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  • 2016/12/07 掲載

ドラマ「校閲ガール」ヒットの理由は、意識高い系でも社畜でもない「仕事観」の共感だ

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石原さとみが主人公を演じる、出版社の校閲部を舞台にしたテレビドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」が好調である。その話のあらすじは、大手出版社の職場において、明るく元気な女性主人公が、様々な困難に直面し、問題を解決していく。そしてその過程で、問題を抱える周囲の人も感化していくというものだ。一見、凡庸とも思えるこのドラマはなぜヒットしたのか。その理由は、意識高い系でも社畜でもない「ナナメウエ」な仕事観への共感にある。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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「入る会社を間違えた」と思っている新人は、校閲ガールを見て損はない

本当にやりたい仕事をやれている人は少ないという事実

 出版社の校閲部を舞台にしたテレビドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」。「まったく未経験で漢字すらろくに読めない河野が、入社早々にいきなり一流作家の仕事を任されるはずがない」「放送事故レベルに現実と乖離している」などとした批判も話題になったが、第6話にして平均視聴率13.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、これで初回の12.9%超えを達成するなど、引き続き好評を博している。

 たしかに、荒唐無稽な設定や展開には無理を感じる部分がある。話の筋としても、ありとあらゆるプロットのドラマが出尽くした感のある現代においては、いささかオーソドックスな物語である。悪く言えば凡庸とも言えるこの作品が好評である理由は、その奥に、時宜を得た味わい深いドラマが含まれているからであるように思われる。

 そのドラマとは「主人公が、ファッション誌の編集者を夢見て、実に7度もの新卒入社試験に挑戦したが、なぜか校閲部に採用、配属された」という趣向に内在している。これは「いま自分が与えられた仕事が、本当に自分がやりたいと思っていた仕事ではない」という、昨今の世で広く共有されている困難さのたとえである。

 本作における主人公の河野悦子こと「コーエツ」は、それを象徴する人物だ。彼女の夢であるファッション誌の編集の仕事と、現実である校閲部の仕事は、随分とかけ離れた正反対の仕事である。そして世間一般では前者は花形、後者は日の当たらない仕事、というイメージがある。

 現実の社会において、「いまの自分の仕事は、昔からやりたいと思っていた仕事だ」という人は、そういないのではないだろうか。コーエツとは、多くの人が抱える思いを体現しているキャラクターであり、彼女が投げかける問いは、働く人々への問題提起となっている。

なぜコーエツは「前向きさ」を保ち続けることが可能なのか

 本作においては、コーエツとは違い、文学作品の編集者にファッション誌の編集者、はたまた作家やモデル等、いわゆる「花形の仕事」のできるポジションを獲得した人物も登場する。

 主人公とは違い、さぞかし彼らは自己実現しているのだろうと思いきや、意外とそうでもない。これこそがこの作品のミソで、各人各様に、組織の壁や動機の不在に悩む日々を送っているのだ。

 11月9日放送の第6回は、本作前半のクライマックスに位置づけられる話だ。文学作品において傑作を生み出す情熱を燃やす編集者、貝塚八郎と、主人公コーエツの会話にこの作品のテーマが凝縮されている。

(コーエツ) いやー、大変みたいだね

(貝塚) 大変なんてもんじゃねぇよ。西園寺先生は「こどもノベル」の目玉だぞ、それが抜けちまったんだぞ

(コーエツ) まー、でもこのまま載せるよりは良かったんじゃない?

(貝塚) は?

(コーエツ) だってさ、西園寺先生、絶対納得してこの仕事引き受けてなかったもん。納得してない仕事が世に出るなんて、よくないじゃん

(貝塚) 何言いってんだお前・・・そもそもなあ、自分の仕事に心から納得してる人間なんてそうそういねえんだよ。お前だってそうだろう、校閲の仕事やりたくてやってるわけじゃねぇだろ、ほんとはファッション誌やりたいのに嫌々やってんじゃねぇのか

(コーエツ) いや・・・いやいやいや・・・それ、全然違うんですけど

(貝塚) はあ?

(コーエツ) 私、今日から、蛇の飼い方って本の校閲しはじめたんだけど、これってファッションエディターになったときに絶対役立つと思うわけ

(貝塚) なんで蛇の飼い方が役に立つんだよ

(コーエツ) はじめは私もそう思ったよ、けどね、アオダイショウとかコーンスネークとか、サウザンパイスネークとか、ミドリナメラとか、ジャングルカーペットパイソンとか、日本で飼育できる蛇だけでもこんだけいるわけよ

(貝塚) だからそれがなんなんだよ

(コーエツ) だからさ、エディターになったときにね、もし、ヘビ柄のバッグ用意しろって急に言われても、この校閲のおかげで、ヘビ柄のバリエーションいっぱい提案できるじゃん。あとね、この間までやってたゾンビ図鑑、あれも役立つよ・・・(中略)

(貝塚) なんだよ… なんなんだよお前は。なんでそこまで前向きなんだよ。 …昔のことに、いつまでもこだわってる俺とは、大違いだな

(『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』 第6回より)

 貝塚の直面している課題は、「純文学ジャンルで傑作を生み出し、ヒットさせる」という目標を持ちながらも、常に現実に対して妥協に甘んじており、本来やりたい仕事とは程遠い、という状況にある。もう一人の主要登場人物である森尾登代子もまた同様で、人も羨む憧れのファッション誌編集部に所属しているにも関わらず、「正直こんな仕事をやりたかったわけじゃない」と、シラけたことをこぼす日々だ。

【次ページ】「意識高い系」でも「社畜」でもない「ナナメウエ感」

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