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- 2018/08/14 掲載
尾原和啓氏の2030年予測:スキルゼロ価値時代の到来、僕らに必要なのは「愛と寛容」
連載:2030年への挑戦
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本当に少子高齢化は問題なのか?
そもそも物事を“問題"と捉えるのは、自身の心だったり、大衆の価値観の趨勢で決まるケースが多いと私は考えています。そこで「問題を更新する」「価値観をアップデートする」という視点が大切になってきます。ヨーロッパでは「Ethics(エシックス:倫理)を更新する」といわれています。
さらに問題というものは「Resolution(解決)」よりも「Dissolution(解消)」の方が実は有効だったりします。ある問題に対して「どうすれば克服できるのか?」ということでなく、「問題自体を消してしまう」あるいは「問題は残り続けても、問題が見えなくなる」という「Dissolution」を提供する方が、ずっと有効なケースが多いのです。
こういった視点で改めて冒頭の少子高齢化について考えると、実は必ずしも悪いことではないと思うのです。
今、高齢化の問題は、健康を害した働けない人々が増える、あるいは体が不自由になって生きがいを謳歌できない人が増えるから、社会的な“負債”になるという論点で語られています。
しかし統計値を見ると、寿命よりも健康寿命の方が圧倒的に延びています。健康寿命が延びれば、別に高齢になったとしても貢献して所得や感謝を得られる「生きがい寿命」も伸びてくるでしょう。記憶力が衰えても、単純な物事の処理や反復作業は、これからロボットや人工知能(AI)が代替してくれます。
これからはExpertiseで生きる時代
また身体が衰えたとしても「おばあちゃんの知恵袋」のような圧倒的な経験値からの示唆力は、高齢でも変わりません。そこで生きていける社会をつくれると、健康寿命よりも働きがい寿命の方で延命できると思います。たとえば、寝たきりのおばあちゃんがリモートとVR技術を使って遠隔で京都の観光案内をしたり、石油会社をリタイアしたおじいちゃんがアラブの油田開発に日本から助言したりするようなことができるかもしれません。「高齢者を社会的“負債”ではなく“財産”にできるようにイノベーションを集めていくことが、世界に対して日本が本当に貢献できることだ」というように、問題を再定義していくことが重要なのです。
このように知識でなく知恵、つまり「Expertise(専門的知識・技術)」で戦う社会になり、これにより働く上で求められることも変わってくるのです。肉体労働は60代で終わっても、それ以上に僕らの働く環境が変容していく。
現在、僕がバリ島とシンガポールを往来しながら働けるのも、まさに「Expertise」を提供する仕事をしているからです。これまで僕はiモードや、Androidの国内導入、Google Nowの立ち上げなど、多くの新規事業に携わってきました。最新テクノロジーとオールドな課題をプラットフォームで解決したいと考えている人々に対し、自身のレアな経験からExpertiseを提供することで、世界中からお声をかけていただけるようになりました。
いずれスキルというものはコモディティ化していく運命にあります。習って簡単に覚えられる技能ならば、AIに置き換えやすいし、今は「MOOCs」(Massive Open Online Courses)のように学習の無料化も進んでいるので、スキルや知識も徐々にゼロ価値になっていきます。そうなると言語化できないけれど、自分にしか識別できないExpertiseが重要になってくるのです。多くのExpertiseを持っていれば、何か新しいことが起きた瞬間に、データが無くても自分で正確な判断を下せるようになります。
「確率60%のことを決めるのは経営者ではない。確率20%の曖昧な状況で、決断ができるのが本当の経営者だ」とは、ソフトバンクの孫正義社長の言葉ですが、まさに彼はExpertiseの権化です。他人から見ると確率が20%に見えても、自分の経験の中から、いかに80%に見えるようにしていくか、それが経営者としてのセンスだと思います。
今、日本が経済的に衰退しているのは、従来と将来の勝ちパターンがズレてきたことが原因でしょう。以前まで無かったものを最も効率よく埋める、いち早く高品質で提供するといった当たり前の問題解決がルールでした。しかし、もう新興国や貧困国を除き、その問題は解決しています。そうなると、まだ見えない新しい意味や価値、Expertiseを提案していく必要があります。そういう意味で日本企業も、考え方をリセットしていかないと、もはや生き残れない時代になるでしょう。
【次ページ】SDGsの開発目標「誰一人取り残さない」とは何か、再考してみよう
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