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  • 2018/04/17 掲載

パナソニックも進出、優遇税制延長でも「東京一極集中」は変わらない

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政府は2018年度税制改正で、東京から地方へ本社機能を移した企業を税制面で優遇する地方拠点強化税制を2019年度まで2年間延長するとともに、これまで対象外だった京阪神や名古屋市への移転も対象に加えた。地方創生の目玉事業として2015年度に打ち出した制度にもかかわらず、地方に本社機能を移す企業が増えていないばかりか、首都圏への本社転入超過が続いているからだ。しかし、近畿大経営学部の松本誠一准教授(経営学)は「税制面の優遇措置だけで大きな効果を上げるのは難しい」とみている。政府の思惑は実を結ぶのだろうか。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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大阪府門真市のパナソニック本社。社内分社のコネクティッドソリューションズ社の東京移転は、関西経済界に波紋を広げた
(写真:筆者撮影)

パナソニックの社内分社が本社を東京へ

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 「いい方は悪いが、『門真』発想ではもう限界。すぐに東京へ行くことを決めた」。パナソニックが2017年5月、東京都内で開いた事業方針説明会。社内分社・コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長は、10月から本社機能を東京都中央区へ移すことを刺激的な言葉で明らかにした。

 パナソニックは戦前の1933年、現在の大阪市福島区から大阪府門真市へ移転した。戦後の高度経済成長とともに、売り上げを伸ばした結果、門真市はパナソニックの企業城下町として発展する。それに伴い、パナソニックも関西を代表する巨大企業に成長した。

 パナソニック自体の本社は引き続き、門真市に残る。4つの社内分社のうち、CNS社以外の3社も関西にとどまるが、それでも関西の代名詞ともいえる企業の東京移転に多くの関西経済人が戸惑いを隠せなかった。

 CNS社はIoT技術を活用した企業向け製品などを手がけている。パナソニックが成長分野として力を入れる企業間取引を開拓するため、2017年4月に発足した。

 東京には当初から営業部員を置いていたが、顧客の90%以上が東京にいる。企業の意思決定部門になると、95%以上が東京だ。このため、接点を増やすには顧客のいる東京へ本社を移す必要があると考えた。大阪にいたのでは東京の生の情報が入りにくいことも、移転を決めるきっかけになったという。

 10月からは関西から100人規模の社員が東京へ移り、東京本社を300人体制にした。CNS社は「1日に7~8件の商談ができ、来店客が3倍に増えた。移転効果が業績に寄与し始めているように感じる」と手ごたえを語る。

 このほか、大阪市に本社を置く繊維専門商社のヤギは1月、翻訳サービスの翻訳センターは2月から東京本社を設置、2本社制に移行した。福岡市に本社を置く不動産のシノケングループも11月、東京本社との2本社制にする予定。地方の企業はまるで草木がなびくように、東京へ目を向けている。

民間企業の本社、首都圏は7年連続の転入超過

 東京は人口だけでなく、企業の一極集中が続いている。上場企業約3,600社のうち、都内に本社を置くのがざっと半数。人、モノ、金のすべてが東京に集中していることになる。

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 そこで、政府は2015年度、東京一極集中を緩和し、地方創生を図る目玉事業の1つとして地方拠点強化税制を創設した。2017年度までの3年間、東京23区から本社機能を地方へ移した企業に対し、税制面で優遇措置を講じる制度だ。

 地方自治体も独自の優遇制度を上乗せし、長野県や富山県など法人事業税を90%以上軽減するところが出てきた。しかし、地方へ移転する企業は思うように増えていない。経済産業省のまとめでは、2018年1月末までの移転はわずか19件にとどまっている。

 このため、制度自体を2年間延長するとともに、新たに京阪神と名古屋市を対象区域に加えた。これで首都圏を除き、ほぼ全国が税制優遇の対象となったわけだ。経産省地域企業高度化推進課は「制度拡充で地方移転に踏み切る企業が増えてほしい」と期待する。

 しかし、民間信用調査機関の帝国データバンクが東京都と神奈川、埼玉、千葉3県での民間企業本社の転出入状況を調べたところ、2017年も転入超過が続いていることが分かった。転入超過は2011年以来、7年連続になる。

 それによると、1都3県に転入した企業は前年より21社少ない289社に上った。これに対し、転出した企業は前年より62社多い279社。転入超過数は10社で、前年の93社に比べてかなり小さくなったが、東京一極集中が続いていることに変わりない。

東京など1都3県に本社を転入転出した企業数の推移
転入転出転入-転出
2000234255▲21
2001224316▲92
2002256311▲55
200331128130
20042822739
200529526827
200632626957
200729420985
200828125427
2009294295▲1
2010259279▲20
201127626313
201231128724
201327925524
201429726829
2015335231104
201631021793
201728927910
(出典:帝国データバンク「1都3県本社移転企業調査(2017年)」)
(注)▲はマイナス

 転出先で最も多いのは40社を数えた茨城県。つくば市など茨城県南部は事実上、首都圏の一角といえ、多くの企業が営業や情報収集で有利な首都圏に本社を置こうと考えていることがうかがえる。

画像
1都3県への転入元と転出先(2017年)
(出典:帝国データバンク「1都3県本社移転企業調査(2017年)」)

 帝国データバンク産業調査部は「潮目が変化しつつある傾向も感じられるが、今のところ東京の吸引力が地方移転の動きに勝っている。移転を検討しても、営業や情報面のリスクを考えると踏み切れないところもあるのではないか」と分析する。

【次ページ】地方拠点強化税制がなぜうまく機能しないのか

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