• 2025/09/01 掲載

15年赤字続きだった米ユニクロ…認知度と好感度が爆上がりした奇跡の「逆転劇」(3/3)

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避けては通れないユニクロの海外展開、今後の課題は

 ユニクロの海外展開は、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というパーパスを実現するためには避けて通れない道です。単なる事業拡大ではなく、各国・各地域の人々の生活に根ざした価値を提供することで、真のグローバルブランドとしての地位を確立することにつながります。

 今後の課題としては、これまで以上の人材の育成と確保が挙げられます。特に、新しい国や地域に進出する際には、その地域の事業責任者の存在が鍵となりますが、「自ら手を挙げて海外に行きたい」という意欲を持つ人材は、特に日本人の中ではまだまだ多くはありません。そのため、各地域で育ったローカル人材が、次の国や地域の展開をリードするというモデルの構築を急いでいます。

 実際、ユニクロは海外人材の登用に非常に積極的です。2030年度をめどに、全世界の管理職に占める外国人の割合を、2023年8月末時点の6割弱から8割に引き上げる方針を打ち出しています。海外展開を進めている他の日本企業と比べると、ユニクロは現行でも高い比率なのですが、さらに厚みを持たせる考えです。また、現在は2割程度の執行役員の外国人比率も、30年度をめどに4割を目指します。

 こう聞くとヘッドハンティングでの中途入社が多いとイメージするかもしれませんが、ユニクロは新卒の段階から外国人の比率を増やしています。世界各地で連携する大学の数を増やし、会社説明会を開くなどして人材を確保しています。海外の学生を対象とした日本でのインターンシップ(就業体験)の参加者も、2023年度は約1100人の採用のうち、海外採用が約700人を占めています。

 もちろん中途採用も積極的で、柳井さんは「優秀なら10億円の年俸を出してもいい」(実際にはそこまで高くはないですが、グローバルでトップクラスの人材を招聘できる競争力ある報酬体系が整備されています)と語っており、高額報酬で高度人材を獲得しています。ただ、私も中途入社ですが、報酬だけが目当てで入るわけではありません。根っこにあるのは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というパーパスへの共感です。かつて私が柳井さんに初めてお会いしたときに、そのパーパス実現に対する思いにコロッとやられてしまったように。

ユニクロの成長を左右する「最後のフロンティア」

 グローバル企業としては、地政学的リスクへの対応も重要です。ユニクロはかつて売上の半分以上の商品を中国で生産していましたが、段階的に東南アジアへのシフトを加速させています。人件費の高騰だけでなく、世界的な「デカップリング圧力」(国や地域間の投資や通商の規制)への対応もあり、ベトナム・インドネシア・バングラデシュでの生産量を高める計画を進めています。

 インドやアフリカなどの新興市場への展開も今後の重要な戦略となるでしょう。インドへは2019年に進出し、わずか3年目には早くも黒字化を達成しており、今後の成長が期待されています。

 アフリカへはまだ進出していませんが、ユニクロに限らず、多くの企業にとってアフリカは「最後のフロンティア」になると言われています。アフリカの最大の魅力は人口です。働く人としても消費者としても、人口の増加はビジネスをする上では重要な指標です。

 国連が2024年7月に発表した人口推計によると、1950年に約2億3000万人だったアフリカの人口は増加を続けており、2024年に約15億2000万人に達し、その後も2100年まで右肩上がりの増加が見込まれています。アフリカは他の地域と比べて人口拡大が長く続くとされ、2050年には世界人口の約4人に1人、2100年には同3人に1人以上がアフリカ人になると言われています。他の地域は、アジアでは21世紀半ばには減少に転じ、中南米、欧州、北米もおおむね横ばいという見込みのため、アフリカをいかに攻略するかが、ユニクロの長期的な成長を左右すると言って間違いないでしょう。

 2024年8月期決算では、ファーストリテイリングの連結売上高が初めて3兆円を突破し、営業利益も前期比31.4%増の5,009億円と過去最高を更新しました。

 特に、ユニクロ事業は売上高の約6割を占める海外が成長のけん引役となっています。

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ユニクロの戦略』をクリックすると購入ページに移動します
 ユニクロが目指す「世界一」への道のりは、まだ途上にあります。実際、柳井さんは売上高3兆円の達成を「現時点では真のグローバルブランドを目指す競争にやっと出場資格を得たにすぎない」と位置づけ、次なる目標として売上高10兆円を掲げているのはこれまで何度かお伝えした通りです。「数年のうちに売上高5兆円に届く。10兆円を目指し、具体的な計画と準備を進める」という柳井さんの言葉には、世界のアパレル市場でさらなる地位向上を目指す決意が表れています。

 柳井さんはよく「売上高を3倍にするには、それまでの手法は通用しない」と語っています。今の延長線上では実現できないので、売上高3倍の会社とはどんなものなのかを想像しながら、毎日会社を変えていく必要があります。

 ユニクロの海外戦略の取り組みの根底にあるのは「文化の翻訳力」です。単なる商品の輸出ではなく、現地社会の文脈を理解し、再構築する能力こそが、国際競争力の源泉になっています。グローバル企業へと成長したユニクロが、今後どのように世界中の人々に「Life Wear=究極の普段着」を届け、「世界を変えていく」というパーパスを実現していくのか、その進化が注目されます。

※本記事は『ユニクロの戦略』を再構成したものです。

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