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  • 2023/08/31 掲載

ローカル局は「自分たちの魅力」をわかっていない? 超具体的な生き残り策とは

稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解

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ローカル局(地方局)が苦境に立たされている。TVerによってキー局制作番組が全国で見られるようになった中、地域メディアとしての存在意義はどこにあるのか。テレビ業界全体として広告収入が低迷する中、打開策はあるのか。関係者へのヒアリングをもとに現状をリポートする。ローカル局ならでは強みの話や知られざる魅力とは何か?

執筆:編集者/ライター 稲田豊史

執筆:編集者/ライター 稲田豊史

キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。 著書は『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』。おもな編集書籍は『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)、『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、『団地団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著/キネマ旬報社)。「サイゾー」「ビジネス+IT」「SPA!」「女子SPA!」などで執筆中。 (詳細

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ローカル局の生き残り
(出典:LivePark 報道発表)

45~75歳の信頼を得ているからこそ

 ローカル局が現在持っている最大の“財産”は、年配層を中心とした視聴者、しかも「放送波で番組を見てくれる」視聴者だ。静岡新聞社・静岡放送の奈良岡将英氏は、「45歳から75歳に刺さるコンテンツ」という観点からこう考える。

「この4月に静岡新聞の記事を読める『@S+(アットエスプラス)』というアプリをリリースしました。これは静岡放送が自社制作した番組の書き起こしも読めるんですが、使っているユーザーの中心は45歳から75歳です。理由は明確で、75歳以上はデジタルデバイスを使えない人が増え、45歳以下は新聞購読習慣のない人が増えるから。そんな彼らの“困りごと”を解決するコンテンツが必要だなと」(奈良岡氏)

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@S+(アットエスプラス)
(出典:静岡新聞社

 奈良岡氏によれば、この層は日本の金融資産の大半を保有しており、親の健康問題や相続といった共通の悩みも多い。彼らはそれを、お金をかけてでも解決したいと思っている。記事、番組、あるいは別のコンテンツでその悩みを解消すべく、新しいビジネスにつなげるというイメージだ。

 ただし静岡放送と静岡新聞社はグループ会社同士であり、このアプリはテレビ局単体のソリューションとは言えない。しかし、奈良岡氏の以下の言葉はテレビ局単体としても響くのではないか。

「今までスマホは持っていたが、あまり触っていなかった。だけど『@S+』のおかげで触るようになった──といった声をいただいています」(奈良岡氏)

 上の世代であればあるほど、テレビや新聞には絶大な信頼感と親近感がある。新興IT企業がいくらサービスをぶちあげても、ピクリとも反応しなかった地方の年配層が、老舗の地元メディア発ならばと目を向ける。これは、地場で長年の信頼を集めている地方メディアにしかできない芸当だ。活用しない手はない。

「先進的ではないけど、幸せに暮らしている」人に向けて

 一方で、「若者にローカル局発のコンテンツを見せる」方法はあるのか。それこそ、若者にマスマーケティングしてニーズやトレンドを掴めたとしても、結局は中央(キー局)の番組が全部持っていく。制作予算は及ぶべくもないし、それこそTVerで配信したところで「メジャーなキー局制作番組」がひしめく中では埋もれてしまう(前回記事参照)。

 その点に関して、奈良岡氏がいくつかのヒントをくれた。

「私にも20代の娘がいるのでわかるのですが、若い人たちって究極的には『自分に直接関係のあること』にしか興味がない。自分の周りがどういう状況か、自分はこの後こういうふうに行動しようと思っているが、それは果たして正しいのか? を判断するための材料がまず欲しい。天気予報にしろ、店選びにしろ。コンテンツをそこに特化していくのも、ありなのかなと」(奈良岡氏)

 東京で起こっていることが知りたい、最先端のトレンドを誰よりも早く知りたいという若者は全国にいる。しかし一方で、自分の行動範囲内である半径数メートルの情報をとにかく詳しく知りたいという志向もまた、相当数存在する。前者を担うのがネットメディアやキー局なら、後者を担うのがローカル局というわけだ。

 奈良岡氏はまた、若者の「失敗したくない」心理の強さも挙げた。

「“失敗しないために必要な情報”が求められていると思います。これは広告代理店の方などともよく話すんですが、今、デジタルを使いこなしている若者って、決してインターネット黎明期にいたような『少数の最先端の人たち』ではなく、むしろ『多数の受け身の人たち』なんですよね。我々世代で言うと、テレビをダラダラ受け身で見ているレイトマジョリティくらいのイメージ。彼らはグルメ情報に接するときでも、たくさんのお店の中から検索して探せることよりも、『3店のうち、どれか選んでください』といった提案のほうにより高い価値を見いだす傾向にある。言い換えるなら、『この3店なら、どれを選んでも失敗しませんよ』という情報を求めているのかなと」(奈良岡)

 ある種のZ世代論にもつながる話だ。あくまで全体傾向ではあるが、彼らはつまらない映画にしろまずい食事にしろ、「外す」こと、つまり「失敗」を極端に嫌う。前もって失敗可能性をすべて排除しようとする。そのための情報収集を欠かさない。

 「自分に直接関係のあることに興味があり、失敗したくない」若者に向けたコンテンツ。何かが見えてきた。

「『先進的ではないけど、幸せに暮らしている』土着の若者たちが、地方にはたくさんいます。その人たちが“失敗”しないような情報を発信するというのが、ローカル局として打ちうる、1つの手なのかなと」(奈良岡氏)

 要するに、日本全体で何が流行っているとか、東京の最先端のお店がどうだということより、「次の週末にぱっと行ける距離の場所に何があります」といった、「どローカル」な情報を実は一番求めている若者が結構多いのでは、という話だ。

 全国的に人気のタレントを起用してキー局の番組と同じ土俵で戦うのは、「ローカル局発」の意味がない。実は「@S+」のコンテンツで一番人気があるのは、静岡市内の新店情報だという。「超コア、超ローカルな静岡市内の新店情報」はキー局制作のコンテンツと競合しない。唯一無二だ。

 もちろん、それでどれだけの収入増になるのか、という現実はある。奈良岡氏も売上についてはよく聞かれるそうだ。しかし「落ちていくのをただ眺めているわけにはいかない」(奈良岡氏)。だから、打てる手は全部打つ。 【次ページ】「ローカル局ならでは」の報道

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