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  • 2018/07/24 掲載

村上憲郎氏の2030年予測:進化する農業、経済を回す小売、そして消える自動車と“労働”

連載:2030年への挑戦

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少し前までは声高に叫ばれていた符牒、「2020年」もここ最近は「After2020年」に成り代わりつつある。15年以上に渡ってビジネスパーソンの問題解決のために情報を発信し続けてきた「ビジネス+IT」は今回、「2030年への挑戦」と題し、SDGsの目標でもある2030年の未来ビジョンについて、有識者に意見を求めた。本稿では元グーグル日本法人名誉会長 村上憲郎氏が見た「2030年」を掲載する。技術、経営、そして何より変化し続ける国際環境を知り抜いた同氏には、何が見えているのか。

執筆:福田さや香、編集:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

執筆:福田さや香、編集:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

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村上憲郎 氏
日立電子のエンジニアとしてキャリアをスタートし、DEC日本法人のマーケティング取締役、ノーテルネットワークス日本法人CEO、ドーセント日本法人代表などを歴任し、2003年4月よりグーグル米国本社副社長兼 グーグル日本法人代表取締役社長に就任。2009年に日本法人の名誉会長になり、2011年退任。エナリスの代表取締役を経て、現在は複数の企業のアドバイザーなどを務める。

化石燃料や原子力発電を完全に諦めるのは、まだ早い

──2030年はSDGsの目標の年でもあります。SDGsに掲げられた17の目標の中で、特にどのテーマに関心を寄せていますか?

村上憲郎氏(以下、村上氏):まず「エネルギー」です。グーグルでは私が退く(2011年)直前から「ESG」がホットワードになっていて、「E」については再生可能エネルギーの積極利用という形で取り組んでいました。

ESG
Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の三つの言葉の頭文字を取ったもののこと。「持続可能な社会」に向けて、企業の業績だけでなく環境や人権問題などへの取り組みを考慮する指標。


 特に私自身の場合、エネルギー問題への意識は東日本大震災がきっかけで高まりました。震災に伴う原発事故を受けて、日立電子時代に福島第二原発や浜岡原発の建設の一部に携わっていた者として、自分が行動を起こすべきだと感じたのです。

 後にエナリスに参画し、ネガワット取引市場(節電した電力を売買できる市場。2017年4月より取引を開始)の実現に取り組むようになったのも、この問題意識からです。

ネガワット取引
ネガワット取引とは、電力会社からの要請を受けて節電を行った需要家(企業・家庭)が、その対価として報酬を受けられる仕組み。日本では2017年4月より本格的に開始された。


──ネガワット取引以外に、持続可能なエネルギー供給の形としてどのような可能性があるのでしょうか。
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村上氏:ひとつは再生可能エネルギー。ほかにも、クリーンなエネルギーについてはさまざまな研究が行われています。化石燃料を使ってもカーボンを100%回収する仕組みや天然ガスの利用など……。実際に欧米各国ではすでに、カーボンをすべて回収する火力発電所がテストプラントとして建てられ始めています。

 ただし一方で、原子力発電を完全に諦めてしまう必要はないと考えます。核分裂炉は福島の原発事故で信用を失いましたが、次の策として核融合炉をいかに安全な形で実現するか、追求する価値はあるでしょう。

 事実、ビル・ゲイツ氏は核分裂炉を使用した場合にも、水ではなく金属冷却でじわじわと核分裂させることで安全に原子力発電ができるのではないかという取り組みをしています。

 人類は再生可能エネルギーを活用すると同時に、従来のエネルギー源を含めてあらゆるエネルギー源を安全に利用するための取り組みを諦めることなく続けていくべきだと思います。

──「エネルギー」以外の課題についてはどうでしょうか。

村上氏:世界の人口が今後90億人ほどまで増加すると予測される中、「食糧問題」には関心があります。今後増える20億人が食べられるように生産量を上げるにはどうするか。

 解決のために、農業や畜産、漁業などにIoTやAIといったICTを取り入れることが必要となります。

 これからは「スマート農業」「スマート畜産」「スマート漁業」となっていくでしょう。もちろん土壌や水、天候などを完全にコントロールすることはできません。しかし、IoTとAIの活用によってスマートに管理することはできるようになると思います。

デマンドチェーンの時代が到来、prosumerが経済を支える

──第四次産業革命のただ中において、注目している企業はありますか?

村上氏:トヨタに代表される自動車会社各社、そしてアマゾンにグーグルですね。

 アマゾン、グーグルは今、小売との連携を強めています。グーグルはウォルマートと提携し、アマゾンはホールフーズを買収しました。これは、「デマンドチェーンの時代」に備えたものだと私は見ています。

 第四次産業革命では、消費者をいかにサポートするかに焦点が当たり、サプライチェーンをデマンドチェーンとして見直すべき時代になるのです。通常の産業革命では、設計→製造→物流→小売の順で発展しますが、第四次産業革命はその逆を行き、まず“小売”から発展します。トヨタのような自動車会社各社は、このデマンドチェーンの“物流”を担います。

 デマンドチェーンの時代では、コンシューマーの意向が上流工程に次々に取り入れられるでしょう。米未来学者のアルビン・トフラーは、『第三の波』(1980年刊)の中で"prosumer"(生産する消費者)という言葉を用いていましたね。

 サプライチェーン全盛の第三次産業革命では一品種多量生産によってコストを下げてきました。デマンドチェーン=第四次産業革命ではオーダーメイドの品が安価でできるようになるでしょう。

 ただ一方で、GDPRが成長企業の足を引っ張ることになるのではないかと懸念しています。人類の発展のための手足を縛ることになるかもしれません。もちろん個人情報保護を含む安全性と成長のバランスは求められますが、資本主義社会である以上、成長は絶対的に必要です。

──2030年に向けて、未来を先導していく国はどこでしょうか。

村上氏:アメリカが先陣を切り、それを中国がキャッチアップしていくでしょう。ですが、そもそもSDGsで言っていることは、「United Nationsという枠組みで、この惑星をいかにして持続的に維持・発展させて次世代に渡すのか」ということ。勝ち負けではありません。人類全体が豊かになる未来を、作っていくのです。

【次ページ】2030年――自動車総台数は半減し、労働の“終わり”が見え始める

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