のすべての工場を見ているわけではないし、同取り組みへのプロモーションにかかる労力も他国と日本で異なっていると想定され、この結果のみが工場の先端性を示しているものではない。
しかし、グローバルな機関がロールモデルとして認定する企業のネットワークに日本企業が食い込めていないことは、デジタル化の中でものづくり先端の国としての位置付けを失いつつあることを端的に示す例と言える。
同様にグローバルライトハウスとともに、世界では先端ものづくりや工場を評価する仕組みや基準が着々と生まれてきている。
たとえば、シンガポール経済開発庁(EDB)がドイツと連携してSmart Industry Readiness Index(SIRI)を開発し、各企業がインダストリー4.0にどの程度対応できる状態にあるかを評価する指標を提示している。SIRIは世界15カ国でのものづくり企業の評価に活用されており、今後世界経済フォーラムとの連携のもとグローバルでのものづくり評価指標としての浸透を急速に図る。
これらグローバルでのものづくり評価指標関連の取り組みにも日本企業・機関の姿はない。このままでは世界からより日本のものづくりが評価されない環境が構築され、求心力を更に失ってしまいかねない。これらの指標作りや、これらの認定に対して積極的にアプライや自社の取り組みのプロモーションを図っていくことが求められる。
ここからは、グローバルライトハウスに日本で唯一認定されている日立製作所の「おおみか工場」の取り組みと特徴を紹介しつつ、日本のものづくりが直面する課題と解決法をまとめて解説する。
【次ページ】日本唯一の認定工場「日立製作所おおみか工場」は何が凄い? そして日本のものづくりの課題とは…?
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