- 2026/09/25 06:10 掲載
「またAI飯か…」叩かれても企業が使うワケ、AIが進化するほど起きる“逆転”とは(2/3)
「AIか、人間か」ではない、プロが見る“本当の分岐点”
企業が生成AIを使う判断自体は、費用対効果の面では合理的だ。すべての写真をプロのカメラマンが撮影し、デザイナーらが仕上げれば時間も費用もかかる。生成AIなら、背景変更や画像補正、バリエーション制作を短時間で行える。ただし、食品広告では事情が異なる。画像は単なる「イメージ」ではなく、消費者が実物を想像するための重要な情報だからだ。AIによって実物から離れすぎたり、文字や商品の形状まで変形したりすれば、効率化どころか企業や商品への信頼を損ないかねない。
しかも興味深いことに、生成AIによる精緻な画像が増えるほど、その反対方向にある表現も目立つようになっている。
最近、SNSで注目されたのが、あえて手書き感や手作り感を前面に出した企業投稿だ。京都の土産物店「よしとよ」が展開するコスメブランド「コトノカ」は、Xで「AI生成画像時代に全力疾走で逆走していく弊社」と投稿。
A4用紙に集中線をプリントし、セロハンテープで壁に貼って背景を作るという、極めてアナログな表現を見せた。高度なデジタル表現とは正反対だが、その「わざわざ人が作った」感じ自体がコンテンツになった。
AI生成画像時代に全力疾走で逆走していく弊社 https://t.co/cVTrgkrvIZ pic.twitter.com/mRRgBaPoXU
— コトノカ (@cotonoca_kyoto) September 1, 2026
また、無料イラスト素材「いらすとや」をあえて使った量販店のPOPのように、洗練されているとは言い難いデザインがSNSで面白がられ、シェアされるケースもある。
重要なのは、単に「下手なもの」「古いもの」が評価されているわけではないということだ。AIを使えば、それらしいビジュアルを誰でも簡単に作れる時代になったからこそ、手書き、切り貼り、素朴なイラストなど、人が作った痕跡が強く残る表現が差別化になる。
生成AIが表現の平均点を押し上げるほど、「上手ではないこと」に新たな価値が生まれることもある。
一方で、人間が作成した精緻な表現が称賛を浴びるケースも見られる。イラスト自体が優れていたということは大前提だが、AIによる表現が当たり前になればなるほど「誰が、どのような思いで作ったのか」という制作プロセスや作り手の存在が、コンテンツの価値を構成する要素になっていくという点も無視してはならない。
関連記事:
クリエイターも意見真っ二つ? 生成AIで変わる「プロの価値」
生成AIに頼ることの是非については、プロのクリエイターの間でも議論が分かれている。従来型の制作技術を磨いてきたクリエイターからは、真に独創的な表現や人の心を深く動かす表現までAIに委ねることへの懐疑的な声がある。関連記事:
一方、デジタル領域のクリエイターを中心に、生成AIを積極的に制作プロセスへ取り込む動きも広がっている。
生成AIの価値は、単なる「手抜き」やコスト削減に限られない。大量のアイデアを短時間で可視化したり、人間だけでは思いつかなかった組み合わせを試したり、従来は予算的に困難だった映像表現を実現したりすることもできる。
したがって、「AIを使うか、使わないか」という二者択一で考えること自体がすでにあまり意味を持たなくなりつつある。重要なのは、何のために、どの工程で、どの程度AIを使うのかという設計である。
結局どう使う? 生成AI時代の「4つの勝ち筋」
生成AI時代のビジュアル表現は、「省力化・簡略化─精緻化・高度化」と「順張り─逆張り」という2つの軸で整理すると分かりやすい。第1は「生成AIを活用した表現制作の効率化」である。SNS投稿やバナー、背景処理などをAIで量産し、時間とコストを削減する。現在、多くの企業がまず期待しているのはこの領域だろう。ただし、味の素の事例のように、チェック工程まで省力化するとブランド毀損につながりかねない。
第2は「生成AIを活用した表現力の向上・独自表現の模索」である。AIだからこそ可能な映像や世界観を作り、従来の撮影やCGでは難しかった表現に挑戦する。ここでは、AIは人間の代替ではなく、クリエイターの能力を拡張する道具になる。
第3は「超絶技巧・人間ならではの創造性」である。AIが簡単に“それらしいもの”を作るほど、圧倒的な技術を持つ写真家、イラストレーター、職人、クリエイターが、人間にしか作れない作品を提示する価値はむしろ高まる。AIとの差を明確にする方向だ。
第4が「手作り感のあるチープな表現」である。コトノカの事例のように、AIとは正反対の不完全さ、素朴さ、手作業の痕跡をあえて見せる。これは単なる懐古趣味ではなく、AI時代だから成立する「逆張り」の戦略である。
つまり、AIの普及によって表現が一方向に均質化するのではない。AIを使って効率化する表現、AIで高度化する表現、人間の技巧を突き詰める表現、あえてチープにする表現という、異なる方向への分化が進むと考えられる。 【次ページ】広告史が示す「揺り戻し」、なぜ“リアル”に回帰する?
AI・生成AIのおすすめコンテンツ
AI・生成AIの関連コンテンツ
PR
PR
PR