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  • 2022/04/08 掲載

超高精度の「需要予測AI」は何がスゴイ? スーパーの発注時間を激減させた実力とは

【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース

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AIのビジネス活用は2015年前後からさまざまな業界で検討され始めましたが、ここ数年で需要予測の領域にも広がってきています。新潟県を中心に展開しているスーパーマーケット「原信」や、群馬発の「フレッセイ」では需要予測AIの活用を開始し、日配品の発注を自動化して業務の効率化につなげました。本稿では筆者の経験や需要予測に関するグローバルの知見を踏まえつつ、需要予測AIで成果を創出するためのヒントに迫りたいと思います。

執筆:山口雄大(やまぐちゆうだい)

執筆:山口雄大(やまぐちゆうだい)

NEC AI・アナリティクス統括部の需要予測エヴァンジェリストとして、「#山口雄大の需要予測サロン(デマサロ!)」や需要予測相談ルームでS&OPをテーマとした情報を発信。青山学院大学非常勤講師、JILS「SCMとマーケティングを結ぶ!需要予測の基本」講師などを兼務。Journal of Business Forecasting(IBF)などで研究論文を発表。『需要予測の戦略的活用』(日本評論社)や『企業の戦略実現力』(共著、日本評論社)などの著書多数。

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AIのビジネス活用が需要予測の領域にも広がっている。需要予測AIで成果を創出するためには何が必要か
(Photo/Getty Images)

これまでの需要予測に感じた限界

 需要予測はモノやサービスが消費者から必要とされる度合いを予測できますが、製造業ではこれを基に原材料の調達や生産、物流の計画を立案しています。小売業でも、需要予測を基に日々の発注を行っていますし、サービス業では設備の手配や従業員のシフト作成に使われています。つまり、各種オペレーションのトリガーとなっていて、予測精度によってビジネスの効率性が左右されます。

 需要予測のロジックは大きく分けて3種類あります(注)

注) Moon, Mark A.(2018).“Demand and Supply Integration: The Key to World-Class Demand Forecasting, Second Edition”. DEG Press.

  • ・過去の売上データから季節性やトレンドを分析する時系列モデル
  • ・需要の背景にある因果関係を整理する因果モデル
  • ・プロフェッショナルの知見や直感を活用する判断的モデル

 ビジネスにおける需要予測は過去データの分析だけでは完結せず、企業が目指す成長戦略を考慮する必要があります。つまり、需要予測を担うビジネスプロフェッショナルは、予測値をベースにしつつ、マーケティングや営業、ファイナンスといった関係者とのコミュニケーションをリードして、需要計画を立案する必要があるのです。

 この立案の過程で重要になるのが、需要の背景にある因果関係の理解です。

 たとえばスーパーマーケットにおける日配品の需要は、日々の客数や小売価格、商材と季節の親和性などが影響すると考えられます。さらに、スーパーの客数にはその日の天候や品ぞろえの豊富さ、キャンペーンの魅力度、競合店舗との位置関係、直近では新型コロナウイルスの感染状況などが影響するでしょう。

 ビジネスの現場で需要予測を担ってきた人たちは、こうした因果関係を理解した上で予測モデルを管理し、関係者とのコミュニケーションをリードしてきました。

 しかし、システムやシンクタンクを活用しても、複雑な因果関係を完璧に理解することは難しかったと言えます。先の例で言えば、小売価格には競合スーパーの価格を考慮するでしょうし、ちらしによるキャンペーンの実施も過去の客数を考慮するでしょう。つまり、各要素同士が影響し合っていて、これをすべて予測モデルで表現するのは困難なのです。

需要予測AIの活用事例:スーパーの発注時間を“半分”に

 より複雑な因果関係を理解して有効性の高い予測をするため、需要予測との相性がいいAIの活用が広がっています。

画像
需要予測との相性がいいAIを活用することで、新しいビジネス価値を創出できる
(Photo/Getty Images)

 2022年3月9日の日経新聞朝刊に、スーパーマーケットの「原信」や「フレッセイ」などで、需要予測AIの活用がはじまったという記事が掲載されていました。発注作業を自動化したことで、発注時間は120分から60分にまで短縮されたようです。ここでは従来の統計的な予測モデルでは大量の変数に対応できず、AIの導入に踏み切ったと書かれていました。

 AIの得意領域を考慮すると、需要予測AIは月単位ではなく週・日単位、日本全国ではなく東京、さらには銀座エリアといったように、より小さなセグメントで予測する方が良いと考えています。そこから新たなビジネス価値の創出を目指すのですが、筆者はこれを著書の中で「エッジ・フォーキャスティング(Edge-forecasting)」と名づけました。需要が発生するリアルな現場に近いセグメントでの予測を指します。

 セグメントはほかにも新規顧客やリピーターなどの顧客層別など、色々な軸で定義することが可能です。業界によってはアカウント別といった切り口も有効になるでしょう。

 従来よりも小さなセグメントで行う需要予測は、新たなビジネス価値を生み出します。日単位の需要予測の精度が向上すれば、サプライチェーンに関わる人員計画を効率的に行うことができます。エリア別の予測精度の向上は、物流クライシスへの一つの解決策になるでしょう。

 顧客層別の需要予測は、マーケティングプロモーションに有効活用できます。筆者は商品と購入者を紐づけられるID-POSを使い、顧客層別での口紅の需要予測モデルを構築しました。

 口紅は年代ごとに好みが異なり、たとえば若年層では流行もあってブラウン系の人気が高い一方、シニア層では安定的にローズ系が売れるといったことがあります。これを踏まえると、ターゲット層が異なるブランドごとにマーケティングプロモーションをアレンジすることができます。

 一方、アカウント別の需要予測については営業活動に直結します。販売予算と乖離しているアカウントがあれば、新たな施策を検討する必要があるかもしれません。

 これらはすべて、これまでの粒度の粗い統計的な需要予測では対応できなかったものです。つまり、新しいビジネス価値の創出です。

 システムの導入には攻めと守りのスタンスがありますが、AIも同様に、守りで生産性の向上やコスト削減を目指すのか、攻めで新たなビジネス価値の創出を目指すのかは、一つの重要な意思決定になるでしょう。これを決めるのはビジネスプロフェッショナルです。

 ここからは具体的にAIの得意領域とは何なのか、なぜ需要予測とAIは相性がいいのかについて解説します。また、AIをうまく使いこなすためには「人」にもある3つの役割が求められてきます。その役割について紹介します。

【次ページ】AIを「使いこなす」ために“人”が担うべき3つの役割

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