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- 2024/02/22 掲載
これから「災害後の完全復旧」が難しくなる理由、インフラ維持にかかる費用負担の現実
今、発生しているのは構造的な問題
年初に発生した能登半島の地震では、道路や通信、水道など各種インフラの復旧作業が思いのほか遅れている。地理的条件が悪いという面もあるが、慢性的な人手不足やサプライチェーン弱体化が影響を及ぼしている可能性は高い。一部の関係者からは、能登半島の災害対策を最優先するため大阪万博の開催を中止、もしくは延期すべきだという意見も出ている。(関東大震災や東日本大震災など巨大災害を除き)局所的、地域的な災害対応によって、ほかの大規模イベントにリソースが割けなくなるというのは、これまでの日本では考えられなかった事態と言って良いだろう。
先日は各地で激しい降雪に見舞われ、首都高速道路は予防的措置という観点から大規模な通行止めに踏み切った。ところが通行止めによって車両がまったく通らなかったことから、道路には大量の雪が降り積もり、今度は除雪作業に手間取り、雪がやんでからも通行止めをなかなか解除できなかった。不幸な偶然が重なった結果とはいえ、かつてのように十分な社会的リソースがあれば、ここまでの混乱は生じなかった可能性が高い。
大きなニュースにはなっていないものの、大雨や雷などによって局所的にインフラが寸断される事態は各地で発生している。復旧までの平均時間も従来と比較して長くなっていると考えられる。
インフラ問題の最たるものは、やはり「物流2024年問題」だろう。
物流が滞れば、基本的なインフラを維持するための資材運搬などに遅延が生じる。これが各地でボトルネックを引き起こし、経済全体の供給力低下につながる。
この問題の直接的なきっかけは労働基準法の改正による残業規制なので、個別の対応で状況を改善できると考えている人も少なくない。だが現実はそうではない。一連の背景にあるのは、日本の人口動態変化による構造的な人手不足であり、慢性的な低賃金がこの問題に拍車をかけている。つまり物流2024年問題というのは、マクロ的かつ構造的な問題であり、その場しのぎで対処できるものではないのだ。
各種インフラの維持が難しくなっていることと、物流2024年問題は基本的に同根である。すべては日本経済の構造に起因しており、これがあらゆる問題の元凶となっている。
これまでの常識は通用しない
俯瞰的に見れば、今後、日本は人口減少が顕著となり、それに伴って国内市場全体の規模も小さくなっていく。こうした中では、右肩上がりを前提にした従来型インフラは機能しなくなる。これまでは、経済規模が拡大する一方だったことから、インフラについては新規投資が最優先され、維持管理やリプレースについてはほとんど顧みられることがなかった。新規の投資が続き、人口も増えていたので、常に買い手市場であり、人的リソースの確保にも困らなかったと言えるだろう。
だが高齢化と人口減少が進む社会ではこうした常識は通用しなくなる。
社会のシワ寄せを受ける若年層は、劣悪な職場環境を忌避するようになり、あらゆる業界において、相応の賃金を支払わなければ労働者を集めることが難しくなってきた。少ない人数で現場を回すためには、作業手順やノウハウの体系化やITを活用した自動化を進める必要があるが、従来型組織では、新人がベテランの仕事を見よう見まねで覚えるといった属人的な運用が行われており、システマティックな体制へのシフトを阻んでいる。
高い賃金を支払う場合にはもちろんのこと、作業を体系化したり自動化するにもそれなりのコストがかかるため、社会全体で相応のコスト負担を行う必要が出てくる。このような対応ができないのであれば、今あるリソースの範囲内にオペレーションを限定するなど、インフラの規模を縮小していくよりほか方法はない。
どちらが良いのかは最終的に国民が選択するしかないが、今の日本は、両者のどちらも選択していない状況であり、これがあらゆる問題を引き起こしている。 【次ページ】なぜ、諸外国はインフラを維持できてる?
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