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  • 2008/10/30 掲載

【連載】ザ・コンサルティングノウハウ(1):コンサルティングノウハウの存在に気付く(2/2)

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コンサルタントの会議中における頭の使い方

 岩崎の説明は、残念ながら山口にはちんぷんかんぷんだった。ここは、伝化の宝刀「たとえば」に頼るしかない。ノウハウの議論が理解できない場合、「たとえば」と問うことは、ABCコンサルティング社の基本ルールである。コンサルタントのノウハウは、短い言葉で表現される。しかし、その意味は深い。これを理解するには、「たとえば」と問い、ノウハウ活用の事例を確認し、活用のイメージを得ることが効率がいい。また、「たとえば」と聞かれて即答できない場合、ノウハウを説明している側の詰めが甘いことが明らかになる。

「たとえばどういうことですか。」
「たとえば君が、コーヒーショップを多店舗展開している会社で、さらなる売上拡大のためのコンサルティングをしていたとする。この会社は、市場が成熟して成長率が近年下がっていたとしよう。社内では、コーヒーの味を向上させる、商品の種類を増やす、店員の教育を強化する、店舗をリニューアルする…といった一般論が出ていた。こんなことは今までもやってきたし、このようなことを積み重ねても、この会社を再度拡大路線に戻すことはできないだろう。どうだい、この会社を再度成長させる『視点』があるかい。」

「ええと、競争相手の店舗を調査して、彼らの強みを視点に、自社の拡販策を作るとか。」
「方法を聞いているんじゃない。答えを聞いているんだ。たとえば、競争相手の強みとは何だい。」
「…やはり味とかになるかなぁ。」

「もし誰かが、『ぼくは、コーヒーの味はよくわかりません』と発言したらどうする。」
「ええと…。たしかにぼくも、コーヒーの味の差はよくわからないですね。味で店を選んだこともないし。味よりも雰囲気、いや多くの場合は時間がある時にたまたまそこに店があったからですね。」

「だとすると革新策は、味を今以上によくすることにリソースを割かず、いい立地獲得に徹底してリソースを傾注することかもしれない。この企業はコーヒーショップは味が命と思っているから、なかなかブレークスルーできないわけだ。このような視点がいくつも手に入れば、そこからいろいろな革新策が創造できるだろう。視点が、革新創造のために重要だというのはわかったかい。君が言うように、コンサルタントは、会議を効率良く進めなければならないが、コンサルタントの使命は顧客には成しえない革新を達成することだ。このノウハウを使って、つまらない議論が排除できたり、会議の効率が良くなるのは、このノウハウが会議効率化を狙ったものだからではない。会議参加者すべての注意を、視点出しと革新策創造に集中させるからなんだよ。」
「なるほど。」

「コンサルタントは、会議の間中、参加者から出されたすべての意見をスタートに、頭の中で革新策を想定し続けなければならない。もし、新たな革新策が想定できる意見、つまり創造の触発材料としての視点が発見されたら、すぐさまそれを基に革新策を自分なりに創造し、これを全参加者に示し、妥当性や実現方法を議論しなければならない。いいかい。会議で出されるすべての意見に対して、これを行うんだ。しかも瞬時に。そして優雅にだ。」


 山口は、先輩コンサルタントが会議中にそのような頭の使い方をしているとは、今までまったく知らなかった。まるで、優雅に泳ぐ水面下で激しく足を動かしている白鳥のようだ。

視点に触発されて革新策を創造する

「どうだい。視点に触発されて革新策を創造した経験は、君にもあるだろう。いわゆる『ピンとくる』瞬間だよ。」

 岩崎の問いに、山口はこの間の日曜日のことを思いだした。

「ええと…。プライベートなんですが、私は地域のボランティアで子供達にブレークスルー技術を教えています。」
「ほう、おもしろそうだね。」


 普段クールな岩崎が、山口の話に興味を示した。

「『ブレークスルー塾』と称して、近所に住んでいる大学教授をされている方が、子供達にクリエーションやブレークスルー、グローバル環境での日本の課題といったものを、わかりやすく教えているんです。塾の講師は近所のボランティアで、私もその1人なんです。先日『代替案の評価』というテーマで演習をやりました。」
「どんな演習なの。」

「マンション2階の入り口が火事になり、その時子供達だけが部屋にいた。ベランダから逃げるしかないが、飛び降りるとケガをする。どうやって無事に逃げるかというのが演習問題です。子供達は、いろいろな代替案を考えました。大声で助けを呼ぶ。飛び降りる場所に布団を投げて、クッションにする。洋服をつないでロープにする。その時1人の子供が、『早く逃げないと焼け死ぬかもしれないのだから、ケガをしてもいいからすぐに飛び降りるのがいい』と言ったんです。そこでピンときたのは、『演習問題そのものの妥当性も吟味する必要がある』ということです。これは、カリキュラムに加えることにしました。」
「なるほど。子供に教える前に、君がまず実践した方がいいな。」


 岩崎の言葉に、山口は少しむっとした。そこで、さっき教えてもらったノウハウでまだ釈然としない点を、少し辛辣な言葉で岩崎にぶつけてみた。

「しかし、そんなピンとくるなどという情緒的なことに、コンサルティングの結果を委ねていいんですか。もっとシステマティックに考えなければ、プロとは言えないんじゃないんですか。」
「システマティックというのは、一覧表にまとめたりネットワークで構造化することかい。網羅性を確認したり、複数の要素を構造化するために、色々な技法を使うのはあたりまえの話だ。そんなことはクライアントにだってできる。しかし、身近な視点だけでシステマティクに考えたって革新策は創造できないのは、さっきのコーヒーショップの例でわかっただろう。我々コンサルタントの価値は、可能な範囲であらゆる視点を集めることと、すべての視点を注意深く吟味し、可能なものは革新策に昇華することだ。そのために我々は、まずリサーチという方法でクライアントの競争相手や顧客、先進異業種を調査する。これは、クライアントだけでは決して得られない視点を獲得するためだ。もう1つの重要な方法が、あらゆる視点を見つけ出して、革新策を想定することだ。これには、『顧客には到底できないレベルの考える執着心』を使う。これら2つによって、顧客には成しえない革新策が創造できるんだ。」


コンサルタントは何を解くのか

 岩崎は、山口の目を見て、この話を彼が理解したことを確認した。その上で、岩崎は山口がまだ整理できていないポイントをついた。

「ところで、君は先ほど『顧客の言っていることが単なる思い付きかどうかを吟味し、思い付きなら受け流し、思いつきでない場合は指摘された問題を解決する』と言っていたね。問題とは何だ。」
「解かなければならないもの…。」


 山口は、岩崎の刺すような視線から目をそらしながら答えた。

「おいおい、クライアントの会社のガードマンが、社員の朝の挨拶の声が小さいという問題を指摘したとして、これの解決をコンサルタントが支援するかい。」
「たしかに。我々コンサルタントが解くのは、経営者の問題ですかね。」
「ぼくが聞いているんだよ。いいかい、我々はクライアントが問題だと言ったことを解くとは限らない。問題は、主観の産物だ。経営者の認識している問題であっても、それが彼や彼女の単なる主観だったらそれは解かない。」


 その時、2人が乗った電車が駅についた。

「OK、宿題だ。クライアントが問題だというものが、必ずしも我々コンサルタントが解くべき対象、つまり命題でないとすると、コンサルタントは何を解くのか。主観でないとすると、何を基準にして命題を決めるのか。考えといてくれ。君の寺子屋の話が、ヒントだよ。」

 岩崎は、にっこり笑うと先に立って電車を降りた。

≪次回へつづく≫

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