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- 2023/01/18 掲載
中国版GPS「北斗」はどこまで進んでいる? すでに9兆円市場の知られざる実力
中国の衛星測位システム「北斗」とは? GPSとの違いは
2021年6月、中国独自の衛星測位システム「北斗」(中国名:Beidou、英語名:Compass)の55基目となる衛星が軌道投入に成功し、北斗3号(第3世代)が全世界での測位サービスの提供を始めた。2021年には、北斗に対応したスマートフォンが中国で3.24億台出荷され、これは全出荷数の94.5%にあたる。iPhoneもiPhone 12から北斗に対応している。
現時点で世界にある全地球衛星系の測位システムは、北斗のほかに、GPS(米国)、GLONASS(ロシア)、Galileo(EU)の4つ (注1)。その中で北斗は、MEO(Medium Earth Orbit:中高度軌道)だけでなく、IGSO(Inclined Geosynchronous Orbit:傾斜対地同期軌道)、GEO(Geostationary Orbit:静止軌道)の3つの軌道を組み合わせているのが特徴だ。
一般的なMEOは地球全体をカバーするため、どこからでも常に複数の衛星が見える必要がある衛星測位システムに向いている。一方、IGSOは特定の地域の上空で8の字を描くような軌道になるため、精度を上げたい地域の上空軌道に投入する。日本の「みちびき」もこのIGSOを利用して、日本でのGPSの精度を上げている。GEOは地上から見て、常に同じ位置に見える静止軌道であり、定点として衛星測位信号の補正をするのに役立つ。
北斗はこの3つの軌道を組み合わせることで、全世界に提供する精度はGPSやGLONASSとほぼ同じレベルだが、中国国内には非常に高い精度の測位サービスを提供している。
中国国務院(政府)が公開した「新時代の中国北斗」によると、測位誤差30センチメートル、垂直誤差60センチメートルまで精度を上げることが可能だとされている。民間では、通信業界が約4000基、電力業界が約2000基の基準局を設置している。基準局の位置は精密に測定済みであり、北斗からの信号を受信し、大気かく乱などの誤差を測定し、周辺のスマートフォンなどの受信デバイスに誤差情報を伝えることで、より精密な測位を可能にしている。
さらに特徴的なのが、14機のIGSO衛星、3機のGEO衛星により、情報の送受信が可能になっていることだ。中国国内では最大560ビット(漢字40文字。テキスト、画像、音声も可能)の衛星経由のメッセージがスマートフォンで送受信できる。
アップルが2022年9月に、グローバルスター社の衛星経由でメッセージが送受信できる機能をiPhone14に搭載することを発表する前日、中国のファーウェイは自社のスマートフォン「Mate 50」が北斗経由での位置情報付きのメッセージ送受信サービスに対応することを発表し、世界で最初に衛星メッセージを提供するスマホとなった。
【次ページ】そもそもの目的は米国への対抗
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