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  • 2006/07/18 掲載

現代マーケティングの成功原則と対応 /慶応義塾大學教授 嶋口充輝氏(3/3)

論理的原則と経験的原則を中心として

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1世紀も前にエジソンによって示された
経験的原則とは何か

 論理的原則と違って、経験的原則は優れた経営者の頭のなかに蓄積されている部分が多い。現代の経営者は一体、何をすべきと考えているのだろうか。

 いまから5年程前に(社)日本マーケティング協会で「MI21プロジェクト」というやや大掛かりな調査研究を行ったことがある。21世紀を迎え、経営者の考えるマーケティング・イノベーション(MI)の姿を探ろうというプロジェクトである。学者、コンサルタント、実務家など総勢15人ほどの研究メンバーで新しいマーケティング革新と挑戦課題を議論した後に、企業の経営トップ層に対して定量的なサーベイ調査を行った。

 300人弱の社長たちから得た貴重な有効回答をさまざまな角度から分析した結果、我々はトップマネジメントの考える21世紀の経営マーケティング課題を大きく三つのキーワードにまとめあげた。

 第1は、「アンビション」。アンビションとは、札幌農大を去ったクラーク博士が日本の農業の未来を託する若者たちに送った言葉、「ボーイズ・ビー・アンビシャス(少年よ、大志を抱け)」に示される大きな志をさす。坂本竜馬の「青雲の志」、織田信長の「野望」、ウォルト・ディズニーの「夢」、なども、このアンビションのなかに入れてもいい。21世紀に入り、多くの経営者が強く感じた問題意識は、失われた10年の中で、重箱の隅をつつくような効率化や節約化ではなく、常に未来に向かって自分たちが何を成し遂げようとするのか、を描くことの重要性であった。

 第2は「顧客満足」。サーベイで得られた有効回答のうち高業績企業と低業績企業を比較してみると、前者は「顧客満足の追及」に、また後者は「市場シェアなどの競争優位追求」に高い相関を示していた。ここから分かることは、現代の競争の形が、戦争をメタファーとするような相対的、陣取り合戦的な市場シェア競争でなく、むしろ恋愛をメタファーとする絶対的な恋人取りの競争へと動いているという視点である。実際、かつてマーケティング研究の中で華やかな展開を見せたシェア重視の競争対抗型戦略論はやや色あせ、代わって顧客満足追求のためのベストプラクティス探しや、その向上を目指すベンチマーケティング手法などが強調されるようになっている。

 第3は「スピード」。回答した経営者のほとんどが、21世紀の課題としてスピードの重要性を強 調した。スピードには、環境変化などをいち早く知覚・認識する気づきのスピード、変化に対して果敢に意思決定するスピード、さらにその決定を実行するオペレーション上のスピード、などがある。日本の経営者は意思決定後の実行オペレーション上のスピードは欧米先進国に比べてもそれほどの遜色はない。しかし、気づきや意思決定のスピードは相対的にやや劣っているようである。

 「アンビション」「顧客満足」「スピード」というこの三つのキーワードは、21世紀の新しい重要なマーケティング課題として満足と納得のいく成果であった。いわく、21世紀のマーケティングの課題は「大きなアンビションのもと、常に顧客満足を中核に据え、スピードをもって対応・計画・実行すること」という結論である。

 この発見のあと、たまたま浜田和幸氏の『快人エジソン─奇才は21世紀に甦る』(日本経済新聞社)によって、実は1世紀以上前のエジソンの行動と彼が作り上げた世界的な電機メーカー、ゼネラル・エレクトリック社(GE)が基本的にこの三つのキーワードを軸にして発展してきたことを知ることになる。同書によれば、エジソンの真骨頂は、単なる発明家というより、自らの発明品を社会に広く使えるようにしたことであり、それゆえ「マーケティングの天才」と呼ぶにふさわしいという。エジソンは自分の発明をベースにGEを創設したが、1世紀以上にわたって超優良企業たり続けている同社がいま「エジソンの原点に」の運動を起こしているという。そこで浜田氏がエジソンから受け継いだGEのDNAを技術担当の筆頭副社長にたずねたところ、それは「顧客」と「スピード」だったという。と同時に、エジソンは自分の発明で常に世の中をアッと言わせようとする「野心」を持ち続けていたことも確認された。

むすびにかえて

 原則はその常として、普遍性や応用可能性が高いがゆえに、いざ実行となるとなかなか難しい。しかし、その実行困難性の前にひるんでしまっては、持続的成長はおろか、その存続すら危うくなる。

 多くのビジネス革新が、結局は日常的な企業常識や業界常識を捨て、当たり前のことを当たり前に 行うという基本原則に戻ることだ、ということを銘記すべきだろう。

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