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- 2016/07/20 掲載
CEOは何をする人? あなたが「強い経営者」になるために
グローバル経営者に伝える日本の弱点(9)
あらためて確認する「命題」とは
野間氏:これまで紹介した多くの海外事例に共通することは、経営者が、危機感に基づき自ら解決すべき命題を定め、熟考し、解決の基本的な考え方であるモデルを創造し、これを組織に展開していることです。これは経営者にしかできない。経営者が自ら進めることが求められます。
これまで紹介した命題と解決のためのモデル例 | |||
企業の 業界 | 危機感と命題 | モデル (解決の基本的考え方) | 組織展開の例 (抜粋) |
トイレタリー (第1回) | 成長率鈍化の中で株主にコミットした売上成長を守る | 解決すれば確実に売上が上がる課題を明確化し、解決策を世界から探して解決する | ・経営幹部の推進責任者 ・70人を超える選任現場推進者 ・各種ルール、支援システム |
ハイテク (第1回) | 製品開発スピードで欧米や日本企業に勝つ | 売れる製品コンセプトを作り、自社技術があれば使い無いものは外から持ってくる | ・マーケッターの世界配置 ・ないものは獲得する開発計画 ・世界の技術を探す体制 |
多くの業界 (第2回) | これから輩出される新興国の優秀な人材の獲得競争で負けない | 高度で挑戦的な機能を新興国に置く | ・基礎的研究所の新興国設置 |
素材 (第2回) | 規模拡大の中で売上高研究開発費率を大幅に低減させる | 不確実な研究はしない | ・3年以内の事業部移管テーマ ・事業への興味を優先した人材 ・世界の技術を探す子会社 |
多くの業種 (第6回) | 環境変化の中でのビジョンを維持する | ビジョン達成のためのポートフォリオの組み換え | ・クライテリアの明確化 ・利益創出事業でも売却 |
インフラ (第7回) | 戦略に応じ、グローバルグループで文化風土を改革する | バリューによる文化風土変革 | ・社内外リーダー調査 ・バリュー定義と徹底 ・実践評価 |
ハイテク (第8回) | グローバルな戦略実現(リソース再配分)スピードを上げる | 目標設定機能の本社集約 | ・市場予測データーの本社集 ・現地法人の執行特化 ・収益予測のシステム化 |
――これまでの連載で何度も向き合ってきた「命題」ですが、ここでもう一度「命題とは何か」ご説明いただけないでしょうか。
野間氏:まず、事例からお話ししたいと思います。インドで成功している自動車メーカー スズキの現地法人、マルチスズキと取引を始める日本の部品メーカーの中には、日本品質とインドの要求品質の差に驚くところがあります。例えばインド側から、通常日本で塗装する部位の塗装が不要だと言われる。そこでよくよく考えてみると、自動車の性能から考えて、その部位を塗装してもしなくても、特に影響がないことが理解できるのです。
命題は、「至上命題」という誤用から始まって、今はいくつかの辞書で「解くべき問題」と説明されています。ビジネスの現場では、特に重要な問題。それが解ければ目的が達成できる根本的な問題といった意味で使われていると思います。この連載では、経営者が解くべき重要な問題という意味で使っています。
解くべき問題の中には、すでに与えられているものもあります。例えば現場でコストを下げる、品質を上げるといった問題は、既に存在しており、解決方法の方が重要です。一方で、先ほどお話ししたインドの要求品質の話から、新興国ではやみくもにコスト削減や品質向上を進めるのではなく、そもそもどの程度の品質が求められるかを明確化しなければ、必要以上の品質のままでコストを下げても限界があることが分かります。ここで解くべき問題、つまり命題は、「品質をどこに定めるか」です。ある新興国企業の経営者が、日本企業はコストを下げる方法は知っているが、スペックを下げる方法を知らないと言っていました。
【次ページ】野間氏から、日本の経営者へのメッセージ
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