- 2025/11/24 掲載
「米国第一」と「日本第一」を両立、高市首相の新しい日米外交ビジネスモデルとは(3/3)
経済安全保障の意義とリスク
高市氏の新しさは、この仕組みを、トランプ流の「実利外交」、経営者の感情や思いつきに左右される不安定なビジネス関係ではなく、持続可能な取引システムとして制度的に再設計し、日米外交の構造として長期的に定着させる官僚的(テクノクラート)視点だ。そもそも日本にとって、防衛費増額か経済的譲歩かという選択は、軍事力も経済も「強制力で相手を従わせるハードパワー」という点で同じである(出典:ジョセフ・S・ナイ (著), 山岡 洋一 (翻訳)『ソフト・パワー21世紀国際政治を制する見えざる力』2004/9/14、日本経済新聞出版)。しかし対米投資をビジネス拡大の好機とみなす民間企業も含めて、強制力というよりも魅力的な相互利益を担保するウィンウィン関係の制度化の方が、同盟関係の信頼を高める。魅力に惹かれて”買い続ける”関係は安定し、ビジネスマーケティングの観点からも有効だ。
高市政権の主要テーマであり、今回の日米会談の中軸に置かれた「経済安全保障」は、その代表的な分野である。経済安全保障とは、経済の視点からみた国家やブロックの安全保障であり、具体的には、特定の国や地域への依存を減らし、重要物資の安定供給を確保するサプライチェーン強化、通信、金融などの重要インフラの保護、軍事転用可能な先端技術の研究開発と流出防止、経済的威圧への対抗などである。今回の日米間合意事項でも、対米投資5,500億ドルのパッケージの中に、エネルギー・AI・重要鉱物など経済安保ドメインが多く含まれている。
経済安全保障を重視し、「自由で開かれたインド太平洋地域構想(FIOP)」の中心的柱に位置づけたのは、第一次安倍政権である。同政権ではまだ経済と防衛は別分野として扱われていたが、同地域への米国の関与の重大性を説得し、トランプ氏を巻き込んだのも安倍元首相だった。経済利益を重視するトランプ政権には、経済の”言語”で、米の国益と地域安全保障の密接な関連性を語るやり方が効果的だ。
経済安保を「日本外交のスタンダード」にする利点とリスク
経済と防衛を戦略的に統合したのは第二次安倍政権(2013-2020)であり、安倍氏の後継者を自負する高市氏の「相互利益ビジネスとしての外交」モデルへとつながっていく。第二次安倍政権後の岸田政権下で、経済安全保障推進法や日米+豪加台のサプライチェーン連携など、経済安保ガバナンスの制度化が始まる。高市政権では、経済安保を「国家安全保障の統合モデル」ととらえ、供給網・技術管理・共同生産・相互審査などの諸政策を通じて、経済安保の制度化を”日本外交のスタンダード”として定着させる狙いがある。経済安保に焦点をおき、相互利益ビジネスモデルを標準化する外交の制度化は、高市氏とトランプ氏の両政権にとって利点もリスクもある。日本は、防衛・経済・技術の統合で国力を強化し、日米同盟の経済的対等性の向上や技術主導外交による発言力拡大などのメリットがある。一方、防衛重視が経済政策の柔軟性を失わせる、産業支援の巨額化による財政負担増大、制度化に伴う官僚主導や中央集権化で政策が硬直するなどの危険性もある。
米国も、同盟で得られる経済的収益や対中競争力強化などの利点はあるが、市場の自由競争に対する政府介入を拡大させ、経済ブロック化による国際摩擦と分断の固定化が外交政策の柔軟性を失わせる危険もある。
安全保障をめぐる日米間の「対等な交渉」は、夢物語にすぎないと思う人は少なくないだろう。しかし少なくとも高市政権は、それを目指している。従属か対等か。払うべきコストを含めて、日本外交はいま大きな選択の岐路に立っている。
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