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  • 2024/02/27 掲載

日米で進む大学での生成AI活用、今後は「利用が必須になる」かもしれない事情

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ChatGPTが登場した当初、生成AIは学生の不正行為を助長するのではないかという懸念が教育関係者の間で広がった。しかし、2024年2月時点、日米ともに教育関係者の間で生成AIツールの可能性を模索する動きが活発化しているという調査結果が出ている。たとえば、米アリゾナ州立大学は明確な狙いを持ってOpenAIと提携、状況は大きく変わってきている。高等教育における生成AI利用活用の動向をお伝えしたい。

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

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ChatGPT登場当初、教育への悪影響が懸念された大学教育の現状とは
(Photo/Shutterstock.com)

OpenAIと提携し「パーソナルAIチューター」構築

 賛否さまざまな意見が飛び交う学生や教育機関における生成AI利用だが、利用の実態が明らかになりつつあり、2024年は実態に即した形で利用・規制が進むものと思われる。

 教育領域における動きの1つとして注目されるのが、米アリゾナ州立大学とOpenAIによる提携だ。OpenAIと高等教育機関による提携としては初のケースとなり、AI業界や教育関係者の間で今後の動向が注視されている。

 アリゾナ州立大学は2024年1月18日、ChatGPTを開発したOpenAIと提携し、大学内で「ChatGPT Enterprise」の利用を開始する計画を発表した。発表によると、同大学はChatGPT Enterpriseの先進的な機能を活用し、生成AI利用の可能性を模索するという。

 ChatGPT Enterpriseは、通常のChatGPTとは異なり、入力されるプロンプトデータがAIモデルのトレーニングに利用されない仕様となっており、プライバシーやセキュリティを保持したい企業向けに提供されているサービスだ。

 具体的な活用方法についての言及はないが、教員やスタッフに対し最適な利用アイデアを呼びかけ、2月にオープンチャレンジを実施する計画とのこと。利用シナリオでは、以下の3分野が焦点となる。

  • 学生の学習促進
  • 革新的な研究の促進
  • 組織プロセスの合理化

 Axiosはアリゾナ州立大学の最高情報責任者レブ・ゴニック氏の話として、同大学はChatGPTを活用してパーソナルAIチューターを構築し、1年生向けのライティングクラスで導入する計画があると伝えている。また今回の提携により、アリゾナ州立大学がすでに提供している「プロンプトエンジニアリング」コースがさらに拡充される可能性もあるという。

 上記の重点3分野からも分かるように、大学側としては、ChatGPTを活用することで、学生の学習支援や研究を促進しつつ、合理化によるコスト削減を進める狙いもあるようだ。

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大学にとって採算や教育現場の人員不足は大きな課題だ
(Photo/Shutterstock.com)

学生教員比率からみる教員負荷軽減への期待

 特にアリゾナ州立大学は、学生数が14万人を超える巨大な大学で、教員に対する学生の比率も米国平均に比べるとかなり高くなっており、これ以上教員を増やすことなく、教育の質を高めるためには、何らかの対策が必須の状況に直面している。アリゾナ州立大学の学部生の数は11万4484人、大学院生の数は3万1171人。これに対し教員の数は5300人となる。

 米国の大学では、教員1人あたりの学生数(学部)を測る「学生教員比率」という指標があるが、公立4年制大学の平均は16:1となっており、平均でみると教員1人あたりおよそ16人の学生を担当している状況だ。

 なお、この学生教員比率は日本も類似しており、2020年のデータ(学校基本調査)では国立大学で9.3:1、公立で11.3:1、私立で19.4:1となっている。

 アリゾナ州立大学の場合、学部生(11万4484人)に対する教員(5300人)の比率は21:1となり、教員1人あたりの負荷は米国の平均よりも高いことが分かる。

 アリゾナ州立大学は2014年に、ライティングクラスで昇給なしに教員の負荷を高めたことで反発を招いた過去がある。また日本の大学では少子化が進む中、教員の負荷軽減やコスト削減は大きな課題と言える。アリゾナ州立大学のChatGPT利用により、教員負荷を高めることなく、教育の質を維持・向上させることができるのかというのも注目点の1つだろう。

スウェーデン、香港の大学におけるChatGPT利用ポリシー

 世界的にみると、少しずつではあるが大学でのChatGPT利用に関する報道は増えている。ロイター通信2023年9月の報道によると、スウェーデンのルンド大学では、教員がコース課題に関してどの学生が人工知能を利用できるのか許可を与える仕組みが導入されたという。

 直近ではルンド大学経済・経営学部で2024年1月15日に、AIツール利用に関する新ポリシーが導入されたばかり。教員は、コース内でChatGPTなどを利用する際、コース情報にその旨を記載すること、また学生が課題でAIツールを利用した際はそのことを申告・明記することなどが盛り込まれた。ルンド大学では基本的にChatGPTを含むAIツールの利用をコース課題で許可するなど、AI利用に関して寛容なアプローチを取っていることが分かる。

 このほか香港大学では大学単位でChatGPTを提供する取り組みが行われている。香港大学のWebサイトによると、学生と教員は同大学のポータルアカウントを介してChatGPTサービスにログインし、研究やコースワークで利用することができるという。

 香港大学はChatGPTの利用規則で、ChatGPTの利用は教育、学習、課題、研究のみに厳しく限定されるもので、それ以外の目的での利用は一切禁じると規定。またハッキングなど損害を与える行為の禁止、情報の正確性の確認などを盛り込み、教員と学生による安全な利用を促している。 【次ページ】日米の教育関係者向け調査でわかった現状

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