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- 2009/10/15 掲載
「在庫は悪」なのか?在庫の基本を知る:CIOへのステップアップ財務・戦略講座(2)
トヨタの製造原価明細書から読み解く
「在庫は悪」「在庫を削減すればコスト削減につながる」とよく言われますが、そもそも在庫とは何でしょうか?まずは、リンゴ(流通業、小売業)と自動車(製造業)で考えてみましょう。
リンゴの場合は簡単です。リンゴを仕入れて、即日完売すれば、在庫を持つ必要はありません。ただし、即日で売れなければ、倉庫に残った分が在庫になります。
一方で自動車の場合はもう少し複雑です。自動車は、5万点以上の部品で構成されていると言われています。エンジンやタイヤ、ライト、シート、すべての部品を即日で仕入れて、組み立てて、完売することはほぼ不可能です。なので、売れる前に倉庫で眠る製品や、製造途中の製品(これを仕掛品と呼びます)などが発生することになります。このように自動車の場合は、リンゴと違って、仕掛品も含めて「在庫」と呼ばれます。
そこで掲題の「在庫は悪」なのか?ということですが、リンゴの場合は放っておけば腐ってしまいますし、保管しておく倉庫の費用もかかります。また、自動車の場合、完成品はリンゴと同じように時間による劣化や倉庫代がかかりますし、仕掛品でも工場の保管費や労務費などがかかります。このように、直観的に何となく在庫ってよくないものというのはわかるかもしれませんが、今回はこれが財務上でどのような問題になるのかを考えてみましょう。
会計には「費用収益対応の原則」というものがあります。これはすなわち、ある一定の期間に収益(売上)を計上する場合、その同一期間の収益にひもづく費用も計上する考え方です。この収益と費用は、会社の損益計算書(P/L: Profit and Loss Statement)に計上されます。
しかしながら、在庫は販売前の製品・仕掛品なので、収益にひもづきません。在庫が収益と関係ないのであれば、在庫はその企業の持ち物、すなわち資産になります。そして、企業の資産である在庫は、貸借対照表(以下、B/S:Balance Sheet)の「棚卸資産」として計上されることになります。
いきなりP/LやB/Sという単語がでてきて、戸惑われる方がいるかもしれませんので、ここで簡単にP/LとB/Sについて説明しておきましょう。P/Lとは、損益計算書という名のとおり、一定期間内の収益と費用を記載したものです。先にも述べましたが、何かを売って売上(収益)をあげ、さらにその間にどんな費用がかかったのか、それを対応させることになります。
一方のB/Sは、ある時点の資産と負債を示したものです。特定の時点で、企業がどういう資産、たとえば現金や債権、不動産、生産設備などを持っているのか、また、どういう負債、たとえば、長期借入金や支払手形などを持っているのか、を示したものです。
さらにB/Sは、お金の使い道(資産)と、お金の出所(資金)を示す一面を持ち合わせています。出所は、お金の借り入れなどによる負債のほか、資本(株式会社の場合は株主の出資金)もあります。そのため、次の等式が成り立ちます。
資産=負債+資本 |
イコールの左側、お金の使い道(資産)と、イコールの右側、お金の出所(負債+資本)が一致しているという話は若干抽象的ですので、例を挙げて考えてみましょう。図1にメーカーA社のB/Sを示しています。
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まず、お金の使い道となる資産は全部で10億円、そして、お金の出所は、負債(銀行借入など)+自己資本(純資産)を合わせると10億円とお金の使い道とお金の出所が一致します。次に、在庫とB/Sの関係についてみてみましょう。A社が部品を調達する場合、部品の供給企業から部品を購入するでしょう。その場合、部品を調達するためのお金の出所には、1)銀行から借金してお金を調達する(負債)、2)自己資金で調達する(純資産)の、2つの方法があります。 たとえば、図1のように、部品を銀行借り入れ100万円で購入した場合、棚卸資産に100万円、負債(短期借入金)に100万円、それぞれ同額が計上されます。しかし、これを銀行で資金調達した場合は当然ながら金利支払いが発生します。在庫をいつまでも滞留していては、いつまでも銀行に金利支払いをしなくてはなりません。余分な在庫を持つべきではないという財務的な理由はここにあります。
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