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- 2018/09/11 掲載
及川卓也 氏の2030年予測:エンジニア争奪戦がますます過熱する根因
連載:2030年への挑戦
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「ソフトウェア力」の強化に不可欠なITエンジニアリングの内製化
及川氏:これまでソフトウェアは、ハードウェアと同じ考え方で作られてきました。設計図があり、それを工場で作って100個納品したらそれで終わり、です。
「ソフトウェア力」がそのまま企業の競争力に結びついているのに、ソフトウェアを開発する企業も、開発を発注する企業も、この考え方から抜け出せていません。 この考え方が根底にあって、IT業界のいびつなピラミッド構造も作られてきたのだと思います。
しかし、ソフトウェアは生き物です。発注して、それが納品されたら終わりではなくて、納品された瞬間から、新たな開発が始まるのです。これが、「リーン」とか「アジャイル」と言われている本質です。
できあがった時点では、それが本当に使えるモノになっているかどうかはわかりません。そこからユーザーのフィードバックを受けて、使いづらい点は直し、必要な機能を追加していくのです。この絶え間ない改善をスピーディーに行うには、ソフトウェア開発の内製化は絶対に必要です。
――ソフトウェアを作った後もエンジニアが必要だということですね。しかし、そうだとしても、納品したあとは、エンジニアの数は減らしてもよいのではないでしょうか。
及川氏:たとえばエンジニアが10人いて、その人たちが製品を納品したら、その後は5人でいいので、5人は余るということですね。しかし、ビジネスのドライバーが「テクノロジーそのもの」になっている現在、伸びる企業、成長する企業には、次から次に事業が生まれるはずです。そして、そこにはエンジニアが絶対に必要です。ですから、5人はその役を担ってもらえばいいのです。
たとえばアマゾン ドット コムのクラウドサービスである「AWS」を見れば分かるように、新しいサービスが次から次に追加されます。それは、新しいことをやるエンジニアが社内にいるからに他なりません。アマゾンはそれでも足りないので、さらにエンジニアを採用しています。こう考えたら「エンジニアを雇っても余剰人員になるのでは……」という考えは、あり得ないのです。
なぜ大手企業はITを内製化できないのか
――ただし、現実問題として、日本の大手企業がこれまでの方針を改めて、いきなりITエンジニアリングの内製化に舵を切ることは、非常に難しいのではないでしょうか。及川氏:内製化は進むはずですし、そもそも私の持論は「内製化しなければならない」です。ただし、これまで外注をしていた企業が、一気に内製化するのが難しいことも理解できます。何を内製化して何を外注するのか。パートナーとの関係をどうするのか。組織体制も含めて、検討することは多いでしょう。
実は、これが最も大変なのです。内製化しようとしても、そもそも誰を採用したらよいのか分からないし、採用してもどう指導すればよいのか、どう育成すればいいのかも分かっていません。極端にいえば、給与システムから何から、すべてを作りかえなければならないのです。
――大変だということで、ITエンジニアリングの内製化ができなかったとしたら、その会社は……
及川氏:非常に厳しい状況に追い込まれるでしょう。ただし、今の日本企業には、雇用を守るために仕事を作っている側面があるのも事実です。しかも、その仕事には国際競争力がありません。その結果、国の力が衰退する流れが起きています。
――SoRのシステムに携わるエンジニア、あるいはコードを書くことから離れたエンジニアが多いことも問題ではないでしょうか。
及川氏:生涯教育の一形態である「リカレント教育」が注目されているように、エンジニアは勉強すればいいのです。多くの技術は進化していますが、根本の考え方は同じであることは多いのです。
たとえば、アルゴリズムやデータ構造などの考え方は、C言語の時代も現在のオブジェクト指向の時代も多くは共通します。もちろん、新しい概念も生まれ、学ぶべきことはありますが、「学べばできること」は多いはずです。
――近年は、データサイエンティストのような職種も注目されていますね。
及川氏:データサイエンティストは、プログラミングというよりは数学に近いですね。数学の素養があり、統計を得意とする方であれば、データサイエンティストとしてやっていける人も多いはずです。
そういう方々に必要な配置転換と必要な教育を提供すればよいのですが、その方々の現状で持っているスキルに合わせて仕事を作ろうとしているのが、今の日本企業ではないでしょうか。それは、企業も従業員もお互いにとってもったいないことだと思います。
米国でも事情は同じですが、40~50代でバリバリ活躍しているエンジニアはたくさんいます。彼らの若い頃にはWebなどありませんでした。しかし、それをどこかで学んで、現役のエンジニアとして活躍している。日本の優秀なエンジニアに同じことができないとは思えません。
これからのエンジニアに求められる素養、エンジニアを採る側に求められること
――これから技術習得を目指している人も含めて、これからのエンジニアに求められる素養について、アドバイスをください。及川氏:新しい技術を習得するには、手を動かすことが絶対に必要です。若い人はもちろん、現在、コードを書くことが減ったエンジニアでもそれは同じです。最近は技術が進歩して、開発環境を整えるのはとても簡単になっています。
たとえば、「Jupyter Notebook」というアプリを使えば、ブラウザの中だけでPythonを使って機械学習を勉強できます。技術が進化して、面倒なことは減っていますから、すぐに手を動かして学習をはじめることは可能なはずです。
エンジニアとしてもう1つ大切なことは、「使われる」ことを意識してシステムを構築することです。特にB2Bのシステムは、一般ユーザーである社員には選択権がありません。会社が選んだシステムを、使いづらいと思いつつ使っています。
そこにSoEの考え方はないのです。しかし、これからはそれでは不十分です。B2Bであっても、これからのサービス開発には、UX(ユーザーエクスペリエンス)やサービスデザイン的な考え方やスキルが必要です。
──エンジニアを採用する側、育成する側として注意すべきことはありますか。
及川氏:キャリアパスを専門職と管理職でしっかりと分けた方がよいと思います。現在は、ある程度の経験を積むと管理職になる会社が多いのですが、専門職のままでもしっかり評価される仕組みが必要です。一方、技術系の管理職は、技術の分かる人であるべきです。営業経験しかない人が、いきなり技術のトップになることは避けるべきでしょう。
ただし、エンジニアの採用にあたっては、工夫も必要になると思います。営業担当者が電話をガンガンかけているフロアに、サンダルをはいたエンジニアが昼過ぎに出社してきたら、不協和(ハレーション)も起きるでしょう。
また、データサイエンティストを雇うのであれば、年収1000万円前後が相場です。既存の社員とのあいだに、給与水準が異なることによる無用の摩擦が心配ならば、フロアを分けたり、別組織にしたりといった工夫は必要かもしれません。
【次ページ】及川氏の2030年予想:エンジニアは二極化する
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