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  • 2018/06/28 掲載

京大 岩下直行氏が語るFinTech秘話、「金融新時代の担い手の条件」とは

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初代日銀FinTechセンター長を務め、現在は京都大学公共政策大学院でFinTechの研究と後進の育成に従事する岩下 直行氏。学生時代からITに親しみ、日銀時代はIT化に率先して取り組んだ元祖FinTechとも言うべき同氏に、日本におけるFinTechの台頭をどのような思いで見ていたのか話を聞いた。

みずほ証券 小川久範(構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司)

みずほ証券 小川久範(構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司)

日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に調査を行ってきた。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。

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京都大学公共政策大学院 教授 岩下 直行氏
初代日銀FinTechセンター長を務め、現在は後進の育成に注力している


「元祖FinTech」が生まれたワケ

──まず、岩下先生ご自身について、金融の世界に入ったきっかけや“考え”をお聞きかせください。

岩下氏:私が日本銀行に入ったのは、今を去ること34年前の1984年です。バブル景気のちょっと前でその頃は経済学部でそこそこ成績がよかったら金融に行く人が多かったのです。国際的で、国を支える公共的なイメージがある業種でした。

 公務員になろうとは思わず、アカデミックな道に進むか、それとも銀行に入るかという選択でした。日銀は、業務を通して勉強をさせてくれるというのが魅力でした。経済学や当時から大好きだったITの研究を続けられる立場であるということで、金融機関、とりわけ中央銀行を選んだというのが経緯です。動機は不純なのですが(笑)。

──岩下先生は金融ITに非常に詳しく、日銀のFinTechセンター長も務められたわけですが、学生の頃からITにご関心が高かったのですね。

岩下氏:大学附属の高校からそのまま経済学部に進んだのですが、受験がないので、時間がありました。当時は個人向けのコンピューターが出始めた頃で、コンピューターを割と早い時期から導入したのです。ITは次世代のイノベーションの中心になると思っていたので。

 日銀入行後は、(日銀には)コンピューターを使える人はあまりいなかった。たとえば「ワープロを使ってレポートを書くこと」は時代が進むにつれて当たり前になるのですが、事実上(日銀で)始めたのは私です。各支店で印刷物を作っていたのですが、当時は邦文タイプライターを使うのが普通だったのです。

 そこで自分のPCを持っていって作ってみたり、会社のPCでやってみたり。せっかくPCで文書を作っても「岩下がやらない月はPCを使ったレポートはできない」ことが分かると、では提出形式を元に戻せと。せっかくワープロで書いたモノを、邦文タイプライターで打ち直したりしていた時代でした(笑)。

日本銀行で「暗号屋」に

──日銀ではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

岩下氏:エコノミストとして入ったはずなのですが、いつの間にか担っていたのは「暗号屋」でした。当時の日銀は、おそらく日本で初めて”暗号”を情報システムに入れたのです。それまでは、銀行を含め、日本企業の情報システムには、暗号化という概念がありませんでした。

 電電公社(現NTT)が国営だったこともあり、国がやっている通信事業が盗聴されるわけがないという発想だったのではないでしょうか。でも、日本銀行は中央銀行で、海外の中央銀行はどこも暗号を入れていました。中央銀行同士の国際会議に出たときに、「ウチだけ暗号化していません」というのはおかしいので、導入することになったのが経緯です。

 当時世界的に使われており、長らく暗号の標準規格として利用されていた「DES」を使い始めたのですが、日銀が暗号を導入した1988年のわずか2~3年後には「もう弱くなってしまった」という論文が出始めました。ところがDES暗号が弱くなったと言われても、誰も(論文を)読んだことないから、それが本当かどうかが分からない。

 そこで、暗号のことを理解できるチームを作れと。日銀金融研究所では「暗号のできる人」がおらず、理解できる可能性が高そうな私が暗号担当に指名されたのが1994年です。金融研究所に行けと言われて、その後15年間そこにいました。

──15年もですか……。

岩下氏:それまで2年に1回、10年で5部署を経験しているから、それが日銀の“普通のキャリア”なのですが、15年間、急に「暗号研究をやりなさい」でそこに留め置かれてしまった。良く言えば「余人をもって替えがたい」ということなのですが、結局ほかにやり手がおらず、後継者もいないというのが現実でした。

 銀行業や、官僚組織はいわゆるゼネラリスト、マネジャーのような人材を育てるという発想からどうしても抜け出せていない。だけど、やっぱり現場で必要とされるのはスペシャリストです。

 「スペシャリストは買ってくればいい」という言説もありますが、何年も修行をして、ようやく何かモノが言えるようなる世界だから「特別」なのです。ちょっと本を読んだだけで専門家にはなれません。

 今銀行の中で、FinTech担当と名乗っている人は、大体みんな「銀行で一番変わり者でした」みたいな人が多い。

 FinTechの専門家として尖ったものを持ちながら、かつ普通のゼネラリストとしての競争もして、それなりに出世してきた人というのは貴重です。

 そういう人にこそFinTechを担わせることが必要だと思います。もっと変人を育てれば、銀行もいろいろな取り組みができるのにと思います。

【次ページ】FinTechで銀行に足りなかった動きとは

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