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  • 2022/05/06 掲載

「ルール形成型市場創出」とは何か? 経産省調査が示す「新市場を創り出す方法」

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日本の産業が世界と比べて低迷する中、カーボンニュートラルなどの社会課題解決を新しいビジネスの機会と捉え、ルールメイキングを活用し、新たな市場を形成する力が求められている。こうした経営環境において、経済産業省(経産省)は2022年3月22日、企業の市場を形成する力とその意識調査結果についてまとめた「市場形成力指標Ver2.0」を公表した。この調査をもとに、これからの企業に求められる「ルール形成型市場創出」について解説する。

執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之

執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュニケーションズ勤務)。現在、クラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事。総務省 AIネットワーク社会推進会議(影響評価分科会)構成員 一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。著書多数。

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「ルール形成型市場創出」とは何か?
(Photo/Getty Images)

「ルール形成型市場創出」とは

 「ルール形成型市場創出」とは、「社会課題解決活動とルール形成を組み合わせることで新たな市場を創出すること」を指す。この言葉は経済産業省が企業の市場を形成する力やその意識調査結果についてまとめた「市場形成力指標Ver2.0」(2022年3月)の中で示されており、「ルールメイキングを活用して新市場を創出する方法」と言い換えることもできる。

 そもそも市場創出のための「ルール」とは何だろうか。市場創出のための「ルール」には、規制や基準、規格・標準のほか、民間認証・調達ガイドラインがある。たとえば、規格であれば環境マネジメントシステム「ISO14000」などが該当する。これらは、企業主導で策定可能なルールである。

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「ルール形成型 市場創出」とは
(出典:経済産業省 市場形成力指標Ver2.0 2022.3.22)

「ルール形成型市場創出」が必要とされる背景

 なぜ、ルール形成型市場創出が必要なのか。その理由の大半は経営環境の変化にある。日本企業は、コロナ前の10年間、総じて売上高が伸びない中、事業構造の改善やコスト削減などで営業利益・純利益を拡大させてきた。

 2009~2019年の日本の全産業の売上・利益の推移を見ると、売上高は10年でわずか1.1倍程度である。一方、純利益は4.9倍と利益面では一定の成果を上げている。

 しかしながら、この構造は長続きせず、「コスト削減」や「国内でのシェア争い」が限界にきており、産業全体で売上を拡大させるための「市場創出」が求められている。

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2009-2019年の日本の全産業の売上・利益の推移
(出典:経済産業省 市場形成力指標Ver2.0 2022.3.22)

 日本企業の場合、「安定事業の永続性」が前提となっており、ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法(企業価値評価の代表的な算出方法の1つで、会社が生み出す価値をフリーキャッシュフローで算出し、企業の価値を評価する方法)での企業価値評価の限界も指摘されている。

 DCFで将来キャッシュフローの現在価値が分かるというメリットがある一方で、将来の売上高目標予測をもとに評価するため、中期計画を立てても客観性に乏しく、信頼性が低ければ、算出される企業価値が大きく上下するリスクがある。

 実際、企業が5年先の中期計画目標を立てても、83%が目標未達成の状況という結果であるように、目標達成率の低さが浮き彫りとなっている。

 たとえば、以下の図で経済産業省が挙げているように、テレビ(テレビ受像機)の生産台数は、2000年後半から2010年にかけて伸びており、安定成長する事業と考えられていた。しかし、2010年以降、一気にテレビ生産台数が落ち込んだ。2011年を境に国内生産から海外生産に切り替わり、市場規模が急変したためだ。

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ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法での企業価値評価に限界
(出典:経済産業省 市場形成力指標Ver2.0 2022.3.22)

 テレビ市場の市場変化のように、安定事業前提の永続性の観点からの企業評価には限界がある。企業価値を高めるには、既存の安定事業に安住することなく市場変化を先読みし、自らが市場価値の開拓に力を入れていくことが重要となっている。

 こういった状況の中、経営指標へTAM(Total Addressable Market:実現可能な最大の市場規模)の視点を盛り込むことの必要性もある。たとえば、新聞市場の場合は、新聞発行部数が減少する中でシェア争いが激化しており、新聞そのものでの今後の成長市場も見込みにくい。

 新聞における新市場の形成によるTAM拡大について、経済産業省では以下の4つの例を挙げている。

  • 販売店における高齢者見守りサービスとのパッケージ購読プラン
  • 社会課題解決型広告制作・発信サービス
  • 社会課題解決を目的としたキャンペーン実施サポートサービス
  • 各種デジタルコンテンツ配信

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TAM(Total Addressable Market)の視点
(出典:経済産業省 市場形成力指標Ver2.0 2022.3.22)

「ルール形成型市場創出」による成長

 「ルール形成型 市場創出」による成長はどの程度見込めるのだろうか。経済産業省の「企業に対する意識調査」では、「ルール形成型 市場創出」に積極的に取り組んできた企業は、日本企業の年平均成長率(0.8%)に比べて高い成長率(約4%)を示している。

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企業の売上高成長率
(出典:経済産業省 市場形成力指標Ver2.0 2022.3.22)

「ルール形成型市場創出」の3つの成功パターン

 では、「ルール形成型市場創出」を実践するには、具体的に何に取り組めばよいのだろうか。経済産業省の資料では、次の3つの成功パターンが示されている。

  • 政策リードによる規制デザイン
  • 標準化によるイノベーション連携の促進
  • 業界コンセンサス形成による新たな「モノサシ」開発

 「政策リードによる規制デザイン」では、各国の産官学キーパーソンとの適切なリレーションを構築し、市場創出に資する規制の策定/改革をリードするといったことが挙げられている。

 「標準化によるイノベーション連携の促進」では、標準化・規定策定や技術のオープン化を通じて多様な事業者が新市場に参入/貢献しやすくなる技術的基盤を構築することが挙げられている。

 「業界コンセンサス形成による新たな『モノサシ』開発」では、アジェンダ/問題意識を提起して他企業を巻き込み、新たな「価値」を定義する認証基準などを策定することが挙げられている。

 そして、「ルール形成型市場創出」の実現に向け、各成功パターンの特性に応じ、自社の社会課題解決に資する製品・サービスとルール形成の掛け合わせで市場を創出していくアプローチが必要としている。

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「ルール形成型 市場創出」の成功パターン
(出典:経済産業省 市場形成力指標Ver2.0 2022.3.22)

【次ページ】「ルール形成型市場創出」のプロセスとは

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