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  • 2011/03/14 掲載

アウトソーシングがインソーシングか、ITが変える選択の基準(その1):篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(28)

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IT導入の影響が及ぶ範囲は企業内の分業に留まらない。それは市場を通じた企業間の分業にも及んでおり、「企業と市場の境界」に鋭い変革を突きつける。前者はインソーシング、後者はアウトソーシングということもできる。今回はその深い意味について、ノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースが1937年に発表した「企業の本質」という古典的論文に遡って考察していこう。

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
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インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

企業はなぜ存在するのか:分業の二層構造

 第7回のプリンシパル=エージェンシー理論第23回のロビンソン・クルーソーの世界でみたように、経済活動で情報の問題が生じるのは、分業に基づく交換があるからだ。IT導入がこの構造にどう影響するかを考える際、これまでは分業が企業の内側で行われる、すなわちインソーシングされることを暗黙の前提としていた。

 だが、よく考えてみると、比較優位に基づく分業は、市場での取引を通じて企業の外側、つまり企業と企業の間でも行われている。だとすれば、ITの導入は企業の内部だけでなく、たとえばアウトソーシングなど、市場を通じた企業間の関係=産業組織にも深く影響するはずだ。その本質を掘り下げて理解するには、1991年にノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースが1937年の論文で提起した「取引費用」の概念が役に立つ。

 コースは標準的な経済理論で登場するのは「組織をもたない企業」だと指摘し、企業が形成される理由を分業に求める考え方に対して、「分業は企業を形作らなくとも市場を通じてなされており、なぜ分業が市場の価格メカニズムではなく組織内の調整メカニズムで置き換えられるかを説明しなければならない」と主張した(注1)。

photo
図表1 分業の二層

 現実の経済システムは、アダム・スミスが『国富論』で丹念に描写したような工場内の技術的分業だけでなく、市場を通じた企業間の社会的分業との二層構造で成り立っているが、理論が想定する世界では、分業はすべて市場を通じて行われるため、企業内の階層構造で分業体制をとる積極的な理由はどこにもないのだ。

 第24回で触れたマネージャーとアシスタントの例に戻ると、アシスタントの仕事は独立した事務サービスとしてアウトソーシングし、市場を通じた取引として行えばよいのである。実際、情報化の進展とともに、以前は企業内で分業されていた事務労働の一部をアウトソーシングし、外部の専門家が提供するビジネス・サポートに置き換える動きが加速しているが、これはITの影響で企業の境界が揺らいでいることを示す興味深い現象のひとつだ。

 では、一体どのような場合に企業の内部で分業が行われ、また別の場合には市場を通じた取引で分業が行われるのであろうか。今から74年前にコースが提起した問題の所在はまさにこの点にあった。

【次ページ】アウトソーシングかインソーシングかを選択する基準は何か

注1 Coase (1937) およびCoase (1990)参照。

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