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  • 2016/07/07 掲載

東京大学 松尾 豊 准教授が予言、AIが実現させるのは「理想の社会主義」

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野村総合研究所は2015年12月、「今後の10~20年で、日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能(AI)などで代替可能になる可能性がある」とのレポートを公開した。あらゆる分野で活用が期待されているAIは、どのような領域で人間に取って代わるようなインパクトを与えるのか。そしてAI普及の先には、どのような社会が実現されるのか。AIやディープラーニングを専門とする東京大学特任准教授 松尾 豊 氏とMIT Media Lab所長 伊藤 穰一 氏が議論した。

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト。明治学院大学国際学部卒業後、週刊誌記者などを経て、2001年よりIT専門出版社に入社。「Windows Server World」「Computerworld」編集部にてエンタープライズITに関する取材/執筆に携わる。2013年6月に独立し、ITジャーナリストとして始動。専門分野はセキュリティとビッグデータ。


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東京大学
特任准教授
松尾 豊 氏

AIがインパクトを与える産業領域

 Webマイニング・ディープラーニング・AIを専門とする松尾 豊 氏は、人工知能学会で倫理委員長を務める人物だ。一方、伊藤 穰一 氏は、デジタルガレージやインフォシークの創業に携わり、日本のインターネット普及に大きく貢献した人物だ。スタートアップ企業を資金面から支援する「エンジェル投資家」としても活躍している。

 AIがインパクトを与える産業領域として注目されているのが、金融と技術が融合した「FinTech」だ。中でも注目されているのが、仮想(暗号)通貨の一種であるビットコインである。

 三菱地所がオープンしたベンチャー企業向けビジネス支援施設「グローバルビジネスハブ東京」にて開催されたイベントに登壇した伊藤氏は、「ビットコインのコンセプトや概念は以前から存在した。現在注目されている理由は、コンピュータ性能とネットワーク・スピードが、ビットコインの実用化を可能にしたからだ」と説明する。

 ただし同氏は、「FinTechではビットコインが注目されているが、これらは(産業領域として捉えるのは)時期尚早だ。例えるなら、1980年代後半~1990年代前半のインターネットと同じ状況である」との見解を示す。

 例えば2016年6月、暗号通貨ファンドである「The DAO(ダオ)」は、ソース・コードの脆弱性を突かれ、数十億円ぶんの資金を流出させた。ダオは、パブリックブロックチェーンである「イーサリアム」上の自律分散型投資ファンドであり、「合理的な運用投資」を最大のウリにしていた。しかし今回の一件で、運用資金だけでなく、会社としての信用も失ってしまったのである。

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東京大学 松尾 豊 氏とMIT Media Lab所長 伊藤 穰一 氏がAIの未来を議論

 伊藤氏は、「Webのプログラミングは失敗したら書き換えればよいが、ビットコインのようにお金が関係するプログラムは失敗が許されない。今、(プログラムレベルで)ビットコインの仕組みを理解している人は日本では何十人程度だ。そのような状況においては(産業領域として)未熟で危なっかしい」と、そのブームを危惧した。

 とはいえ、中長期的にはビットコインの仕組みは産業として定着していくだろうというのが、同氏の見立てである。その時に必要不可欠なのがAIだ。また、会計システムや監査といった企業内の経理業務も、AIや機械学習によって大きく変貌するという。

 松尾氏も、「データがあり、処理ルールが決まっている会計処理は、プログラミングすればいくらでも自動化できる。以前から会計監査を人手で行っているのか不思議に思っていた。FinTechは『やっと到来したか』という印象だ」語る。

AI普及の先に、どのような社会を実現させたいか

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MIT Media Lab
所長
伊藤 穰一 氏

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 FinTechと同様にAIの活用領域として注目されているのが、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)だ。2016年は「VR元年」とも言われている。しかし、これらの技術は、数年前から存在している。

 松尾氏は、「すでに存在する技術が、いつ、どのタイミングで社会全体に普及するのか。その『しきい値』を見極めることは難しい。こうした見極めは、起業家や投資家のほうが長けている」と語る。

 伊藤氏も「(既存の技術がいつ普及するかを)具体的に予測するのは不可能だが、トレンドは読める。ただし、『何がきっかけで普及するのか』のタイミングを計るのは困難だ」と、指摘する。

「ビットコインの例でもわかるとおり、『技術的に可能になる』と『経済活動の中で利用されるようになる』はまったくの別物だ。AIも同様で、『課題を克服して(技術的に)前進する』と、『(社会全体に普及する意味での)ブレークスルーする』は意味が違う。後者はいつ起きるかわからない」(伊藤氏)

 松尾氏も「Google傘下のDeepMindが開発した『AlphaGO』が、囲碁界のトップに勝つのは3年後だと思っていたが、実際は1年足らずで性能を飛躍的に向上させて勝利した。こうした技術の進化スピードは(外れることはあっても)ある程度は予測できる。しかし、『AIが科学的な発見をする』や『AIに自我が芽生える』といったことがいつ起きるのかを予測するのは困難だ」との見解を示した。

 では、次に到来するAIのブレークスルーは何か。松尾氏は、「技術的なブレークスルーではなく、どのような分野においてAI技術が活用されるのかが、AIにとってのブレークスルーである」と指摘する。工場などの制御系システムや物作りの現場でAIがどのように活用されるのか。それによって産業構造がどのように変化し、新たな価値が創出されることが新たなブレークスルーであるというのだ。

 さらに松尾氏は、「AI普及の先に、どのような社会を実現したいのかは一人一人が考えなければいけない」としたうえで、「社会主義国家が成功する可能性がある」との見解を示す。

【次ページ】もしロボットとAIが労働を担ったとしたら

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