• 2025/08/16 掲載

ユニクロ柳井社長も警告「デジタル改革はCEOの使命」、知ったかぶりでもやるべき理由(2/2)

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■(2)社長からの思いのこもった発信が大事 時には知ったかぶりも必要
 「知ったかぶりはしてはいけない。中途半端なメッセージは逆効果だ」。経営において、これは事実かもしれない。ただ、現在の日本企業の経営者の中でIT・デジタル領域に豊富な経験を持つ人は多くない。そのため、「IT・デジタル領域の知識・経験が少ない」と自覚している経営層は、先行している経営者がどのような思いでどのように動いているかを学び、自身は知ったかぶりでもいいので、思いや意志を発信すべきだ。

 日本の優れた経営者として筆頭に挙げられるファーストリテイリングの柳井正氏は、デジタル改革はCEOの使命だと明言している。柳井氏の発言は、過去の経験、つまりさまざまなチャレンジに裏付けられたものだ。創業者として事業の立ち上げから拡大、グローバルへの展開、顧客と向き合いながらさまざまなサービスの改善を直接指揮していく中で、IT・デジタルの重要性を体感したからこそ、CEOの使命だと明言しているのだと推測する。店舗改革においても物流改革においても、さまざまなパートナーと連携しながら先端技術の「手の内化」にもチャレンジし、IT・デジタルを外部に丸投げせずに、自社組織の強化として取り組んでいる。

 このようなトップ経営者の具体的な施策を学ぶのみならず、なぜそのような思考に至ったのか、それがビジネスにおけるインパクトとしてどうなっているのかなどは、書籍や体験談などからも知ることができる。

 その上で、「(柳井氏にはなれないが)自社を良くしたい、改革したい、それに必要なIT・デジタルはこのように活用していきたい」という思いを込めたメッセージを発信してほしい。トップが思いをもって指針を出すことで、社員の動きや発想が変わっていく企業を筆者は多く見ている。逆に経営層が学ばず指針を出さない企業は、なかなか変われない。最初は知ったかぶりでもいいので、自社と自業への愛を持った発信をしてもらいたい。

 数少ないがCIOやCDOのポジションから企業トップになることもある。著者が知っているある企業にも、社長になる前にCDOの経験を持ち、デジタル化をリードしてきた稀有な経営者がいる。対外的に公表しているコメントを読むと、業績が低迷していた時代から基幹システムのグローバル共通化の重要性をCDOとして提示しながら、地道かつ丁寧に実行していることがうかがえる。社長になってからはビジネス側とデジタル部門が密に連携するポイントを確認しながら確実に成果をあげている。

 トップがIT・デジタルに対して思いを持って方向性を示している企業は成長しているし、今後の成長も期待できる。思いを示すことは十分条件ではないが、今後の成長に向けた必要条件として認識すべきだろう。

■(3)はやり言葉に踊らされるな
 知ったかぶりと相反する話に聞こえるかもしれないが、「わかった風」にもまた注意が必要だ。「わかった風」であることを理解している経営者はまだよい。「わかった風」だということをわからず、はやり言葉の意味やベンダーの意図もわからず、はやり言葉に乗ってしまうのは望ましくない。

 ベンダーやITコンサルは「グローバル経営を行うためには、エンドツーエンドでデータを統合すべきであるし、そのためには、Fit to Standard (標準に合わせる)でグローバルテンプレートをつくりましょう。リアルタイムで情報を見るためには、シングルインスタンス(国内外のグループ企業全体で単一の情報システムを利用する形態)で統合していきましょう。それがデータドリブン経営の基礎となる経営情報環境の構築なのです」といったことを提案してくるだろう。

 しかし、それは本当に自社に合った方法なのか。リアルタイムの情報は意思決定に本当に必要なのか? グローバルのガバナンスモデルやサプライチェーンのモデルはベンダー側の言う通りになっているのか? 事業間のシナジーや地域間のシナジーはあるのか? など、自社の状況を疑い、ベンダーの言葉を正しく理解しなければならない。

 はやり文句の「呪文」をただ受け売りで唱え続けるのは大問題だ。部下たちが無理難題を受けて不要なリスクを背負い、プロジェクトにチャレンジすることになってしまう。それが失敗しかけたり、効果が見えなかったりしたら、経営者は「どうしてそんなにコストがかかるんだ! 成果はどうなっているんだ!」と責めるだろう。

 ある大手製薬企業の例を紹介する。前任のトップが決めた「グローバル経営基盤」と銘打った基幹システム導入プロジェクトがかなり苦境に立たされていた。なぜなら、役員も現場もこのプロジェクトを実行していく意味を本質的に理解できていなかったからだ。追加で数十億円もの投資が必要であり、その投資が事業の損益にどれくらいの負担になるのかを含め、覚悟がまったくできていなかった。同時に事業部門の各責任者にも、新しい仕組みを活用してビジネスとしての効果を生み出す意思が見られなかった。まさに、はやり言葉に踊らされている状態である。

 すでに100億円に近い投資を行っていたが、新しいトップは、日本だけでなくグローバルで必要となるビジネス機能、生産形態を含むサプライチェーンへの影響、CMO(医薬品製造受託機関)などとの関係を考慮した上で、現行の投資をいったん止めて、自社の経営に必要な基幹システムの形を再定義した。走り出したら止められない、投資してしまったからには最後まで突っ走ることが多い基幹システム構築プロジェクトの中で、経営としての英断である。

 経営者はプロジェクトの実態と自社についての現実を理解せずに改革はできないし、自社にフィットした戦略が打ち出せるはずもない。経営者が意味も背景もわからず無理なオーダーだけを投げるのは、企業の弱体化につながりかねない。

最重要なのは「積極性」と「慎重さ」をバランスよく持てるか

 IT・デジタル改革を進めるマインドとして最も重要なのは、「見えない成功に積極的に向かう気力」と「前に進むべきだが進めないことを認める勇気」を持つことだ。

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全社デジタル戦略 失敗の本質』をクリックすると購入ページに移動します
 それぞれ逆のことを言っているように聞こえるが、積極性と慎重さの両面をバランスよく持つことが重要だということだ。企画構想の段階では、要件としての具体性が出ていないがゆえに、自社の現場やベンダーがリスクを提示しないことが多い。その段階では、改革を進めていく前進型のリーダーが必要だ。そこでいったん決めたターゲットと役割に基づいて、各事業、機能のリーダーは、改革に向けた企画を楽しむかの如く積極的に活動に参加していくことが重要である。そうすることで組織は前を向き、1つのチームとなって、改革を志向するようになる。

 一方、慎重さが必要になるのは、リスクを想像し、必要性を判断するときだ。過去に経営側が指示したことがIT・デジタル改革にはマイナスだということもある。そうした場合は非を理解し、勇気を持って止めること。ステークホルダーから責められることもあるだろうが、後の大きな失敗が見えたなら止めるべきだ。いったん必要だと決めたものでも、事業としての優先順位を加味しながら、さかのぼってやり直しをするような決断が必要な場合もある。

※本記事は『全社デジタル戦略 失敗の本質』を再構成したものです。

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