• 2025/12/04 掲載

生成AIは「社会課題解決」を“民主化”できるか? アクセンチュアが示す4つのレベル構造(3/4)

連載:アクセンチュア流 生成AI産業変革論

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民主主義はAIで強化されるのか、それとも揺らぐのか

 一方で、公共領域におけるAI活用は可能性と同じだけの慎重さを必要とする。利便性が劇的に向上する反面、民主主義の根幹に関わるリスクも浮かび上がってくる。

 国連開発計画(UNDP)は、民主的なガバナンスについて、包摂、参加、非差別、平等、法の支配、説明責任という6つの主要原則を挙げている。

 AIの活用は、それらを後押しすると同時に棄損する可能性もある。ここでは、民主主義におけるAI活用のリスクとその対策を、4つに分けて見ていこう。

<包摂>多様な意見の尊重と健全な世論の形成
 包摂とは、すべての人がその属性にかかわらず社会的・政治的プロセスに関与できるようにすることであり、多様な意見や立場を尊重することが求められる。

 行政がAIを利用する場合、その国唯一の「公式AI」という存在が一元的な解釈や誤情報の公認化を推し進めかねない。支配的な価値観を無意識に推進してしまうと、国民の多様性を損ないうる。

 またAIが個人の嗜好に最適化された情報を提供することで、異なる意見が視界に入りにくくなる。その結果、人々は自分の考えに沿うように歪められた事実しか認識できず、共通の事実を共有できない危険が高まる。そうなれば、民主主義に不可欠な「共通の事実に基づく熟議」は成立しにくくなる。

 国はAI活用にあたり政治的中立性を徹底し、少数意見の存在を守り、国民による熟議の機会を保障することに十分配慮しなければならない。具体的に、政策決定時には常に複数のシナリオを提示し、特定の推奨を控えるべきである。有権者がAIによる情報提供の仕組みを理解し、批判的思考を維持できるようにする教育も欠かせない。

 福利や公共利益を目的とした国民への介入ではたとえば、がん検診の推奨は公共の利益に資するといえるが、十分な情報提供を欠いたままAIによる強力な推奨で自己決定権を暗に奪うような方法は問題になりうる。

<参加>意思決定プロセスの制度的正当性と市民関与の維持
 効率性を追求するあまり、AIが民意を自動的に分析、提示し最適解を導くという思想が強まると、民主主義に不可欠な市民の議論が省略され、意思決定の制度的正統性が損なわれる恐れがある。選挙や議会、審議といった制度的プロセスを実質的に経ることなく、「データによる多数派代表意見」が政治を決めてしまうのだ。

 AIが情報の取捨選択や表現までも代行するようになれば、市民は自ら考える主体である必要を失い、民主主義はただの制度となりうる。市民が考えることを放棄すると、情報を解釈するAIアルゴリズムに組み込まれた判断軸が実質的に政治を左右し、判断だけではなく行動含めて従属的な市民ばかりとなってしまう。

 常に背景情報を提供し、AIを交えていくつかの選択肢を討議するときも市民が傍観者にならない仕組みが望まれる。

<非差別・平等>エリート統治の防止と公平な機会の保障
 AIは市民の判断に必要な科学的知識を補完することで、民主的意思決定の高度化を実現する希望もある。。

 しかし現実には、AIがビッグデータに潜む差別的な価値観の影響を受け、差別や非科学的な知見を助長する情報を拡散してしまう事例がすでに見られる。これに対抗するカウンターテクノロジーとして、差別的発言や偽情報を排除するフィルターや検閲アルゴリズムの導入が進んでいるが、その際に「公共の利益」の名の下で少数意見や異論まで抑圧する設計がなされる危険もある。

 意思決定の根拠がAIアルゴリズムによって自動生成される場合、その設計者(政府機関や企業)の価値観が暗黙裡に埋め込まれ、民主的統治と技術的統治の境界は曖昧になる。結果として、市民による代表制に基づく統治が、AIを設計できる一部エリートによる「技術的代表制」に置き換わる可能性すらある。

 このようなAIによる“エリート統治”を防止するため、第三者的な立場から監視する仕組みが必要だろう。またそれらの分析結果を国民に公開することで、アルゴリズムの導く結論に対する理解の醸成が求められる。

<法の支配・説明責任>ルールに基づく意思決定における透明性の確保
 政府は民間企業と異なり、憲法や情報公開法に基づき政策判断や予算執行の正当性を全国民に対して説明する義務を負う。

 ところが、AIによる意思決定がブラックボックス化すると、法の支配の原則と行政の説明責任の根幹を揺るがしかねない。ブラックボックス化されたAIの判断は、法的根拠の不在や解釈の一貫性の欠如を生み、結果として法律よりもアルゴリズムのロジックが優越する危険をはらんでいる。

 とりわけ公共領域では透明性と説明可能性は制度の信頼性そのものであり、技術的正確さや効率性とは別軸で評価されるべき基準である。

 国民に対する説明責任を果たすためには、「Explainable AI(説明可能なAI)」の技術開発だけでなく、第三者による監視体制や法的手続きとの接続性が不可欠である。 【次ページ】行政は地方や社会的弱者にこそ生成AI活用を
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