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  • 2018/03/30 掲載

ZEBとは何か? 基礎からわかる省エネを超えたゼロエネ建物の可能性

市場規模は40倍に

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「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング:ゼブ)」とは、エネルギーの生成と消費の収支がプラスマイナスゼロになる建物のこと。その市場はゼネコンだけでなく建材、設備、情報システムなども関連するため幅広い。古くからある構想だが、2030年には2015年比で40倍に達するとの試算もある。また、「パリ協定」の目標達成を目指す日本政府は、ZEBをエネルギー政策として重視し、補助事業、認定制度、登録制度を設けて推進。国は2030年までに新築の建築物すべてをZEB化することを目指している。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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世界の主なエネルギー関連市場の市場規模と成長率

「創エネ、蓄エネ、省エネ」の三位一体

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 「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル:ゼブ)」とは、厳密に言えば太陽光発電などによる「創エネ」、燃料電池などによる「蓄エネ」、高断熱化や電力消費の削減のような「省エネ」の“三位一体”によって、外部とのエネルギー収支を均衡させたビルのこと。

 「エネルギー収支が正味(ネット)でプラスマイナスゼロになる」という意味で「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」と呼ばれることもある。

 国の指針では外部から電力やガスの供給を受けていても、最低条件の「ビルのエネルギー消費を、基準エネルギー消費量に比べて5割以上削減」をクリアできていれば、ZEBであると認められる。

 エネルギー消費を100%削減してエネルギー収支を均衡させたり、余ったエネルギーを売電などで外部に販売できるようになっているビルは純粋な「ZEB」で、75%以上削減させたビルを「ニアリー(Nearly)ZEB」、50%以上削減させたビルを「ZEBレディ(Ready)」と呼んで3段階に区別する。

 「ZEBレディ」以上はすべて「ZEB」で、国土交通省の「建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)」に基づいて、複数存在する第三者機関が3段階のZEBを認定する。

認証制度や補助金で官民挙げてZEBを推進

 ZEBが初めてクローズアップされたのは2008年7月の「G8洞爺湖サミット」だった(当時はロシアも参加国)。国際エネルギー機関(IEA)はG8各国に対し、ZEBの導入目標の設定、市場の拡大措置の実施を勧告した。

 それを受けて日本では翌2009年、「ZEBの実現と展開に関する研究会」が報告書をまとめたが、折あしく日本経済はリーマンショック後の景気後退まっただ中。2011年3月には東日本大震災に見舞われ、ZEBへの取り組みは停滞を余儀なくされた。

 それでも2014年4月に閣議決定された政府の「エネルギー基本計画」には「2020年度までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現することを目指す」という政策目標が盛り込まれた。

 その背景として東日本大震災の直後に首都圏を中心に「計画停電」が起き、BCP(事業継続計画)の一環としてエネルギーを自立・自給できる「建築物エネルギー・セキュリティ」が注目されたことが挙げられる。

 2015年12月には経済産業省がZEBの実現と普及に向けたロードマップを策定し、省エネ率100%の「ZEB」、75%以上の「ニアリーZEB」、50%以上の「ZEBレディ」という3段階が定義された。

 補助金の支給については、経済産業省資源エネルギー庁が一般社団法人環境共創イニシアチブを通じて2011年度から「住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業」を始めていたが、制度は毎年度拡充され、2014年度からは「ZEB実証事業」への補助も始まった。

 2017年度には環境共創イニシアチブが公募する「ZEBプランナー」の制度ができ、用途・地域によってはそれに登録されることが補助金支給の条件になっている。

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ちよだエコセンターの具体的な機能と特徴
(出典:千代田区報道発表資料)
 経済産業省資源エネルギー庁は2017年度に、ビルなど建築物のオーナーでZEBの先進的な取り組みを行っている事業者を「ZEBリーディングオーナー」に登録する制度もスタートさせた。賃貸ビルや商業施設を所有する不動産会社にとって、それは新築や改築の際にZEB認定を受けようというインセンティブ(誘因)になっている。

 民間の高層ビルと比べると、庁舎や学校のような地方自治体の施設は3~4階建ての低層が多く、延床面積が小さいので、屋上で太陽光発電を行えばZEBを実現しやすい。国もロードマップで「取り組みを率先して進める」と期待する。

 公共施設のZEB化を長期プロジェクトで推進する自治体もあり、東京都千代田区は2018年度に完成予定の「ちよだエコセンター(仮称)」がZEBで建てられる。ここは環境学習やリサイクルの拠点施設で、CO2排出ゼロを目指し区民に呼びかけている環境マネジメント「千代田エコシステム(CES)」の模範を示す施設だ。

 都心のオフィス街を抱える千代田区は「省エネルギー改修等助成制度」で民間ビルのZEB化への助成も行っている。

ZEB市場、2030年には世界36兆円、国内7,000億円に

 ZEB産業の市場規模は、ワールドワイドには10年で3倍、20年で4倍という大きな成長を遂げると予測されている。2010年の世界の市場規模は日本円換算で9兆円だったが、それが2020年には27兆円、2030年には36兆円まで拡大する見通しである(ミック経済研究所、野村総合研究所が作成し経済産業省に提出した資料による)。

 2020年時点で27兆円という市場規模は世界の主たるエネルギー関連市場では最大で、住宅分野のZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の26兆円とほぼ肩を並べる。それ以外の市場は風力発電が12.4兆円、リチウム蓄電池が8.3兆円、太陽光発電が7.1兆円、太陽熱発電が2.5兆円、燃料電池が2.4兆円という予測になっている。

 2010年実績と比較した成長率もZEBは300%(3倍)で、2倍台の太陽光発電、風力発電、ZEHよりも大きい(IEAなどの各種資料から帝国データバンクが作成し経済産業省に提出した資料による)。ZEBは市場規模が非常に大きい上に、高い成長率が予想されている。

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世界のZEB産業の市場規模予測

【次ページ】建設業界は「ZEB改築」の提案営業に熱心

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