- 2025/07/06 掲載
ソニーの大転換を成功させた、ビジネス視点における「適応」の真実(2/2)
ソニーの適応戦略に見る、ビジネス視点の「適応」とは
■社会科学的視点の適応社会科学における適応とは、社会全体が環境の変化に適するため、生活様式や思考の枠組みそのものを変容させていくプロセスを指します。現代においてこうした変化要因には、たとえば技術の発展、人口動態のシフト、グローバリゼーションなど、広範な事象が関わっています。変化要因が何であれ、社会は、全体としてこれらの変化に適応することで、持続可能な発展を達成しようとします。
気候変動は、一般的に「緩和」と「適応」という2本の柱によって対策が行われていますが、温室効果ガスの排出削減をはじめとする「緩和」だけでは不十分であり、すでに進行している海面上昇や蓄積している温室効果ガスの影響に社会全体として備える「適応」も積極的に行っていくことが重要と言われています。
社会全体の適応を迫る外部環境の変化は、往々にして重大・深刻であり、原因と影響も複雑に絡み合いながら国や地域をまたぎます。その対応策も、1つの国や地域に閉ざされるべきものではなく、それぞれのプレイヤーが全体感を持って扱うべき問題といえます。
■ビジネスの視点
ビジネスの視点における適応とは、企業が市場の変化、消費者の需要、技術の進歩などの外部環境の変化に効果的に対応し、自己変容を遂げ、組織として生存・成長するプロセスを指します。
自己変容の対象は多岐に渡ります。事業の多角化やピボット、事業戦略の刷新、新しい技術の導入、人材育成・採用方針の転換、組織文化の変革などはその典型例でしょう。
ソニーの適応戦略は有名です。ソニーは、ウォークマンをはじめとする音響機器や家電製品で長年にわたり成功を収めてきましたが、2000年代に入るとスマートフォンの普及によりデジタルカメラ市場が縮小し始めました。この変化に適応するため、ソニーは電池事業など不採算事業の売却を進め、デジタルイメージング事業への転換を図り、特に高品質なセンサー技術に経営資源の再配分を行いました。これにより、スマートフォンやデジタルカメラ用の高性能センサー市場でのリーダーとしての地位を確立し、ビジネスの再成長を遂げたのです。さらに最近では、ソニーは従来の電子機器を始めとするハードウェア事業から、金融やコンテンツクリエーションを含むソフトウェア事業への大きな転換に成功しています。
これまでの事業成功やそれに紐づくスキル的な執着、価値観を積極的に手放し、新たな環境変化を前向きな成長機会に転換しようとする素晴らしい適応事例と言えるでしょう。
複数の視点をつなげて考える「適応型リーダーシップ」
ここまで、複数の視点から「適応」を考えてきましたが、これらの間に明確な線を引いて区別するのは難しく、「適応型リーダーシップ」に軸を定めて考えるとき、複数の視点をつなげて捉えることが極めて重要です。まず個人と組織の視点をつないで見ると、適応型リーダーシップとは、組織や企業の適応行為をより円滑に実現させるために、個々人が周囲にもたらす影響力そのものです(個人の適応→組織の適応)。

私たちの「適応」は、生物学的・進化的な視点から見ても重要です。私たち1人ひとりが適応を意識的に実践し、その時代や環境に適する成長・生存を実現するということは、その成功を可能にした優れた人間的特性を次世代に引き継ぐということでもあります。当然、生物的進化のように何万年という長期間の話ではありません。私たちがこの時代を生き抜くために適応を繰り返し、その結果として凝縮された知識や知恵、考え方を教育という形で次世代に残していくことは、引いて見れば人間の種としての繁栄可能性を高めることにつながるはずです。
このように環境変化や適応課題に対応し、個人や組織を「適応」に導くのが「適応型リーダーシップ」なのです。
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