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  • 2016/05/27 掲載

改正サイバーセキュリティ基本法のポイント解説、なぜNISCの監査範囲が拡大されたのか

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「サイバーセキュリティ基本法及び情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が4月15日に可決、22日に公布された。今回の改正におけるポイントは、政府機関のセキュリティ対策についてNISCの監査範囲が特殊法人まで拡大されたこと、関連法案の改正でその評価・監査業務を遂行するため情報処理推進機構(IPA)への委託を可能となったこと。情報セキュリティに関する新たな国家資格として「情報処理安全確保支援士」制度が開始されることだ。

執筆:フリーランスライター 中尾真二

執筆:フリーランスライター 中尾真二

フリーランスライター、エディター。アスキーの書籍編集から、オライリー・ジャパンを経て、翻訳や執筆、取材などを紙、Webを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは言わなかったが)はUUCPのころから使っている。



サイバーセキュリティ基本法の背景

 そもそも、「サイバーセキュリティ基本法」(以下、基本法)は、国のセキュリティ対策についての責務と必要な施策を推進するための法律として、2014年11月6日に可決・成立、その後、2015年1月15日に施行された法律だ。

 この法律の主旨は、省庁など行政機関のセキュリティ対策を統合的に掌握し、予防策の指導、効果的なインシデント対応を行えるように、一定の権限を持ったセキュリティ対策機関を設けるというもの。基本法では、当時の内閣官房情報セキュリティセンターで現在のNISC(内閣サイバーセキュリティセンター)を改組し、権限を強化することで、省庁のセキュリティ対策を評価・監視、必要なら指導・指示を直接行える機関とした。

 基本法成立以前は、行政機関の情報セキュリティ対策は各省庁で行われており、セキュリティ基準やポリシー、体制なども別々に行われていた。情報セキュリティマネジメントにおいて、組織ごとに基準やポリシーが変わるのはむしろ正しく、それ自体は問題になることはない。しかし、2010年ころから国内の主だった省庁が海外からのサイバー攻撃を受けはじめ、一部でサイト改善や情報流出の被害も発生した時期もあり、実際の運用は省庁に任せるとしても、防御体制、情報公開を含むインシデント対応の一定の基準を保つ必要があるとの声もあり、省庁横断のCSIRT的な仕組みを導入すべきという考えのもと、基本法が成立された。

改正のポイント解説、一因は日本年金機構問題

 このサイバーセキュリティ基本法だが、施行から1年後に、さっそく改正が行われたことになる。主な改正ポイントは以下の通りだ。

(1)国が行う不正な通信の監視、監査、原因究明調査等の対象範囲を拡大
(2)サイバーセキュリティ戦略本部の一部事務を独立行政法人情報処理推進機構(IPA)などに委託

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 サイバーセキュリティ基本法が改正されたのは、2015年の日本年金機構における情報流出事件がきっかけとされている。この事件では、不審なメールによる攻撃によって、125万件もの年金に関する個人情報が流出した。政府、厚労省にとっては2007年の消えた年金問題(個人の年金記録の不備、ずさんな管理が社会問題となった)以来の大きな不祥事で、その後の対応の悪さや発表の遅れから、政府や年金制度への不信感が再び広がってしまった。

 このときサイバーセキュリティ基本法は完全施行されていたが、NISCの原因究明調査対象は中央省庁までに限られており、日本年金機構のような独立行政法人は原因究明調査と監視の対象に含まれていなかった。そのためNISCは、日本年金機構に対して迅速な対応ができず、同機構の発表や対応に任せるしかなかったのだ。

画像
改正サイバーセキュリティ基本法の概要

【次ページ】人材育成の新資格「情報処理安全確保支援士」とは

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深刻化する病院サイバー攻撃に、「ランサムウェア交渉人」はアリかナシか?

 どうにも、この記事を書いたライターは映画やドラマ、漫画やアニメ由来のフィクションの知識で述べているようだ。バグバウンティ制度というものはあくまで開発ベンダやセキュリティベンダが任意で実施しているものであって、ベンダによってはバグバウンティ制度を取り入れていないところもある。危険性や重要度に応じて支払う報奨金というものは決まっている。そのため危険性や重要度の低いバグに対しては報奨金の金額は安くなる。支払われる報奨金というのは価格帯が既に定められているので交渉したからといって大きく変わるわけではない。交渉人が出てくる余地がないし、交渉人が仲介手数料なんて取ろうものならば原価割れしてしまうわけだ。そして、バグバウンティ制度を実施していない企業に交渉人が脆弱性情報の買取を持ちかけようものならば、恐喝罪で訴えられる可能性さえある。
「通常は、発見した脆弱性や攻撃手法を自分で利用する(犯罪を犯す)より、相手に高く買ってもらったほうがよいと考える。」と記事では書いてあるが、それも違う。仮に悪意を持ったハッカーが危険な脆弱性を発見した場合、自分でその脆弱性を利用した攻撃をして犯罪を犯すと警察に逮捕されるリスクがある。自分で犯罪さえ行わなければ警察に逮捕されるリスクはゼロだ。だから自分では犯罪は行わない。脆弱性情報を買い取ってくれる企業があればお金で売って利益を得る。ただそれだけなのだ。実際にサイバー犯罪に関わって犯罪収益を得ている反社会組織でも、脆弱性情報の多くは悪意を持ったハッカーではなくセキュリティ会社(=ホワイトハッカー)から買っている。サイバー攻撃自体は自身は行わずに買い取った脆弱性情報をもとに作成した攻撃ツールの販売やクラウド上に攻撃用プラットフォームを構築して時間貸ししてクラウドサービスとして収益を上げている。現代では脆弱性を発見する人、発見者から脆弱性情報を買って収集して販売する人、攻撃ツールを作る人、攻撃ツールを売る人、攻撃ツールを使って攻撃する人といったように各々関係のない人や組織が分業している。
 身代金支払いの是非に関して述べると、現行法では身代金の支払い自体を直接罰する法律はない。それならば身代金を払ってしまえばよい、とはならない。例えば、ランサムウェアならば様々な要素を考慮した上での経営判断が必要となる。以下の理由で正当化が出来るか、ということは最低限考える必要がある。
 1. 復旧コストより身代金の方が安価
 2. 大量の個人情報など機微性の高い情報漏えいのおそれ
 3. 重要インフラサービスの停止のおそれ
 4. 人の生命・身体が害されるおそれ
1.と2.に関しては紛れもなくその場しのぎでしかないのでまともな知性のある経営者であれば経営判断としての身代金払はしない。
3.に関しては微妙な問題なので、細かい分析をした上で社会への影響を考慮した上での経営判断となる。
4.に関しては仕方がない。払うしかない。
 ここで意識していただきたいことは、ランサムウェアの身代金の支払いに対する対応は経営者が判断すべき経営問題そのものである。現場のエンジニアや担当部署の責任者が判断するのではなく、その企業の経営方針として経営者が判断を下すべき経営問題ということだ。
 この記事の2ページ目でしきりに「交渉人」の必要性をしきりにアピールしているが、いい年した大人が妄想と現実を混同するのをいい加減にするべきだ。きっと、この記事を書いたライターの人は交渉人をモデルにした映画かドラマでも見た影響でも受けたのだろう。
 交渉人というのは本質的には犯人の脅迫行為を容認することだけではない。そもそも、犯人側にとって身代金事件の成功の鍵は交渉人が握っている。身代金支払いにより犯人側が犯罪収益を得るための功労者であることから共同正犯(刑法60条)が成立してしまう。つまり、刑法上は身代金を要求してきた犯人グループの一員とみなされてしまうわけだ。
 記事では「ランサムウェア交渉人を運用するためには、警察に犯人を特定、摘発できるくらいのサイバー捜査能力が必須となる。」と書いてあるが、犯人を特定、摘発できるのであれば犯人逮捕とともに暗号鍵も押収できるからから身代金を支払う必要がないではないか。この記事を書いたライターは自身の書いた言葉の意味を理解してこの記事を書いているのだろうか。犯罪を正当なビジネスにしてしまうこと自体が非現実的だし、あまりにも考えが幼稚で虚構と現実を取り違えたような記事を書いている暇があれば、もっと社会の勉強をし直した方が佳いだろう。もし、このライターがジャーナリストの肩書を今後も掲げるつもりならば、この記事のような妄言を書き連ねる前にはよく調査と考察を重ねて自身の考えを遂行する必要がある。今回は半田病院の事件を起点としているので、デジタルフォレンジック研究会の医療分科会が公開している資料の『医療機関向けランサムウェア対応検討ガイダンス』(https://digitalforensic.jp/wp-content/uploads/2021/11/medi-18-gl02_compressed.pdf)を一読して勉強して出直してくることをおすすめする。

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