- 2025/12/04 掲載
生成AIは「社会課題解決」を“民主化”できるか? アクセンチュアが示す4つのレベル構造(2/4)
生成AIが社会課題を“民主化”する? 4つのレベルで読み解く
前章の生活の描写はあくまで近未来の一例にすぎないが、その多くはすでに世界の行政・医療・コミュニティで現実の取り組みとして動き始めている。日本が社会課題先進国と言われ久しい。超高齢化社会への対応に加え、気候変動やウェルビーングなど、重要アジェンダは増えるばかりだが、課題解決における生成AIの可能性を、次の4つのレベルで考え、最新事例を紹介する。
個人レベル:
運動など「よい習慣」の確立には、これまでも多くのアプローチが取られてきた。生成AIは個々人の悩みや志向を精度高く理解できるため、自律的な提案と個別最適な働きかけにより行動変容を促すことができる。
米国のスタートアップキューゼンがつくったシステム「NudgeRank(ナッジランク)」 は、AIで個人最適化された行動変容を促すナッジを生成し、健康習慣を促す。
すでにシンガポールやイギリスの政府公式アプリで実装され、国民一人ひとりの日々の生活パターンや健康状態に基づき提案を行なうことで、改善効果が得られているという。
コミュニティレベル:
生成AIは多様な人々の連携を仲介し、コミュニティの活性化や必要なステークホルダーの巻き込みも支援できる。
米国を代表する地域コミュニティ交流サイトの米Nextdoorは、AIが会話のファシリテーターやコミュニケーションマネジャーの役割を果たしている。言語や文化が違うユーザーの投稿文を理解しやすくしてくれるだけでなく、個々人のコミュニケーションの些細な悪い癖を直してくれるため円滑なやりとりが実現する。
最近では街の開発に市民の参加をうながすようなAI活用も試行されている。
米ロサンゼルスでは、地域の公園について文化的背景の違う市民同士が意見を出し合えるように、AIが意見を基にイメージ画像を生成し熟議を支援した。
英ケンブリッジでは、地域の開発について議論をあらかじめシミュレーションするために、住民や事業者、学生などのステークホルダーをAIエージェント化して架空の住民討議を実施した例もある。その場にいなくても、自分の意見をAIが代弁してくれるのだ。
サービス提供レベル:
生成AIが窓口業務を代替すれば、他人に無理に開示せずとも、蓄積された知見と制度理解のもとに個別最適な支援を提案できる。また煩雑な申請書類の作成や確認業務をより効率化し、不正の検知なども担えるだろう。
エストニアは省庁横断で住民と音声で対話できるAIアシスタント「Burokratt(ビューロクラット)」を提供しており、税金の払い込みや、パスポートの申請、図書の貸し出しなど多様な行政サービスを1つのチャットや音声窓口から案内している。
政策レベル:
AIが政党を提案したり、政策をわかりやすく教えてくれたりするなど、目に見える活用が増えてきた。AIにより国民ニーズの把握や異なる専門家間の橋渡しが可能になれば、人々が法や政治に関わりやすくなる。
台湾の桃園市は、市民からの陳情を受けるホットラインの分析にChatGPTを試験導入している。陳情に迅速に対応し優先順位を付けることで、生活課題に適切に対応できるようになった。
英国の公立大学The Open Universityによるプロジェクト「BCause」は、地域課題を位置情報付きで投稿できる機能や、都市課題に関する議論や討議の内容を構造化して整理する機能を開発しており、政策提案や論点クラスターとして可視化することで政策立案の後押しにつなげることを目指している。
政党「チームみらい」による党首・安野貴博氏のAIアバター「AIあんの」が、国民一人ひとりとの対話をAIによって実現できたことは記憶に新しい。
同じような事例が他国にも見られ、幅広い政策議論やニーズの聴取が実現できるようになった。
デンマークで設立された「Synthetic Party」は、零細政党の政策などをもとにマニフェストをまとめた政治実験である。AIが新たな形での政治参画を可能にしつつある。
これらの変化に共通するのは、あらゆる人々の格差が埋まり、社会参画が可能になることだ。その前提にあるのは、生成AIがデジタルスキルや言語、障がいや知識差にかかわらず、会話や意思疎通を可能にすることである。
たとえば、聴覚障害を抱えていても、AIが要約して文字にしてくれることで複雑な会話を理解できたり、生成された画像を通して意思疎通できたりする。
【次ページ】民主主義におけるAI活用のリスクと対策
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