- 2025/06/07 掲載
日本人の「静かな退職」が止まらない…半数もの人が心を閉ざす衝撃の実態(2/3)
日本人のエンゲージメントが低いのは、個人の問題ではない
エンゲージメント、すなわち「つながり」を感じるというのはどういうことなのでしょうか。それはそこに、愛着や思い入れという強い「感情」が生まれているということです。モチベーションは個々人の心の中から生まれる感情ですが、エンゲージメントは関係性の中から生まれる感情です。つまり、良い感情が生まれるためには、良い関係性が必要になります。
社員のエンゲージメントが低いと嘆く経営者や人事、管理職もいますが、それは社員1人ひとりの心の問題ではなく、社員と仕事との間、社員同士の間、社員と会社との間に、良い感情が行き交う良い関係性が生まれていないということです。
仕事を通じて、やりがいや成長実感を得られる。職場を通じて、安心感や支え合い感を持てる。会社を通じて、社会への貢献実感や働く喜びと感謝の気持ちが湧いてくる。そんな感情が自然に生まれる働き方、マネジメント、コミュニケーションがあるかどうかで、エンゲージメントという深いつながりを実感できるかが決まります。
つまり、エンゲージメントはあくまで結果であり、エンゲージメントが生まれやすい関係性があるかに着目する必要があります。さらにその関係性が良い関係性かどうかを判断するには、そこに良い感情の連鎖が起きているかを見ていくことが必要です。
日本人のエンゲージメントが低いのは、良い感情の連鎖が起きていないからです。むしろ人を萎縮させ、前向きさを失わせる負の感情の連鎖が起きているからです。組織に広がる感情、すなわち組織感情は、関係性の中から生まれる感情であり、それが個人の意識や行動に大きく影響を与えます。
負の感情の連鎖が生じる職場、何が起きているのか?
負の感情の連鎖が起きている典型的な職場では、こんなことが起きています。目の前の仕事は一生懸命やっている。さぼっているわけではない。むしろ追い立てられながらも責任感は失わず、しっかりと仕事をこなし続けている。でも、目の前の仕事に埋没していくうちに、タコツボに自らを閉じ込めてしまい、そこから抜け出すことができなくなる。
余計なことをして、自分が追い込まれないように、自分の目の前の世界の中だけで生きようとする。新しいことが起きても、そこには触れないようにする。実際にそんな余裕もない。仕事で良いことがあっても、日々の仕事が流れていく中で、喜びを実感することも、誰かと分かち合うこともない。
そんな中で、ちょっとした問題や困り事が起きても、周囲の人は気づいてくれない。みんな忙しそうだから、自分で抱えるしかない、自力でどうにかするしかない。ますます関係が希薄になる。職場の同僚ではあるけれども、助け合える仲間とは思えない。
そんな状況が続くと、誰も本音を言わなくなる。困ったことも、本当はこうしたいという意思も、誰も口にしなくなる。会社が言っていること、会社のメッセージも、自分とは遠い世界のことのように感じる。でもそこに不満を言ったり、対話をしたりすることもない。気づくと、この会社で働いていることの意味や自分の中にあった志や思いも見えなくなる。自分で自分の心に蓋をしてしまう。
このように、閉じこもる働き方は、仕事の楽しさ、仕事の喜びに気づく、分かち合う機会を奪っていく。希薄化していく関係は、仲間だという感覚、職場という場所の意味を失わせる。対話ができない組織は、会社への思い、未来への思いを削いでいく。
日本人は特に、周囲のことを気遣う意識が強い。それが逆に、互いへの遠慮を生み、抱え込んでいく人を増やしてしまう。
そうやって働くことを、何年も何十年も続けてきたら、どうなると思いますか。
閉じた世界の中で、喜びを実感できずに働くことが当たり前のように思えてくる。それを受け入れるために、余計な感情は持たないようにする。自分を守るために、感情を閉ざす。そうしてどうにかここまで頑張ってきた人に、「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好きだと、子どもたちの前で堂々と語れますか」と聞くのは、きわめて無神経なことなのかもしれません。 【次ページ】3年も続いたコロナ禍によって、増えてしまった“考え方”
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