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  • 2022/05/31 掲載

建設DXとは何か、なぜ全然進まない? 根深すぎる建設業“4つの課題”を解決

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建設業は社会資本整備の担い手であり、災害時には地域の安全を守る存在でもあります。しかし、建設業の就業者は減少と高齢化が進んでいます。このような問題を含めた建設業の課題解決策として、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)に期待が集まっています。そこで、ここでは建設DXとは何かについて、建設業の課題や建設DXの事例などを交えて解説します。

執筆:中小企業診断士/構造設計一級建築士 阿部 守

執筆:中小企業診断士/構造設計一級建築士 阿部 守

1962年2月12日生まれ、福岡県出身。昭和61年4月に旭硝子入社、研究開発や商品開発・設計、施工指導、技術営業、ルート営業、システム構築等を経験した後にコンサルタントとして独立。製造業・建設会社・住宅会社を中心に売上拡大・コストダウン・商品開発・設計などのコンサルティングを行う。その他に、事業調査、原稿執筆、構造設計研修、住宅検査なども行っている。MABコンサルティング代表。東京国際大学非常勤講師(中小企業論・生産管理論)。著書は「改革・改善のための戦略デザイン 建設業DX」、「土木業界の動向とカラクリがよ~くわかる本(第3版)」「建設業界の動向とカラクリがよ~くわかる本(第4版)」(いずれも秀和システム)など多数。

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建設DXとは何か、活用事例や使われるツール・技術、建設業の特徴・課題などをまとめて解説する
(Photo/Getty Images)

建設DXとは

 建設DXとは、デジタル技術を使って、これまで行われていた建設業の仕事のやり方やビジネスそのものを変革することです。現在、大手建設企業から建設DXの取り組みが始まっており、中小建設企業でもDXで成果を出している事例もあります。

 国土交通白書によると、建設業における2020年の平均就業者数は492万人と、ピーク時(1997年平均)から約28%も減少しているという調査結果が出ており、多くの人で成り立つ建設業は担い手不足が大きな課題となっています。こうした課題に対応しようと、建設DXによる生産性向上が進められており、今、建設業界はDXで大きく変わろうとしています。

 また、ICTの活用などであらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指す「i-Construction」の推進や、老朽化問題が深刻化している社会インフラの適切な維持管理と長寿命化に向けてセンサーやITなどを活用した「インフラモニタリング」の活用拡大、コンピュータ上で作成した建物の3次元モデルを活用する「BIM/CIM」の導入促進など、国による積極的な取り組みも建設DXを後押ししています。

なぜ建設DXが進まない?

 建設業は屋外での作業が基本で、発注者の要望に応じて毎回異なる構造物を建設する受注産業です。現場と事務所が離れているため、工場内で作業する製造業と比べて、機械化による効率化を追求しにくいという特徴があります。

 また、プロジェクトごとに多くの関係者が関わり、現場の業務は下請けや孫請けである中小企業の作業者が担っています。元請けだけが建設DXを進めても下請けが対応できなければ、プロジェクト全体への効果は限られたものになります。

 さらに、建設現場では、設計図面を読み、必要部材を組み上げ、部材の加工をその場で行うなど、多様な技能が求められます。そして、そのノウハウは作業者各人の頭の中にあります。木造建築には木造建築の、鉄筋工事には鉄筋工事のノウハウがあり、企業によっても違いがあります。

 このような建設業の特徴が生産性を上げにくい要因でもあります。

課題(1):低い労働生産性

 建設業の労働生産性は、2012年を底に上昇傾向にありますが、ほかの産業に比べて極めて低い状態が続いています。製造業に対しては、約半分の労働生産性で推移しています。現場ごとに環境が異なるため業務や作業の標準化が難しいほか、手作業が多く存在していることも要因です。

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図1:労働生産性は他の産業と比べて低い状態が続いている
(日本建設業連合会の「建設業ハンドブック2021」より編集部作成)

 さらに、建設生産プロセスが細分化されていて、それらのプロセスに多くの関係者が関わっているため、情報伝達や更新に手間がかかるなどの問題も指摘されています。

課題(2):高齢化と人材不足

 建設業は先述の通り、就業者数がピーク時の28%と深刻な人手不足に陥っています。この上、担い手の中心である高齢者が今後大量に離職するため、さらなる労働力不足に陥ることが懸念されています。2020年の建設業就業者は、全体の36%が55歳以上であるのに対し、29歳以下は12%となっています。ほかの産業と比べて高齢化が顕著です。

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図2:年齢別の就業者構成比では全体の36%が55歳以上に対して、29歳以下は12%と、極めて少ない
(日本建設業連合会の「建設業ハンドブック2021」より編集部作成)

 これが技能承継の進まない要因にもなっており、事業継続が危ぶまれる企業も少なくありません。

 そして、建設業の後継者不足も課題となっています。建設業が今後も地域社会を支える役割を果たすためには、担い手の確保が急務です。そのためには生産性を上げて魅力ある業界にすることが必要です。

課題(3):働き方改革

 建設現場では土曜日や祝日にも工事を行うことが多く、時間外労働時間が長いため、他産業に比べて労働時間は長くなっています。2020年の建設業の年間労働時間は2023時間と、調査対象の産業全体平均に対して20%も多くなっています。

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図3:建設業の年間労働時間は全産業平均よりも20%多い
(日本建設業連合会の「建設業ハンドブック2021」より編集部作成)

 これに対して、2024年4月からは建設業も時間外労働時間の罰則付き上限規制が適用されるため、時間外労働への対策が求められています。人材不足の中で労働時間も短縮させていかなければなりません。

課題(4):インフラの老朽化

  建設市場では、高度成長期に建設された多くのインフラが更新時期を迎え、今後老朽化による不具合が懸念されています。このため、リニューアル需要が確実に拡大します。

 たとえば、2023年に建設後50年以上経過するインフラの割合は道路橋39%、トンネル27%、河川管理施設(水門等)42%ですが、10年後の2033年にはそれぞれ63%、42%、62%に達します。インフラの老朽化対策は待ったなしの状況です。

国交省が掲げる「i-Construction」とは

 こうした建設業界の課題を解決する方法として期待されているのが、建設DXです。

 国土交通省では、2016年を「生産性革命元年」と位置づけ、「i-Construction」の推進によって建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指しています。「i-Construction」の柱は、次の3点です。

  • ICT土工:ドローンを活用した3次元測量やICT建機による施工などを指す。
  • コンクリート工の標準化:工場で生産したプレキャスト製品の活用を指す。
  • 施工時期の平準化:年度末に公共工事が集中することの解消を指す。

 このi-Constructionをきっかけに建設業のデジタル化を進め、その過程での技術開発が建設DXにつながっています。しかし、これまでは建設プロセスごとの効率化という部分最適にとどまっていました。今、建設DXで業務プロセス全体を変革し、建設生産プロセス全体を最適化する段階が訪れています。

 また、国交省は、老朽化した社会インフラを適切かつ効率的に維持管理することによる長寿命化を図っています。このため、インフラモニタリングの活用が推進されています。

 インフラモニタリングは、IoTやAI、ビッグデータ、ドローン、ロボット技術などを活用することで、インフラの状態を効率的に把握することができます。国民の暮らしや国の経済活動において必要不可欠な技術となっています。

【次ページ】「中小企業」の建設DX事例

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